第六十一話 生還
文字数 2,742文字
破壊されたダーククラフトルのコアは、激しい光を発しながら浄化されていく。
それと同時に、ダーククラフトルドームの膨張は停止し、ゆっくりと崩壊していった。
破壊された天井から、日の光が差し込む。
浄化されたクラフトル粒子は、その光に照らされ、オーロラのようにきらめき輝いていた。
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ふらふらと揺れながら、力が抜けたようにその場に倒れ込む。
巧人は、紅葉の元へと走り込み、倒れそうになる紅葉をがっちりと受け止めた。
ふえ~ん!
紅葉は巧人に思いきり泣きついた。
涙が雨のようにこぼれ落ちる。
まだ、子供とも大人ともいえない、不安定な思春期の娘が、こんな修羅場を経験してしまったのだ。無理もない。
崩壊する地面を避けながら、疾風のごとく駆け抜ける。
その姿は、まるで忍者のようだった。
そんな中、巧人は紅葉を抱えて避難している少女たちと合流する。
ちょうどその時、柱は消失し、集合場所は元のビル屋上へと変化していた。
すると、菖蒲と譲葉が、まるで幽霊でも見るかのような視線を紅葉に向けた。
困った紅葉は、足を指差して生きていることを二人に伝えた。
平和な日常へ!
ダーククラフトルの霧は晴れた。
ビルの屋上からは見える街並みは、いつもの変わりない景色だ。
サイレンの音や車やヘリの音が次々と聞こえてくる。
待機していたレスキューや自衛隊などが一斉に閉鎖地域へ踏み込む。
しばらく、A市は慌ただしくなるだろう。
巧人たちは、途中で赤四手姉妹と別れた。
姉妹は一般の保護を受け、帰路につく。
残った巧人たちは、事情が知れるとまずいので、閉鎖されている地下鉄を通り抜け、A市を脱出するのだった。
巧人は、拠点の物置小屋に簡易ベッドを置いて、そこに草香を寝かせていた。
サバイバル点滴キットを使い、草香の回復を待つ。
(そこまでバレてるのか……)
一応、俺の記憶は黒龍タクトとタクトのおかげである程度は回復していることを先に伝えておくよ。
それでだけど……。
もし俺に、帰るべき未来があったとしても、俺はそこで何をしたらいいかわからない。
それに、今の俺があるのは、クラフトル管理局があって、君たちがいて、できることがあるからだと思うんだ。
今は、そこが俺の居場所。
そして、リハビリのついでに、今回この世界でクラフトルに関わった人間の調査をした。
その調査でわかったのは、クラフトルに関わっていた人間は意外に少なく、ゲーム会社の人間、九条グループの幹部以上の人間、それと一部の大臣の関与だけということらしい。
草香は、調査を終えるとクラフトル管理局へ調査報告を提出するために自分の世界へと転移した。
────そして、月日は流れる────
草香が転移してから一か月後、クラフトル管理局から朗報が届くのであった。