第十二項 対峙

文字数 2,578文字

 「なんなんだあいつは!?」
それは異様な光景でした。地下鉄の入口で少年と別れ、私は彼のもとに引き返しました。そこで私は、改めて彼の異常さを認識するのです。
「だらぁああああ!」
結界の外から見えたのは、銀色の悪魔が炎を放ち
「お、おのれぇええええ!」
ハヌマーンが燃える様子です。
「ならぁああああ!」
彼はハヌマーンを斬りつけます。高熱で間接の強度が落ちたのでしょうか?彼の斬撃で右腕が斬り飛ばされます。
グギィウアアアアアアア!?
握られたマシンガンが、銃弾を撒き散らしながら吹き飛ばされて
「寝てろ!」
兆弾を器用に避けて、彼が再び銀色の悪魔を召喚します。悪魔に殴打されたハヌマーンは、半球の結果壁、見えない壁に叩きつけられました。

 ハヌマーンは崩れるように倒れました。前のめりになると背中が避けて、中からベースとなった男性がヌルリと出てきました。
「くっ……こいつ、本体を壊したのか」
トレーラーから出てきた女性が、吐き捨てるように言いました。銀色の悪魔の正拳突きが、ハヌマーンの胸部を陥没させました。中にいた男性は、打撃の衝撃をもろに浴びたのでしょう。脳を揺さぶられ、化け物の巨躯を操るどころか、意識を失っていました。
 「なるほどね。意識のない奴は操れないんだ。占い師さん」
「き、貴様ぁ~……」
「期待通りに動いてくれて、ホ~ント助かったよ」
「読んでいたのか?今日、この時間に、あそこに私が来るってことを」
「そりゃぁそうさ。通り魔事件に見せかけて、新世会に都合の悪いヒトを、何人も殺害してただろ?”家族を取り戻す会”の顧問弁護士とか、取材した記者さんたちとかさ。だから、今回もそうだろうと思ってた」
冷たく微笑む蓮野さん。そんな彼が、私に視線を向けます。
「今回のターゲットって、あの子……いや、あの子に宿ったアルドナイだろ?」

 ここで少しだけ、時間を遡ります。え?早く続きが知りたいって?ごめんなさい。そうだと思います。でも、今回出会ったおじいさんについて、ちょっとだけ説明させてください。
 「彼は、”レン”という名ではありませんか?」
おじいさんの問いに、私は驚いてしまいました。
「あ、あの……確かにレンって呼ばれてますけど、蓮野久希っていう名前で」
「おお!なんということだ!これは奇跡なのか?」
興奮する老紳士。そして彼は、私の知らない蓮野さんを語るのです。
 「今から30年も前の話だ。アルビジョワ解放戦争直後で混乱した日本に、近隣諸国が攻め込んできた。本州以外はことごとく戦場になった」
蓮野さんが生まれる前の出来事です。なのに
「昔と全く変わっていない。あの頃のままだ」
おじいさんは蓮野さんと一緒に戦ったというのです。
「あの……30年以上も前のお話ですよね?お会いになったのって、蓮野さんのお父さんとか、もしくは似た外見の方では?」
「いいや彼だ。銀色の悪魔を従えた、左利きの剣士。彼を、あの瞳を見間違えるものか!」
「そんなこと言っても……」
「確かにそうだ。彼と出会ったのは、助けてもらったのは30年以上も昔だ。中国軍だけでなく、”黒水・ハリバートン”まで」
「クロミズ・ハリ……?」
「黒水・ハリバートン。当時世界最大の民間軍事企業です。アメリカとアルビジョワ政府に傭兵として雇われた、私設軍隊です」
「どうしてそんな?」
「もし、どこかの国の軍隊や国連派兵軍が民間人を殺害すれば問題になる。だが、民間の軍隊がそれを行った場合は、各国政府は責任逃れができる。だから、各国政府は彼らを重宝し、自由にさせました。そのため彼らの残虐な行為は、どんどんエスカレートしていきました」
 彼は語りました。今回のように、密集地帯となった交差点でのテロ行為。多くの市民が虐殺されたことを。そこで命を落としそうになったとき
「彼と出会ったのです!」
信じられないことに、今と同じ外見で、銀色の悪魔を操っていたというのです。
「彼が還ってきた!今度こそ、世界を救うために!」
そして老紳士は興奮を抑えきれず、今来た道を引き返してしまうのです。

 「人気占い師の、糸田数季(いとだかずき)先生ですよね?本名は藤宮瑞穂(ふじみやみずほ)さんだったと思うけど」
「くっ……どうして本名(それ)を?」
「新世会の女性会員で、薬品に詳しいのって、貴女くらいだったから」
新世会、最近テレビでよく見る新興宗教団体です。アルドナイが全てを管理する社会で、何故か創設できた新興宗教団体。
「製薬会社で研究職に就いてたでしょ?医療用の麻酔薬がご専門だったっけ?」
「き、貴様……」
「ここからが本題だ。貴女、お子さんが亡くなって、そのあと新世会に入信したんですよね?引篭って一日中祈ってたり、お布施やらなんやらのトラブルを起こして、三年前に離婚した」
「そこまで掴んで……何だと!?」
会話の中で、突然占い師さんが大声をあげます。
「今頃、どうなってんのかなぁ~?」
蓮野さんが邪悪な笑顔を浮かべます。
「や、やめろ!あの子は、あの子だけは!」
何のことでしょう?占い師さんが、涙を流して取り乱しています。
「あの子は可哀想なんだ!私が、私が守ってあげなきゃ!」
 そこまで叫んで、彼女は何かに気づきました。
「しまった!」
蓮野さんの邪悪な笑顔が
「やっぱそうなんだね。貴女のキャフィスは”読心術”」
”予想通り”と言わんばかりの、勝ち誇ったドヤ顔になっていたことに。
「……貴様……わざと」
「ああ。タカくんだっけ?貴女が面倒見てる、教団の孤児」
話がよく見えません。そんな私たちの様子に気づいたのでしょう。
「ああ、解説しようか?」
彼が教えてくれます。
 「彼女が面倒見てる子供がいてね。その子を”俺の仲間が誘拐した”って想像してみたんだ。そしたら彼女、何も言ってないのに、動揺しちゃってさ」
そして彼女の方を見て
「読心術でもないと、こうはならない。だって俺たち、タカくんを誘拐してないし」
彼は彼女を騙したのです。彼女の一番脆いところを突いて、うっかり口を滑らせるように仕向けたのです。
「それなら、占い師ごっこを出来た理由もわかる。薬でボーッとしているときに、いろいろと悩み言い当てられちゃ、みんな貴女を信じちゃうもんね」
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登場人物紹介

桜苗沙希(さなえさき)(16)

ちょっと天然な、お菓子系の美少女。

パステルカラーがよく似合う。

幼い時に両親が離婚し、心に深い傷を隠し持っている。

それゆえか感受性が強く、不思議な青年、蓮に惹かれてしまう。

蓮野久季(はすのひさき)(21?) 通称:蓮(レン)

その経歴や言動から、とにかく謎の多い青年。

「黒い剣士、銀色の悪魔、ワケあり伊達眼鏡、生きる女難の相」など、いろいろ呼ばれている。

物語の核である、「グラマトン、プラヴァシー、継承者、閉じた輪廻」に密接に関わる、左利きの男。

セト

蓮が利用するアルドナイ(AI)

蓮を「兄サン」と呼び、主に情報収集と相談役として活躍する。

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