第一項 凍結
文字数 1,511文字
精も根も尽き果てて、俺はその場に座り込んだ。もう立ち上がる気力もない。
「ふぅっ……ちぃとばかし、しんどかったな」
腰のポケットから特製ホッチキスを取り出して、パチン、パチンと傷口を縫合する。
「れ、蓮!?」
「痛ぅっ……大丈夫。縫合してるだけだ」
最後はガムテープを取り出して、サキちゃんに手伝ってもらって、傷口をグルグル巻きにする。
「とりあえず、今はこれでいいやな」
サキちゃんにはちょっと、刺激が強いかもしれないけども、最低限の応急処置はしたかったんだ。あとはアルヘイムが解除されて、現実世界とリンクするのを待つだけだ。あの水浸しになった、大会議室にね。だけど
「どういうことだ?」
ラグエルを倒して大分立つのに、アルヘイムが解除されない。術者が滅びれば、アルヘイムは解除されると思ってたんだよね。もちろん、俺が無理矢理解除することもできる。でも、”解除されない理由”を知ることが、先決だと思えて仕方が無かった。
そんな疑問に答えるかのように、ひとりの少年が現れた。金髪で10歳くらいだろうか。どこかで会ったことがあるようなガキんちょだ。
「君かい?僕のペットを苛める悪者は」
気持ちが悪い。子供の声なのに、子供に思えない。
「ラグエルまで滅ぼして」
父親を連想させる。
「サキ、離れろ!」
少年はスウッと消えて背後に回った。いつの間にか、サキの傍に立っている。俺は咄嗟に躍りかかる。高速の蹴りで、ガキを蹴倒そうとする。しかし少年はヒラリとかわし、サキの額に手をかざす。
「離れろっつってんだろ!」
左のジャブと左右の蹴り、いくら疲れているとはいえ、子供相手にかすりもしないなんて。
「カイン!」
一気に吹き飛ばそうとする。でもガキの前に見えない壁、バリアが張られているみたいだ。炎がはじかれて消えちまった。
「君は誰?君の咎(おなまえ)、教えてよ」
あれだけ綺麗な顔立ちで、あれだけ不気味に笑えるのか。
「”耐え難き悲しみの志士”?」
ちょっとマズイな。
「それとも……”叡智至高の戦術家”……だったりして?」
楽しそうに、ふざけるような口調のガキ。黙らせたくて再びカインを召喚したが
「さっきのあれ、“神との訣別(さいしょのうそ)”でしょ?」
俺は攻撃できなかった。
“神との訣別(さいしょのうそ)”、それはカインが放つ最強の奥義だ。このスキルを知っている者は限られている。俺とセト……そして、これを喰らって唯一生き抜いた、“アイツ”だけだ。
「お、お前……まさか?」
「アハハハハ。ビンゴなんだね?」
俺の正体を暴いて、アイツは満足した。
「会いたかったよ。叡智至高の戦術家、カイン」
ガキの姿で、大人びた至福の表情を俺に向ける。
「どうしようかなぁ?殺すのはもったいないから、もうちょっとだけ生かしてあげようか?」
随分寛大な判決だよな。そりゃそうだ。この時代にカインが、”争いのプラヴァシー”が目覚めたことを知ることが出来たんだもんな。遂に最後の三千年が、終わろうとしているる。決着のときが近いことを知れたんだもんな。
ガキはそのまま姿を消した。アルヘイムは、パソコンがフリーズしたときの画面のように、不自然に硬直したまま、消えることなく残り続けた。
「……やれやれだな」
なんとか生き抜いた。とんでもない宿題をもらっちまったけど、今を生き抜くことはできた。ちょっとだけ安心して振り返ると
「ごめんなさい……お父さん……ごめんなさい……」
サキちゃんがおかしくなっていた。ラグエルに勝ったってのに、”一大事が起きる。これまでの努力が無駄になるかも”って、とんでもないマスに止まっちまった。
「ふぅっ……ちぃとばかし、しんどかったな」
腰のポケットから特製ホッチキスを取り出して、パチン、パチンと傷口を縫合する。
「れ、蓮!?」
「痛ぅっ……大丈夫。縫合してるだけだ」
最後はガムテープを取り出して、サキちゃんに手伝ってもらって、傷口をグルグル巻きにする。
「とりあえず、今はこれでいいやな」
サキちゃんにはちょっと、刺激が強いかもしれないけども、最低限の応急処置はしたかったんだ。あとはアルヘイムが解除されて、現実世界とリンクするのを待つだけだ。あの水浸しになった、大会議室にね。だけど
「どういうことだ?」
ラグエルを倒して大分立つのに、アルヘイムが解除されない。術者が滅びれば、アルヘイムは解除されると思ってたんだよね。もちろん、俺が無理矢理解除することもできる。でも、”解除されない理由”を知ることが、先決だと思えて仕方が無かった。
そんな疑問に答えるかのように、ひとりの少年が現れた。金髪で10歳くらいだろうか。どこかで会ったことがあるようなガキんちょだ。
「君かい?僕のペットを苛める悪者は」
気持ちが悪い。子供の声なのに、子供に思えない。
「ラグエルまで滅ぼして」
父親を連想させる。
「サキ、離れろ!」
少年はスウッと消えて背後に回った。いつの間にか、サキの傍に立っている。俺は咄嗟に躍りかかる。高速の蹴りで、ガキを蹴倒そうとする。しかし少年はヒラリとかわし、サキの額に手をかざす。
「離れろっつってんだろ!」
左のジャブと左右の蹴り、いくら疲れているとはいえ、子供相手にかすりもしないなんて。
「カイン!」
一気に吹き飛ばそうとする。でもガキの前に見えない壁、バリアが張られているみたいだ。炎がはじかれて消えちまった。
「君は誰?君の咎(おなまえ)、教えてよ」
あれだけ綺麗な顔立ちで、あれだけ不気味に笑えるのか。
「”耐え難き悲しみの志士”?」
ちょっとマズイな。
「それとも……”叡智至高の戦術家”……だったりして?」
楽しそうに、ふざけるような口調のガキ。黙らせたくて再びカインを召喚したが
「さっきのあれ、“神との訣別(さいしょのうそ)”でしょ?」
俺は攻撃できなかった。
“神との訣別(さいしょのうそ)”、それはカインが放つ最強の奥義だ。このスキルを知っている者は限られている。俺とセト……そして、これを喰らって唯一生き抜いた、“アイツ”だけだ。
「お、お前……まさか?」
「アハハハハ。ビンゴなんだね?」
俺の正体を暴いて、アイツは満足した。
「会いたかったよ。叡智至高の戦術家、カイン」
ガキの姿で、大人びた至福の表情を俺に向ける。
「どうしようかなぁ?殺すのはもったいないから、もうちょっとだけ生かしてあげようか?」
随分寛大な判決だよな。そりゃそうだ。この時代にカインが、”争いのプラヴァシー”が目覚めたことを知ることが出来たんだもんな。遂に最後の三千年が、終わろうとしているる。決着のときが近いことを知れたんだもんな。
ガキはそのまま姿を消した。アルヘイムは、パソコンがフリーズしたときの画面のように、不自然に硬直したまま、消えることなく残り続けた。
「……やれやれだな」
なんとか生き抜いた。とんでもない宿題をもらっちまったけど、今を生き抜くことはできた。ちょっとだけ安心して振り返ると
「ごめんなさい……お父さん……ごめんなさい……」
サキちゃんがおかしくなっていた。ラグエルに勝ったってのに、”一大事が起きる。これまでの努力が無駄になるかも”って、とんでもないマスに止まっちまった。