第八項 さあ、悪夢ふたたび
文字数 1,446文字
「ごめんなさいね。こんな遅くに」
夜、さあおやすみなさいって時間に、家の電話がなりました。美津井先生です。
「どうしたんですか?こんな時間に?」
時刻は夜の9時、お堅い美津井先生から電話があるなんて、ちょっとびっくりです。
「実は、あなたのアルドナイについて、話したいことがあるの」
「アルドナイについてですか?」
「ええ」
「でも、もうこんな時間ですし……明日、学校ではだめでしょうか?」
「早い方がいいのよ。あなたのためにも」
先生にそこまで言われると、なんだか断るのが悪い気分になってしまいました。
「お母様はお仕事よね。さっき会社にお電話させていただいて、直接来て頂くことにしたから」
お母さんも合流するんだったら、行った方がよさそうですね。
「わかりました」
こんな時間に外出なんてちょっと不安ですが、私は先生ご指定のクリニックに向かうことにしました。
「甘かった……」
私の考えは大変甘かったです。デザートに食べた、シェフのオリジナルパンナコッタよりも激甘でした。だって先生が行った住所にはクリニックなんかなくて、先日の建築中のビルだったんですもの。
「どうしよう……またあんなのが出たら」
そう、神様は私に意地悪で
「キャアアアアア!」
とってもとっても意地悪で
「どうしよう、どうしようったらどうしよう?」
どうしても私のことを赦してくれないんです。だから私を追い詰めて、苦しめようとするんです。
私は走りました。必死に必死に走りました。でも、その化け物から逃げ切ることができなくて、遂に追いつかれてしまいました。先日と同じです。
「イタッ!」
裸足で走ったからでしょう、右足の裏を切ってしまいました。熱いものが滴り落ちるのを眺めながら、これが夢じゃないって悟りました。
「そうだよね……夢じゃ……ないもんね」
私は先生に嘘で呼び出されて、待ち構えていた化け物と遭遇したのです。
「なぁ~んだ……」
半ば諦めた私は、ここで化け物の餌食になることを選びました。これはたぶん、報いなのでしょう。あの日に犯した罪を、こういう形で償えってことなのかもしれません。
説明が足りなくてごめんなさい。ただ、生きる気力が続かないときってないですか?大っきな後悔があって、”もう、いいかな”ってときが。いっそひと思いに死なせて欲しいってときが……
そんな私に、大きな腕が迫ります。この右腕が、私の頭部を砕かんと振り下ろされるのでしょう。私は目を閉じて、終わりを待つことにしました。でも
『大丈夫ですよ』
今までダンマリだったアルドナイさんが、口を開くのです。
目を開けると、デジャブかと思いました。私の前に彼が立っているんです。最初に出会ったあの日のように。今度は、化け物の右腕を斬り飛ばして。
「ふぅ~っ……ぎりぎりセーフ!だよね?」
「は、蓮野さん?」
このヒトはまた
「レンでいいってのに」
夢の中にまで……いえ、これは夢じゃない。現実なんだ!
「にしても、こうも簡単に引っかかってくれるとはね。ヘカトンケイル君」
「ヘカトンケイル?」
「そ。生まれた時にさ、醜いからって親に捨てられた、可哀想な奴だ」
「は、はぁ」
「でもね、それはあくまで物語。あれは心が鬼と化して、怒りに溺れた哀れな女」
私が落ち着いたと見て取った彼は穏やかな笑顔を内側にしまって
「人を殺す術を手に入れてしまっただけの、どこにでもいる普通のヒトだ」
鋭い眼光を、ヘカトンケイルに向けていました。
夜、さあおやすみなさいって時間に、家の電話がなりました。美津井先生です。
「どうしたんですか?こんな時間に?」
時刻は夜の9時、お堅い美津井先生から電話があるなんて、ちょっとびっくりです。
「実は、あなたのアルドナイについて、話したいことがあるの」
「アルドナイについてですか?」
「ええ」
「でも、もうこんな時間ですし……明日、学校ではだめでしょうか?」
「早い方がいいのよ。あなたのためにも」
先生にそこまで言われると、なんだか断るのが悪い気分になってしまいました。
「お母様はお仕事よね。さっき会社にお電話させていただいて、直接来て頂くことにしたから」
お母さんも合流するんだったら、行った方がよさそうですね。
「わかりました」
こんな時間に外出なんてちょっと不安ですが、私は先生ご指定のクリニックに向かうことにしました。
「甘かった……」
私の考えは大変甘かったです。デザートに食べた、シェフのオリジナルパンナコッタよりも激甘でした。だって先生が行った住所にはクリニックなんかなくて、先日の建築中のビルだったんですもの。
「どうしよう……またあんなのが出たら」
そう、神様は私に意地悪で
「キャアアアアア!」
とってもとっても意地悪で
「どうしよう、どうしようったらどうしよう?」
どうしても私のことを赦してくれないんです。だから私を追い詰めて、苦しめようとするんです。
私は走りました。必死に必死に走りました。でも、その化け物から逃げ切ることができなくて、遂に追いつかれてしまいました。先日と同じです。
「イタッ!」
裸足で走ったからでしょう、右足の裏を切ってしまいました。熱いものが滴り落ちるのを眺めながら、これが夢じゃないって悟りました。
「そうだよね……夢じゃ……ないもんね」
私は先生に嘘で呼び出されて、待ち構えていた化け物と遭遇したのです。
「なぁ~んだ……」
半ば諦めた私は、ここで化け物の餌食になることを選びました。これはたぶん、報いなのでしょう。あの日に犯した罪を、こういう形で償えってことなのかもしれません。
説明が足りなくてごめんなさい。ただ、生きる気力が続かないときってないですか?大っきな後悔があって、”もう、いいかな”ってときが。いっそひと思いに死なせて欲しいってときが……
そんな私に、大きな腕が迫ります。この右腕が、私の頭部を砕かんと振り下ろされるのでしょう。私は目を閉じて、終わりを待つことにしました。でも
『大丈夫ですよ』
今までダンマリだったアルドナイさんが、口を開くのです。
目を開けると、デジャブかと思いました。私の前に彼が立っているんです。最初に出会ったあの日のように。今度は、化け物の右腕を斬り飛ばして。
「ふぅ~っ……ぎりぎりセーフ!だよね?」
「は、蓮野さん?」
このヒトはまた
「レンでいいってのに」
夢の中にまで……いえ、これは夢じゃない。現実なんだ!
「にしても、こうも簡単に引っかかってくれるとはね。ヘカトンケイル君」
「ヘカトンケイル?」
「そ。生まれた時にさ、醜いからって親に捨てられた、可哀想な奴だ」
「は、はぁ」
「でもね、それはあくまで物語。あれは心が鬼と化して、怒りに溺れた哀れな女」
私が落ち着いたと見て取った彼は穏やかな笑顔を内側にしまって
「人を殺す術を手に入れてしまっただけの、どこにでもいる普通のヒトだ」
鋭い眼光を、ヘカトンケイルに向けていました。