第79話 軌跡

文字数 308文字

五十代になって、腕や肩の肉が落ちた。
六十代になって、歯が弱くなった。
躰から力が失われていくのを、年ごとに確認しながら、季節を見送る。
其れが老いていくという事なのだろう。

何の縁で此の地上に召喚されたのか、
それは兎も角、其の生涯を十全に生きたと言えるだろうか、と振り返ってみる。
答えは勿論無いが、酒を飲み、大笑いをしていたかと思えば、あっという間に
半世紀が過ぎた。

もう人の事は気にならない。
自分の始末をするだけである。

人は地上に観光に来たのではない。
況て蓄財では無い。
神がいるなら証明してみろと尊大に構えた者も
やがてその時が来る。
そこで人間の貧しい感想など、述べて何になろう。

感謝と礼賛の言葉を学び
油を用意して待つだけだ
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