第二十九話 巧人とタクトと黄金の巫女
文字数 2,343文字
シャンデリアの小さい明かりが、かろうじて視界を保っている。
通路の突き当りのドアに、九条はIDカードをかざす。
すると、ドアは開かれ、広いフロアが目の前に広がった。
相変わらず薄暗いフロアだ。
巧人と草香は中をゆっくりとフロアを見渡す。
フロアの中央に人影が見えた。
よく見ると、その姿はセカンドやサードと同じような風体の少女だった。
おそらく、ファーストで間違いないだろう。
両腕両足に、管状のダーククラフトルが巻き付いている状態だった。
管は、一定の動きで蠕動運動を繰り返し、何かを運んでいる。
覚えておいて、巧人。
わたしたちは、出来ることをする。
今は、人を救おうなんてことは、考えちゃだめ。
生き残ることだけを考えて。
ここで私たちは絶対に死ぬわけにはいかないから。
さっさと情報を回収して、譲葉のうどん屋で、おいしいきつねうどんでも食べましょう。
奥へ進むたび、ものすごい量のマイナスクラフトル粒子が瘴気のごとく噴き出す。
そんな瘴気を手で払いのけながら、ついにあの方の元へとたどりついた。
あの方……その姿は……。
体はボロボロ、傷ついたような体をしていながら、まるで呼吸をするように恐ろしいほどの殺気を放っている。
その不完全な体は、ドラゴンの姿をしたダーククラフトルの集合体といっていいだろう。
ファーストの管が、全てこのドラゴンの元へと集まっている。
どうやら、このドラゴンに力を注いでいるようだ。
そして、言葉を喋りはじめた。
ダーククラフトル彗星を破壊し続け、あとわずかの刹那、彗星は時空間転移。
それを追い、惑星に激突したダーククラフトルのコアを破壊。
だが、人間であるおまえは、その絶叫に耐えられず、精神を崩壊させた。
そうか……記憶がないならくれてやろう。
我と共に歩んだ記憶を……。
さあ、受け取れ! そして我に感謝せよ!
タクトと名乗った黒龍は、黒い煙のようなダーククラフトルを発生させた。
その煙は、巧人の頭上に纏わりつき、ゆっくりと侵食していく。
そして、そのままゆっくりと、黒龍タクトの体に取り込まれた。
光に包まれた巧人は、一瞬でこの場から消失する。
巧人の頭の中では今、映画のように記憶が巡り巡っていた。
だが、そんなことよりも、今、目の前で起きた出来事が頭の中から離れなかった。
黒龍タクトに草香を吸収され、なすすべもなくこんなところに飛ばされてしまった。
そんな情けない自分のことを思うたび、自分の力のなさを恨み、後悔し、拳をコンクリートの壁に打ち付けていた。
突然地震が発生した。
約震度7弱の揺れだ。
そして、光の柱が発生する。
発生した場所は巧人がさっきまでいたA市の方向だった。
その光はすぐに収まり、やがて黒い闇がA市をドーム状に包み込み始めた。
そしてA市を飲み込み、その後、速度を緩めてゆっくりと膨張を始めるのだった。