第二十七話 ダーククラフトル
文字数 2,619文字
無数の繭、うめき声。
その二つだけで、背筋が凍りつく思いをするのには十分だった。
この中に入った人間は、いったい何を見、何を思うのか。
待って。
むりやり助け出して大丈夫かどうか、調べる必要があるわ。
それに、もし気付かれて、この人たちが人質にされたりすれば、こちらが身動きをとれなくなる。それに、繭はここだけじゃないかもしれない。
その時、二人は足音を聞いた。
それはゆっくりと、部屋の入口へと近づく。
それは、こちらのセリフだとおもうのですが……。
まあ、これも何かの縁です。お教えしましょう。
わたしは、このゲーム会社の親会社。そのCEOの九条です。
CEO?
そんな人が、なぜこんなところに?
それと、この施設は何?
せっかちな方々ですね。
ここでは何ですから、この上の階に移動しましょう。
そうですねぇ……。
わたしはあなた方に罠を仕掛けなくても平気な立場にいるのですよ。
繭の中にいる彼らの生殺与奪は、わたしが握っていてもおかしくない。
そう思いませんか?
こうして
巧人と
草香は、
九条の指示通りに、上の階へと上った。
そして、その階のオフィスフロアへと向かう。
中に入ると、そこには下の階の繭の部屋と同じ光景が広がっていた。
お気づきですか。
そうです、下の階とは違います。
これは、人間を取り込んでから、一か月ほど寝かせたものです。
映像を見ることができます。
ご覧ください。
突然、天井から、スクリーンが降りてくる。
その後、そのスクリーンに映像が映し出された。
映し出された映像は、中世ヨーロッパ風の街並。生き生きと、楽しそうにしている人々。さらには、車や電話なども存在している近代的な異世界の映像だった。
そうです。
一か月という期間。繭の中の彼らは、ひどい環境だったゲームの世界を、妄想の力でここまで美しく作り上げたのです。
これはいやだ。あれもいやだ。これはこうじゃなければならない。あれもあったほうがいい。と、そういった思いが反映され、世界を創っていく。
さらに、そういった数々の思いがぶつかり合い、全ての人々がよりよく、そして楽しく暮らせる、もちろん、敵も存在し、刺激もある。
そんな世界が作られていくのです。
常に妄想によって進化する世界……これが、我々の目指す、全ての人々が楽しめるVRゲームの境地なのです。
でも、それだけなら、お客の声を聞いてそれを反映させていけばいいだけの話じゃない。
別に、暴走クラフトルなんかに頼ることはない。
ほう……
クラフトル……。
クラフトルをご存じですか……。
クラフトルの言葉に反応するってことは、その存在を知っているということね。
知っていますよ。
おそらく、あなた方より詳しく知ってしまったかもしれませんが……。
それなら、これはおそらく
ゲームではなく、創造の実験。
最終的には、妄想された世界を現実世界に呼び起こす……そんな所かしら。
クラフターたちが大勢集まって作業するようなものね。
頭が切れてらっしゃる……。
どうやらわたしはあなた方を、過小評価していたようです。
それに、その口ぶりから察するに、あなた方はこの世界の人間ではないようですね。
そもそも、クラフトル粒子は、今から一年ちょっと前、謎の隕石の突然の接近と消失が起こったときに発生したものだと推測しています。
隕石の接近……消失……まて、それはどういうことだ。
こっちの世界にも、隕石が出現していたのか!?
巨大隕石消失事件。
たしかにそのとき、隕石が出現していたのです。
世界の終わりと騒がれましたが、何事もなく時は過ぎました。
今ではもう都市伝説になってしまいましたが、真相を知る者は少ない。
じゃあ、わたしたちの世界で起こったメテオインパクトの隕石は、この世界から転移して、大気圏のすぐ内側に突然現れて、落下したってことなのかしら……。
ん……。
我々の世界では、隕石は大気圏外に突然現れ、大気圏を突破し、さらに、地上にぶつかる一歩手前で消えていますが……。
それだと、そちらの世界では地表付近で出現することになりますね。
※筆者独自の世界観が適用されています。ご注意ください。
それと、ここの世界の消失した隕石は、また別の平行世界から転移して飛んできたということになるわね。
そうなりますな。
ハッハッハ。
おもしろい話が聞けました。ロマンを感じますね。
だから、俺がこっちに転移したとき、知らない場所に飛ばされていたのか。
(なら、草香の場合は、アンカーで座標を特定したから、通常の位置に転移できたということか)
事はそう単純ではなかった。
この条件だと、一歩間違えれば
巧人は空中に放り出されるか、地面の中への転移になっていただろう。
巧人は運がいい。地球の自転に助けられたのだ。
興味深い謎が解けたところで、質問いい?
どうしてあなたはこの黒い暴走クラフトルを使用するのかしら。
暴走クラフトル……わたしはこれを、
ダーククラフトルと呼んでいます。
通常のクラフトルは、我々には扱うことができません。
ですが、ダーククラフトルであれば、妄想に感応しやすいのです。
じゃあ、そのダーククラフトルが暴走することも知ってるわよね。
暴走……というより、感情同士による葛藤のぶつかり合いだとこちらでは理解しています。
じゃあ、あなたはすでにダーククラフトルに感情があることを、把握済みだったわけね。
さらに我々は、
ダーククラフトルの制御に成功しています。
そして、ダーククラフトルを呼び寄せ、量を増やしているのです。
(呼び寄せる……まさか、わたしたちの世界から……)
どうやって制御を成功させているか知りたいものね。
更に上の階を見てもらえば、おおよその見当はつくはずです。
それでは、ご案内しましょう。
こちらの世界にクラフトルに詳しい人物がいたことに二人は戸惑う。
だが、意外な事実も明らかになった。
この九条という男はいったい何者なのだろうか。
そして、この上の階には何が待ち受けているのだろうか。
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