第二項 救いたい

文字数 749文字

 「くそっ!どうして気づかなかった!もともと感染してたんだ。だから夢で俺の過去を!」
俺は急いでプラヴァシーを展開した。プラヴァシーのスキルでアルヘイムを脱出し、自室にサキを連れて帰る。サキは塞ぎこみ、俺の声には反応しない。自分の殻に閉じこもり、このままでは二度と目を覚まさないか、心を喰われて壊れてしまう。
『彼女ノ体内ニ、アルヘイムノ反応ガアリマス』
「キャフィスか?くそっ!」
俺は動揺していた。だから仲間に相談するより先に、彼女の心にダイブすることを選んでしまう。プラヴァシーを通して自身の心を、直接彼女に送り込むのだ。
「セト、サポート頼む!」
『兄サン、危険デス』
「わかってる!でも、このままにできねぇんだよ!」
セトが止めるのも聞かず、俺は彼女の中にダイブした。

 ダイブしてすぐ、彼女にそっくりな、あのイレギュラーなアルドナイが現れた。確か、”アーちゃん”だっけ?彼女は少し辛そうに微笑みながら、俺を導いてくれた。彼女の指さす先に、俺はあの子を見つけることができた。
 心の底、無意識を形成する深淵で、彼女が泣いている。うずくまって、体育座りしている幼女が、しくしくと泣いている痛々しさが、俺の心を掻き毟る。
「幼児退行してるのか……やっかいだな」
 無意識の底で見せる姿は、心の傷を表現している場合が多い。トラウマを抱えたか、思い入れが強い何かがあるのか。
「どうやって拾う?」
子供の姿、サルベージするのにこれ以上厄介なものは無い。あれは心の傷なのだから。
「迷うな……あの娘を助けたいんだろ?なら、手段を選ぶ余裕は無いんだ」
俺は自分に言い聞かせ、プラヴァシーを展開する。彼女の心とシンクロさせて、自らの姿を創りかえる。彼女の心に強く残る大切なヒト……父親の姿を模倣する。
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登場人物紹介

桜苗沙希(さなえさき)(16)

ちょっと天然な、お菓子系の美少女。

パステルカラーがよく似合う。

幼い時に両親が離婚し、心に深い傷を隠し持っている。

それゆえか感受性が強く、不思議な青年、蓮に惹かれてしまう。

蓮野久季(はすのひさき)(21?) 通称:蓮(レン)

その経歴や言動から、とにかく謎の多い青年。

「黒い剣士、銀色の悪魔、ワケあり伊達眼鏡、生きる女難の相」など、いろいろ呼ばれている。

物語の核である、「グラマトン、プラヴァシー、継承者、閉じた輪廻」に密接に関わる、左利きの男。

セト

蓮が利用するアルドナイ(AI)

蓮を「兄サン」と呼び、主に情報収集と相談役として活躍する。

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