第十五項 黒い女神

文字数 754文字

 「ああああああああ!」
怒りに飲まれた彼女は、咆哮を上げながら憎悪へと身を投じました。首筋に注射器を打ち立てて、ハヌマーンの肉塊に、獣のような身のこなしで飛び乗りました。そのまま肉塊と融合し、さらに大きな化け物へと変身してしまいます。爛れたハヌマーンの血液が、女性の形に変化した顔に滴り、みるみるうちに黒ずんでいきます。
「黒い顔……怒りがその色に染めるのか」
彼は辛そうに、変身、いえ、壊れていく彼女を見つめていました。
「……カーリーか……」
カーリー。ヒンドゥー教の女神で、女神ドゥルガーが怒りで顔を黒くしたときに生まれたとされます。その手には、殺した神々の首をぶら下げているとも言われています。
「残念だよ……」
ハヌマーンを取り込み、更なる化け物と化した彼女は、六本の腕に武器を握りました。道端に落ちていた、折れた道路標識で蓮野さんを狙います。

 「生に意味なんてない」
喉に小石が詰まっているような、涙を堪えるあの声で
「答えなんて……どこにも無い……でも、それでも俺は!」
まるで、自分に言い聞かせるように呟いて、彼は攻撃を始めます。カーリーが振り回すポール。道路標識の”止まれ”や”通学路”が、縦横無尽に振り回されます。死角はないと思えるそれを、彼はいとも容易く掻い潜ります。そして、涙を堪えて抜いた刀が、カーリーを切り刻みました。何故か、武器を持った腕を外しています。
「このガキャァアアアア!」
だからカーリーは、多少刻まれようとも、攻撃を繰り返しました。でも、まったく歯が立ちません。カスリもしないのです。叫びと同時に振り降ろされた金属棒が、彼の刀に容易く弾かれ、いえ、受け流されて軌道を変えられ
「な、何故だ!?」
次の瞬間、水平に放たれた剣閃が、カーリーの両膝を叩き割りました。
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登場人物紹介

桜苗沙希(さなえさき)(16)

ちょっと天然な、お菓子系の美少女。

パステルカラーがよく似合う。

幼い時に両親が離婚し、心に深い傷を隠し持っている。

それゆえか感受性が強く、不思議な青年、蓮に惹かれてしまう。

蓮野久季(はすのひさき)(21?) 通称:蓮(レン)

その経歴や言動から、とにかく謎の多い青年。

「黒い剣士、銀色の悪魔、ワケあり伊達眼鏡、生きる女難の相」など、いろいろ呼ばれている。

物語の核である、「グラマトン、プラヴァシー、継承者、閉じた輪廻」に密接に関わる、左利きの男。

セト

蓮が利用するアルドナイ(AI)

蓮を「兄サン」と呼び、主に情報収集と相談役として活躍する。

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