第五十一話 紅葉VSファースト
文字数 2,833文字
だが、力を温存しようとするあまり、気を抜いてしまう。
紅葉が気を抜いた瞬間をファーストは見逃さなかった。
ファーストは一瞬拳を引いてタメを作る。そして、強烈な一撃を繰り出す。
紅葉はその攻撃を受け、激しく吹っ飛んだ。
ファーストは、黒いもやを出現させた。
黒いもやは、一気に広がり周囲を覆い隠すように広がっていく。
そのもやは、紅葉とファーストのいる場所を包み込み、やがてドーム状となった。
とても勘のいい人間がいるな。褒めてやろう。
だが……それは無理。
一人ではここの力の供給を止めることはできない。
破壊してもすぐに再生し、供給は再会されるのさ。
システムを構築したのは、わたしだからねぇ……フフフ。
そして体を回転させ、遠心力を増大させる。
鋭い回転は、ファーストに軽く刃先をつままれ、一瞬で止められてしまう。
それは、思考を停止するのと同じこと。
一つのことしか考えていない状態のことだ。
何かをしている時に思考するプロセスを使うと、失敗する。
けれども、何も考えない方がうまくいく。
ただ、一つのことのために……おまえはそうやって生きてきた。
ゆえに、おまえの思考は読みやすい。
ダークネスアクセスを使っておまえの思考を読むまでもなかった……。
おまえはただの、単細胞生物だ!
そう考えているんだろう。
そんな事では、わたしに勝つことはおろか、この世界ですらうまく渡り歩くことも容易ではない。
だが、このわたしに頑張ってついてくれば、それを変えられるかもしれんぞ。
どうだ。このわたしに忠誠を誓ってみないか。
もし、無我夢中にわたしの元で修行することができたなら、この世界で素晴らしいと評される人間になれる。
その拳から黒いオーラの塊が大量に噴き出した。
無数のオーラが紅葉を襲う。
盾は、ファーストの放った無数のオーラをことごとく弾き飛ばした。
さらに紅葉は、その盾を持ってファーストに突っ込み、体当たりを放つ!
その後、ファーストは回し蹴りで紅葉の背中を蹴り飛ばし、紅葉を進行方向へと吹っ飛ばす。
もちろん、イージスアタックは必殺技としてストラクチャーユニットに認識されてはいない自称必殺技だ。
自称必殺技は、相手が強ければ強いほど、その性質を自傷必殺技に変える。
乱用は禁物なのである。
その場を埋め尽くすほどのオーラが紅葉に向かって飛んでくる。
紅葉は急いで体制を立て直し、盾を構えた。
手持ちの攻撃手段を無効化された紅葉は、身を守ることだけに徹底した。
と言うよりは、それしか思い浮かばなかったと言った方が正解だろう。
だが、それが功を奏したのか、イージスの絶対防御は、紅葉に考える時間を与えてくれていた。
そんな挑発……!
…………。
(わたしは他の二人みたいに、頭良くないし、機転も利かない。だから、選択肢なんて持ってない)
…………。
(出し惜しみして戦ったらこっちがやられるだけ。なら、巧人くんには悪いけど、全力をためすしかない!)
…………。
(それに、攻撃を受けるのはしょうがない。こっちだって、相手に攻撃するんだ……そのぐらい、覚悟しなきゃ……)
…………。
(必殺技……わからない。本当にできるかどうか……でも、やるしかない!)
倒しても復活されて、泥沼になるかもしれない。
それでも、どうにかすると心に誓った。
そして今……相手を倒す……それだけのことに集中する。
あとは、タイミングを待つのみだった。
ファーストが、タメを作る一瞬の隙を紅葉は見逃さなかった。
紅葉は叫ぶ。
紅葉の体は激しく輝き、オーロラのような羽衣をまとう。
その光は収束し、第二形態、暁のヴァルキリーへと変身した。