第七項 占いもほどほどに
文字数 1,858文字
「強制デート……別名”赤紙(アカガミ)”」
「ア、アカガミ?なんかすごいネーミングですね」
第二次世界大戦の強制徴兵……そんな言葉をここで聞けるなんて……
え?何をしているのか、ですか?私たちは今、ヤスさんと一緒に、蓮野さんたちを尾行しています。研究のためのフィールドワークと称した、理不尽な占いデートをです。サラさんは、占いの信憑性を統計的に研究するために、蓮野さんを同行させているようです。ちなみに彼女はゼミにまだ配属されていませんから、そもそも調査とかする必要もないそうですが……
「これで何件目だよぉ~?」
ヤスさんが、疲れたというか呆れたというか、ぐったりしながらペットボトルのお茶を飲み干します。大学を出たのが午後2時頃、既に占い4件(1回30分)と移動時間で、5時45分になりました。とはいえ、ここがテレビでも有名な占い師さんのところで、さすがに最後になると期待しています。
「あ、出てきた!」
2人が目の前を歩いていきましす。物陰に隠れる私たちの目の前を、なんとも形容しがたい雰囲気で、通り過ぎて行きました。サラさんはとっても嬉しそう。で、蓮野さんには死相が出ています。
「満面の笑みだったな……」「うん……すっごい笑ってた……」
メグ兄妹が呆気にとられ
「お嬢だけが!」
最後は見事なハーモニー。
「よっぽどいい結果が出たんじゃない?相性占いかなんかで……」
その異常な光景を目の当たりした私たちは、かなり動揺していたようです。足元に転がっていた猫避けペットボトルを、うっかり蹴倒してしまたったのですから。
ポコンッ……
そんな音がしたもんだから
「あら?あなたたち」
見つかってしまいました!当然、見つかってしまうのです。
「やべっ!逃げろ!」
ヤスさんがクラウチングスタートの体勢に入ったとき
「待ってくれ!」
蓮野さんが震える声で叫びました。
「置いて……置いて行かないで……」
「あなたの前世は」
大変でした。
「”臼(うす)”です……だってさ」
笑いを堪えるのが……
「んなこと言われても、どうリアクションしろってんだか。俺の前世は、猿蟹合戦にでも出演してたのか?」
お腹を押さえながら
「なんだよぉ~、他人事だと思って」
声を殺して笑う私たちに、蓮野さんがむくれています。だっていきなり、”前世が臼”とか言われたら、びっくりしちゃうじゃないですか。笑っちゃうじゃないですか。普通、動物とか歴史上の人物だったりするのに、臼なんですよ?大樹とかでもなく、木を削ったあとの、臼なんです。他にも
「今日のラッキーからはピンクで、ラッキーアイテムはクサヤだとか言って……」
この占い結果が、既にアンラッキーです。
「”ピンクのジャケット着て、ポッケにクサヤを入れろ”とかさぁ~」
残念にも程があります。そんな蓮野さんとは対照的に
「でも、最後の占い師さんは信頼できるのよ」
サラさんは上機嫌です。私たち全員にご馳走してくれるくらい。
「ねぇ、みんなにも教えてあげてよ」
尾行がバレた私たちを、近くのカフェに誘うくらいに。
「ふぅっ……なんか俺、年下の女の子と運命的な出会いを果たしたんだってさ」
「え?それって」
私が思わず口を挟むと
「私のことでしょう!」
サラさんが力強く、私の言葉を打っちゃりました。えっ!なんでそうなるの!?
「年下で可愛くって、蓮のことが気になって仕方がない女の子。それって絶対私のことだもの!」
すごい自信……”年下で蓮野さんが気になってる”なら、私も当てはまると思います。でも、”可愛い”を付けられたら、普通辞退しませんか?私なら不戦敗を選びます。でも
「でねでね」
サラさんの興奮は収まらず
「2人は一緒に困難を乗り越えて、熱烈な恋に落ちるんだって!」
それから彼女は語り続けました。6人で囲むテーブルには、サラさんの声だけが響き続けました。ご自分と蓮野さんが、いかに運命的に結び付けられているか、耳にタコができるくらい、聞かせていただきました。もう、お腹いっぱいです。妄想と惚気話で胸焼けがしてきました……蓮野さんは、泣きそう表情で俯いて、テーブルのシミを数えています。
「今度、東京のお父さんに紹介するね!」
東京のお父さん。それはサラさんが父のように慕っている、森柴学部長様のことのようです。そんな方に紹介して、蓮野さんを逃がさないつもりのご様子です。
こうして彼女は、その森柴学部長と約束のディナーの時間まで、楽しそうに暴れていきました。
「ア、アカガミ?なんかすごいネーミングですね」
第二次世界大戦の強制徴兵……そんな言葉をここで聞けるなんて……
え?何をしているのか、ですか?私たちは今、ヤスさんと一緒に、蓮野さんたちを尾行しています。研究のためのフィールドワークと称した、理不尽な占いデートをです。サラさんは、占いの信憑性を統計的に研究するために、蓮野さんを同行させているようです。ちなみに彼女はゼミにまだ配属されていませんから、そもそも調査とかする必要もないそうですが……
「これで何件目だよぉ~?」
ヤスさんが、疲れたというか呆れたというか、ぐったりしながらペットボトルのお茶を飲み干します。大学を出たのが午後2時頃、既に占い4件(1回30分)と移動時間で、5時45分になりました。とはいえ、ここがテレビでも有名な占い師さんのところで、さすがに最後になると期待しています。
「あ、出てきた!」
2人が目の前を歩いていきましす。物陰に隠れる私たちの目の前を、なんとも形容しがたい雰囲気で、通り過ぎて行きました。サラさんはとっても嬉しそう。で、蓮野さんには死相が出ています。
「満面の笑みだったな……」「うん……すっごい笑ってた……」
メグ兄妹が呆気にとられ
「お嬢だけが!」
最後は見事なハーモニー。
「よっぽどいい結果が出たんじゃない?相性占いかなんかで……」
その異常な光景を目の当たりした私たちは、かなり動揺していたようです。足元に転がっていた猫避けペットボトルを、うっかり蹴倒してしまたったのですから。
ポコンッ……
そんな音がしたもんだから
「あら?あなたたち」
見つかってしまいました!当然、見つかってしまうのです。
「やべっ!逃げろ!」
ヤスさんがクラウチングスタートの体勢に入ったとき
「待ってくれ!」
蓮野さんが震える声で叫びました。
「置いて……置いて行かないで……」
「あなたの前世は」
大変でした。
「”臼(うす)”です……だってさ」
笑いを堪えるのが……
「んなこと言われても、どうリアクションしろってんだか。俺の前世は、猿蟹合戦にでも出演してたのか?」
お腹を押さえながら
「なんだよぉ~、他人事だと思って」
声を殺して笑う私たちに、蓮野さんがむくれています。だっていきなり、”前世が臼”とか言われたら、びっくりしちゃうじゃないですか。笑っちゃうじゃないですか。普通、動物とか歴史上の人物だったりするのに、臼なんですよ?大樹とかでもなく、木を削ったあとの、臼なんです。他にも
「今日のラッキーからはピンクで、ラッキーアイテムはクサヤだとか言って……」
この占い結果が、既にアンラッキーです。
「”ピンクのジャケット着て、ポッケにクサヤを入れろ”とかさぁ~」
残念にも程があります。そんな蓮野さんとは対照的に
「でも、最後の占い師さんは信頼できるのよ」
サラさんは上機嫌です。私たち全員にご馳走してくれるくらい。
「ねぇ、みんなにも教えてあげてよ」
尾行がバレた私たちを、近くのカフェに誘うくらいに。
「ふぅっ……なんか俺、年下の女の子と運命的な出会いを果たしたんだってさ」
「え?それって」
私が思わず口を挟むと
「私のことでしょう!」
サラさんが力強く、私の言葉を打っちゃりました。えっ!なんでそうなるの!?
「年下で可愛くって、蓮のことが気になって仕方がない女の子。それって絶対私のことだもの!」
すごい自信……”年下で蓮野さんが気になってる”なら、私も当てはまると思います。でも、”可愛い”を付けられたら、普通辞退しませんか?私なら不戦敗を選びます。でも
「でねでね」
サラさんの興奮は収まらず
「2人は一緒に困難を乗り越えて、熱烈な恋に落ちるんだって!」
それから彼女は語り続けました。6人で囲むテーブルには、サラさんの声だけが響き続けました。ご自分と蓮野さんが、いかに運命的に結び付けられているか、耳にタコができるくらい、聞かせていただきました。もう、お腹いっぱいです。妄想と惚気話で胸焼けがしてきました……蓮野さんは、泣きそう表情で俯いて、テーブルのシミを数えています。
「今度、東京のお父さんに紹介するね!」
東京のお父さん。それはサラさんが父のように慕っている、森柴学部長様のことのようです。そんな方に紹介して、蓮野さんを逃がさないつもりのご様子です。
こうして彼女は、その森柴学部長と約束のディナーの時間まで、楽しそうに暴れていきました。