第四十二話 静寂の湖
文字数 3,552文字
道はないが、マップを見ながら進めば迷うことはない。
ダーククラフトルは、勝手な妄想を即座に具現化させてしまう力をもっている。それゆえに、副作用も大きいんだ。
通常のクラフトルでは、基本的には実際の記憶にあるイメージしか作れない。
君たちに与えてある、ストラクチャーユニットも基本的には固定されたイメージを具現化する能力を備えているが、ダーククラフトルのそれとはまた別のものだ。
すると、菖蒲がクロたちを指差し、その答えを簡単に説明した。
さっきとは一転して、緊張した空気が流れる。
次の瞬間、数体ほどのモンスターたちが巧人たちを取り囲んだ。ミノイモムシは一撃で蒸発した。
持っている武器は、ゲーム内では下位武器なのだが、レベルが高いこともあり、威力は半端じゃない。
その瞬間、ふわふわのモッコリゴケは、固く凍り付いて砕け散った。
その後ろにいた数匹のミノイモムシは、ターゲットを変更して胡桃に襲いかかる。
爆弾は一気に爆発し、ミノイモムシを吹き飛ばす。
だが、爆風が収まると、木の影から爆風を逃れたミノイモムシが姿を表す。
胡桃を睨み付けると、口から糸のようなものを吐き出した。
両手を前方にかざして必死に嫌がる胡桃の目の前に、ぬいぐるみのようなものが現れた。
胡桃が襲われたのに気付いた巧人は、すぐに援護に入り、糸を吐くミノイモムシを、容赦なく切り捨てた。
…………。
(……でも、そんな形跡はない。さっきの戦闘で浄化されたクラフトル粒子と、ラウンジでクラフトしたときに使ったクラフトル粒子が体に付着していたのであれば、ぬいぐるみを出すぐらいの芸当はできるだろうけど……)
そうだ、これを持っていて。
何かあったら、これを握って宿屋でチキンを作った時のようにぬいぐるみと叫ぶんだ。
そうすれば、今のぬいぐるみが助けにきてくれると思う。
どうやらこの間に、紅葉たちはモンスターを殲滅したようだ。
戦闘を終了した紅葉たちは、巧人の元へと報告にくる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
山林を抜けると、湖らしき場所にたどり着いた。
湖は霧と静寂に包まれている。動物の鳴き声すらも聞こえてこない。異様な雰囲気だ。
胡桃は、その小屋を指差して巧人たちに次の指令を伝えた。
すると譲葉は、水中に橋の残骸を見つけるのだった。
その人たちね、「絶対クリアできなくしてやるからなー」って言って町を出てった。
だからね、これがその嫌がらせなんだと思う。
それを目の当たりにした胡桃は、思わずつぶやく。
そして目を閉じ、イメージを膨らませ始める。
周囲にはただならぬ冷気が漂い始めた。
しばらくして菖蒲は目を開き、言葉を発する。
設定項目追加。
必殺技イメージ確認。イメージ固定。
キーワード設定。
必殺技名【オーバーフリージング】登録完了。
その瞬間、湖は激しく姿を豹変させた。その光景は、まるで氷の世界だった。
あれだけ力を使えば、体力を失っても仕方がない。
菖蒲は巧人に支えられ、幸せそうに眼を閉じて眠りに入った。
菖蒲の無事を確認した巧人は、ほっと胸をなでおろす。
その後、巧人パーティーは、菖蒲が体力を失ってまで凍らせてくれた湖を渡り、無事小屋にたどり着く。そして、【思い出のオルゴール】の入手に成功するのであった。