第42話 愛する

文字数 364文字

 敗戦後二十年位は、都内の住宅地でも、
 お盆の夕方になると、なすときゅうりに割り箸を立てて
 先祖の霊を迎える火を、玄関に焚く家があった。
 
 国も国境もない頃から、ご先祖様がいて今自分がいるわけだから
 先祖の霊を大切に思う気持ちを持つのは、人間であれば当然のことだ。
 自分が生まれ育った土地を、大切に思わぬ者などいるはずがない。

 名誉だとか、威信だとか、
 派手派手しいパフォーマンスばかりの画面を押し付けられて
 心が疲れる 浮薄の世の中に今はなってしまった

 涼しい風が吹き始めた夕暮れ 在りし日の思い出に浸りながら
 マッチでつけた火が、先祖の霊を迎える目印として燃え尽きるのを
 ゆったりと待つ そういう贅沢な時間が、かつてあったことが嘘のようだ

 愛するというのは きっとそういう時間の中に育まれていく
 地道で名も無い行為なのだ

 

 
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