第七項 秘密

文字数 932文字

 いろんな情報(こと)が流れ込んできました。あとでわかるのですが、セトさんと私のアルドナイ、アベルさんの仕業のようです。映像の断片が走馬灯のように高速で流れてきて、そこにはいろんな時代の、いろんな戦争がありました。巻物とか、壁画とか、そういうものに残っているような、旧い時代のものもありました。そこに彼がいたような気がします。見た目は違うけど、確かに彼がそこにいたんです。何度も生まれ変わって、いろんなところで、いろんな時間で、彼は戦ってきたのです。でも、以前の彼はプラヴァシーを宿していないみたいで。
 ここで映像が変わります。今度は彼の、今の蓮野さんの記憶です。感染した両親を焼き殺して、戦友が爆死して、腕の中で血まみれの女性が亡くなって……叫び声とともに銀色の悪魔へと化し、眩い光が全てを飲み込みました。黒い火柱が、全てを滅しました。
 ほんの一瞬の出来事でした。でも、私は垣間見ることができました。彼が抱えている苦しみ、想像を絶する悲しみを……激しすぎる後悔と、罪の意識を……
「あなた……は」
どれだけの悲しみを抱えてるの?どれほどの罰と一緒にいるの?
 声にならない私の声は、小さくて、小さすぎて、彼には届きませんでした。

 最後に少しだけ、優しい映像が流れてきました。小学生くらいの中東系の少年少女。少年は12歳くらいでしょうか。少女の方は、まだ小学校に入る前かな?その2人と彼が、幸せそうに遊んでいます。まるで父親であるかのように……その兄妹を慈しんでいるのが分かります。そしてもうひとり、とても可愛い、1歳くらいの幼女が見えました。その子への強い愛情、狂おしい程の想いと、幸せへの願いが流れ込んできます。
 それと同じ想いが、今、私にも向けられている……それが私の激情を、ゆっくりと溶かしてくれて……
 映像が終わったとき、彼の姿がフラッシュバックしました。化け物になってしまったヒトたちを、必死に救おうとしていた。最後まで諦めず、命をかけて諭していました。そして泣きながら葬って……
「ああ……そうだ」
優しいんだ……このヒト……
 苦しみと悲しみを知るヒトの、優しさ(ほんもの)に包まれて
「ありがとう……」
心を取り戻すことができました。
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登場人物紹介

桜苗沙希(さなえさき)(16)

ちょっと天然な、お菓子系の美少女。

パステルカラーがよく似合う。

幼い時に両親が離婚し、心に深い傷を隠し持っている。

それゆえか感受性が強く、不思議な青年、蓮に惹かれてしまう。

蓮野久季(はすのひさき)(21?) 通称:蓮(レン)

その経歴や言動から、とにかく謎の多い青年。

「黒い剣士、銀色の悪魔、ワケあり伊達眼鏡、生きる女難の相」など、いろいろ呼ばれている。

物語の核である、「グラマトン、プラヴァシー、継承者、閉じた輪廻」に密接に関わる、左利きの男。

セト

蓮が利用するアルドナイ(AI)

蓮を「兄サン」と呼び、主に情報収集と相談役として活躍する。

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