第四十一話 九条との再会
文字数 2,266文字
巧人たちは、西の湖への出発直前、老紳士姿の
九条と鉢合わせになる。
タイミングが良すぎると感じた巧人は、警戒して身構え、九条にこの黒いドームの一件を問いただそうとする。
九条! おまえ……これは一体どういうことだ!
こんなにダーククラフトルのドームを広げ……人を閉じ込めて……。いったい何がしたんだ!
それと……草香は無事なのか!
ふむ……残念ですが、わたしにはわかりかねます。
すべてはあの方のさじ加減次第。
もうあの方は、わたしの手を離れてしまいました。
こうなってくると、わたしどもの方では手を出せないのですよ。
九条……九条………………!
まさか、この人は……伝説的な人気を誇るVRMMOを制作した会社の親会社。
九条グループのCEO!
この人が黒幕だったのですか……。
心外ですねぇ。
それだと、わたしが全てやったかのように聞こえてきます。
わたしはただ、人々の力を集めただけにすぎません。
それに、すべてはあの方の意思だったのですよ。
覚醒には若干、早すぎた感はありますが……。
ふざけるな!
タクトは元々そんな意思など持っていない。
ダーククラフトルの繭を使ってに妄想の念をタクトに送り込み、同調させたんだろう!
ふむ……どうやらあたなは誤解をしている。
そんな方法など、あの方を発見した当時のわたしには見当もつきませんでした。
わたしは一時、あの方と呼んでいる物体が作り出す繭に取り込まれました。
その時に、わたしはあの方と同調できたのです。
そして、知ったのですよ。
これは妄想を具現化する力なのだと。
その先駆者としてわたしは選ばれたのですよ。
ちがう……それはお前の勝手な思い込みだ!
タクトのその行為は、情報を欲する時の行動だ!
ふむ……今回のあなたは、前とはかなり違うようですね。
わたしより知り過ぎている感じがあります。
もう少し早くあなたと会っていれば、もっと素晴らしい結果が出せたのかもしれませんねぇ。
俺はおまえのようなやつとは絶対に組まない!
それに、こんなにダーククラフトルを増大させて……こんなことを続けていたら、月の二の舞になる!
いいことを聞きました。
この力には、月が関係しているのですね。
夢が膨らみます。長生きはするものですねぇ。
おまえはこれでいいのか!
地球がひどい状態になるかもしれないんだぞ!
そう言われましても、これは天命。
すでに、こうなることは因果で決まっているんですよ。
わたしは、それに流されるまま動いただけ。
ご自由に受け取ってくださって結構です。
人間の命など、この大宇宙にとってはちっぽけなものにすぎないのですから。
そんな人の命を侮蔑する九条の言葉に、紅葉たちが激しく反応した。
そんなの間違ってる!
命はちっぽけなものじゃない!
すごく大事なものなの!
お母さんの受け売りだけど……。
この宇宙、そして、その中の地球で自分の命が生まれたこと。
それは奇跡以外のなにものでもない!
命は、奇跡なんだから!
因果が決まっているのなら、あなたにはこうなることがわかったはず。
わかっているのなら、「早すぎた」なんて言葉は出ません。
そんなあなたがラプラスの悪魔を気取るのは、おこがましいです。
ゲーム好きのわたしにとっては、ここはとても素晴らしい世界に見えます。
でも、それだけです。
妄想まかせで好き勝手に世界を創られては、たまったものじゃないのです。
それに、あんなゲームバランスでは、クレームものなのです。
ほほう……若いのに……。
素晴らしいご意見を頂きました。
ですが、この世界の流れに逆らっても、その流れに飲まれるだけなのですよ。
逆らわず、自然にまかせてみてはどうですかな。
結局おまえは、俺たちを止めるつもりでここにいるのか?
いいえ、わたしはそんなつもりはありません。
ただ、事の成り行きを見届けるだけです。
万が一にも、あなたたちにこの流れを止める術があるのなら、またそれも因果。
しょせん我々には、起こった事象を記録することしかできないのです。
アカシックレコードには、遠く及びませんが……。
わけのわからないことをごちゃごちゃと……。
俺たちの邪魔をしないなら、かまわない。
だが、事が終わったら、責任を取らせてやるから覚悟しておくんだな。
すると
九条は、軽く高笑いしながら、その場を立ち去った。
旅行気分に水をさされたように気分を害した巧人たちは、その場で黙り込む。
……………………。
だが、そんな暗い雰囲気を吹き飛ばすかのように、胡桃が話しかけてきた。
わたし、知ってるよ。
ああいう人をタヌキっていうんだ。
きっとタヌキが人間に化けてるんだよ。
ぜったいそうだよ。
胡桃のおかげで暗い空気は吹っ飛び、場は和んだ。
九条がまくし立てた難しい言葉も、胡桃には通じなかったようだ。
とんだ時間を食ったな。
今は少しでも時間が惜しい。
すぐにでも出発しよう。
(草香を助け出す……そして、この現状を打破するんだ!)
巧人は再度、心に誓う。
草香を助け出すこと、それと、暴走したタクトを止めることを。
気を取り直した巧人たちは、西の湖を目指して女神の町を出発するのであった。
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