第十三項 ネタバラシ

文字数 1,386文字

 ここからは占い師さんの視点でお話しますね。
「お香やお茶に入れた”お薬”でさ、客を夢見心地にしてたよね。あとは思考を読んで過去を言い当てるだけ。コンプレックスを見抜いて、相手が欲しい答えを言ってあげる。これは効果的だ。んでもって、すっかり信じ込んだ相手に、”神のお告げ”と称して啓示を与える。犯罪を……行わせる。もともとアルコールや薬物依存になっていた帰還兵たちなんか、操りやすかったろ?」
 この男、異常だ……
「そこまで……わかって……」
「この間、あんたの占い館に行っただろ?アルマーニのお嬢さんと。そんときに出されたお茶、調べてみたんだよ」
「どうやって?出した紙コップは回収した。お茶もみんな飲み干していた。持ち帰るなど」
「奥歯に吸着剤を仕込んでてさ、いくらかは吸収できたんだ。あとはそれを抽出して分析するだけ。まあ、少しは飲んじゃったからさ、あのあと喉が変だったよ」
「そんな馬鹿な!貴様はあの日初めて来たんだ。私の読心術でも、そんなことは」
「できるんだって。あのお嬢、コネだけを理由に利用した訳じゃない。あの娘といるとイライラしてさ。流石の俺も、頭の中がストレスでパンパンになるんだよね。だから、貴女の異能でも俺の思考を読みきれなかったはずだ」
 危険な男だ……
「お膳立て、大変だったんだぜ?研究室の先輩方に、恋愛話で花を咲かせてもらう。でもって、あなたの相性占いのおかげで、彼氏が出来たって噂まで流して」
危険すぎる……
「真に受けたお嬢は、貴女の本で幸運な日取りを決めて、占いを予約する。そして相性占いに成功すれば、俺を落とせるって思わせる。面倒臭いだろ?」
今までに無いタイプだ。
「で、話を戻すけどさ」
雰囲気や物腰こそ穏やかだが
「娘さんを失って、苦しんでいたのはわかる」
言ってることも、身に纏うオーラも異常だ。夜よりも深く、絡みつくような闇を発している……
「でも、夫を放置してカルトに走るってのはどうだろう?親戚や友人の意見を無視して、”祈れば幸せになれる”って主張する団体に入っちゃうってのは」
わからない……今この場で思考を読めても、その心(ほんしつ)までは理解できない。
「どうかと思うよ?」
迂闊に近寄れば、私の方が飲まれるかもしれない……でも
「だまれ!」
反論してしまった。
「その教団に頼んで、復讐したんだろ?娘を殺した相手を、始末させたんだろ?」
「貴様に何がわかる!私は子供を殺されたんだぞ!」
 入信して異能を手に入れた。だからわかってしまったのだ。裁判の答弁で、あのガキが、娘を殺した少年が、全く反省していないことを!悪びれてもいないことを。弁護士の用意したセリフを、反省しているフリして喋っただけ。ただのセリフだった!それを裁く役人どもだって、形式通りのやりとりだけして、そんな状況を黙認しやがった。無責任なクズどもだ!
「そうだね。いくらアルドナイが監視するとはいえ、15歳未満はブレスレットを着用していない。少年犯罪だけは防げない。結局執行猶予がついた少年たちも、服役せずに遊び歩いてた。裁判所の関係者も、たくさん起きてる事件のひとつとして、ろくな調査もせず、判例に当てはめて処理した。赦せないのもわかる。でもね、そういうものなんだよ。人間なんて」
「ふざけるな!私は赦せない。どうして赦せるというんだ!」
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登場人物紹介

桜苗沙希(さなえさき)(16)

ちょっと天然な、お菓子系の美少女。

パステルカラーがよく似合う。

幼い時に両親が離婚し、心に深い傷を隠し持っている。

それゆえか感受性が強く、不思議な青年、蓮に惹かれてしまう。

蓮野久季(はすのひさき)(21?) 通称:蓮(レン)

その経歴や言動から、とにかく謎の多い青年。

「黒い剣士、銀色の悪魔、ワケあり伊達眼鏡、生きる女難の相」など、いろいろ呼ばれている。

物語の核である、「グラマトン、プラヴァシー、継承者、閉じた輪廻」に密接に関わる、左利きの男。

セト

蓮が利用するアルドナイ(AI)

蓮を「兄サン」と呼び、主に情報収集と相談役として活躍する。

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