第148話 獣

文字数 514文字

巷に信義が薄れていく。
以前であれば、其れは不味いだろう、とか
君はそういう事をする奴だったのか、と
人に見られることが不義の抑止力になったのだが、
今は対話を絶って、人は力の論理で押し通ろうとする。
世間からどう見られるかは、眼中に無いのだ。
格差社会が進んで、
何の力もない世間など気にすることはない
という判断なのだろう。
確かに、肉を取るための家畜など
餌とワクチンを与えたら、あとは係の者に任せて、
その様子を気にしたりはしない。
況して家畜相手に、まともに話をしようなどとは思う筈がない。
精々エヘラエヘラ馬鹿にした嗤いを浮かべるだけだ。

一部の人間には、生きるとは権力闘争なのだろう。
それなりに勝ち残っている少数者には、そういう考え方が都合がいいわけだ。
社会の下層に蠢く大衆は、ただの敗者であって、
勝者にはその面倒を見る義務は無い。
議員にしても、それは地元で世襲される家格であり、身分なのだ。
殿様なのである。
だからあとは、公費で海外の要人と会ったり、
高級ワインでも堪能していればそれでいいのだ。

誰もが地上にあって、他人より永く生き残りたい。
それは生物の本能だから、止めることは出来ない。
終に人間の歴史は、獣の本能を凌駕することが出来なかった。
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