第三十三話 回復のストレージ後編 今の俺にできること
文字数 3,085文字
頭の中をよぎる言葉。
──作戦失敗──
あと30分もあれば、ダーククラフトル彗星を消失させることができた。
だが、あと数分で地球へ激突する距離のうえ、大きさは直径20キロメートル以上もある。
たとえ破壊したとしても、被害は覚悟しなければならない。
この位置では破壊しても破片が飛び散って被害が出る……。
かといって、軌道を変える時間もない。たとえあったとしても、何らかの意思が働いて地球へ軌道を修正してくる。
なるべく被害を出さないためには、こいつの前に出なければならない。
大気圏突入……耐えられるか……!
ダーククラフトル彗星とほぼ同時に大気圏へ突入。
そして、破壊目標の前へ出た。
速度を維持したまま体を反転させ、やがて地上付近へとたどり着き、ブレーキをかける。
地上を背にした巧人は両腕に破壊の力を溜め込み、地球へ落下するダーククラフトル彗星と真正面から対峙した。
だが、ダーククラフトル彗星が巧人に近づくと、突然、先ほどと同じような光が発生する。その後、光が収まると、目の前にあったはずのダーククラフトル彗星は、巧人の目の前から跡形もなく消えていた。
するとそこは、大気圏付近の上空。地球に向けて落下中のダーククラフトル彗星の後方だった。
…………。
けど、いざやってみると、うまくいかないときもあるんだな。
…………。
俺はきっと、この日のために生まれてきたようなものかもしれない。
ここで俺が何もしなければ、俺は助かるだろう。
けれども、それで胸を張って助かったと言えるのだろうか。
それは、ただの逃げだ。何もやったことにはならない。
俺は、逃げるためにここにいるんじゃない!
状況は最悪。
提案された希望の光。
未知のリスク。
だが、決断には、そう時間はかからなかった。
(いきなりかよっ!)
タイツスーツはゴムのように潰れる。体は、組成を維持してはいるが形状を維持する力はない。通常なら骨は粉々、脳も思考を停止するほどの状況だ。ただ、タイツスーツがその体を保持し、原型をとどめている。
爆速で加速した巧人は、再びダーククラフトル彗星の前に出た。
だが、残りの貯蔵クラフトル粒子量は200000を切っていた。
せめて、あと300000あれば破壊は可能だった。
この量では、破壊には至らない。
今の俺には……
何ができる!!
クラフトル粒子を拡散させ、近くにいるクラフターストライカー、もしくは人間に協力を求める。
我々は、クラフトル粒子濃度の上昇と情報伝達だけ行えばいい。
クラフトル粒子濃度さへ上昇すれば、能力のないものにでも、能力がつく。
適性のあるものは、能力を発動できるだろう。
あとは、この地球の人間次第だ。
今、地球は危機的状況だ。
だが、この声が聞こえているなら、君たちにも、力が備わるはずだ!
なんでもいい、家族を守る、友人を守る、恋人を守る、財産を守る、全てを……。
とにかく、守るをイメージするんだ!
俺は、やれることをやる!
君たちにも、やれることがあるはずだ!
だから、絶対にあきらめないでくれ!
クラフトル能力を犠牲にして放った巧人の一撃は、高倍率の力を帯び、ダーククラフトル彗星の半分とコアを破壊した。
破壊したコアは光を放つ。その光は巧人を直撃し、その影響で力尽きて海へと落下する。
その奮闘空しく彗星の残りの半分は地球へと激突。
地殻津波を引き起こし、地球を飲み込み始める。
だが、破壊されたダーククラフトル彗星は、通常のクラフトル粒子へと浄化され、巧人の声を乗せて世界各国にものすごい勢いで拡散していった。
その後、世界各地で数多くのオーロラ現象と台風並みの風が巻き起こる。
この異常な事態に世界の人々は気づき、巧人の声を聞き届けた人々は「守る」を願う。
その強力な願いに反応したクラフトル粒子は一時的にではあるが、黄金の光の壁を作り出し、滅びの影響を弱めた。
この黄金の奇跡は、メテオインパクトの被害を半分に抑えたのだった。
少しづつだが、世界の人々は生きる気力を取り戻していく。
そして、新たな力、クラフトによる世界の変革が始まる。
一見、ボロボロになったケブラー繊維に見えましたが、それとはまた別の強力な繊維でできています。
この強度の繊維がボロボロになるなんて……いったいどんなことをすれば……。