第十三話 一本の矢
文字数 1,426文字
Z市で、一番高い位置にあるこの神社の展望台からは、Z市と、となりのY市が良く見渡せる。なので、地理的な調べ物をするのにちょうど良い場所だった。
大きな鳥居をくぐり、長い階段を上る。
サバイバルキットの非常食が尽きたせいで朝から何も食べていない巧人は、腹の音をならしながら、必死に頂上まで登っていた。
頂上にたどり着く。その先は、石畳でできた長い参道が続いており、奥には立派な神社がそびえ立つ。
巧人は、社へは行かず、見渡しの良い展望台へと足を向ける。
そして、展望台に着くと、巧人は、端末の地図を確認しながら神社の頂上付近でY市を眺めていた。
IDカードさえ持っていれば、入金してあるお金で買い物ができた。
巧人が持っていた紙幣は、この世界の紙幣とくらべると、刷られている人物の顔が違うので使用することができなかった。巧人の世界の1000円札紙幣は、まるで、野口英世と夏目漱石を入れ替えたような、そんな紙幣だ。
それでも、硬貨は使えるようなのだが、現在の手持ちの硬貨はたったの15円。これでは何も買うことはできない。
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こればかりは命にかかわる問題だ。
かといって、クラフターストライカーとして覚醒させてしまった二人の彼女達に、食料を恵んでもらうのもなんだか恥ずかしい。これは、巧人にとって最後の手段である。
何か良い方法はないかと、巧人は考えを巡らせていた。
その時だ!
突然、側に生えていた木の根元が光り輝く。
そして、その光の中から小さなアメーバ状の黒い物体が出現した。
だが、暴走クラフトルは巧人の攻撃を、まるで馬鹿にするかのように軽快にかわす。
巧人は、身構えた。そして、もう一度攻撃に移ろうとした瞬間、巧人の視界に一筋の閃光が走った。
軽快に飛び跳ねていた暴走クラフトルをその閃光が貫く。
閃光の正体は一本の矢だった。
矢は、暴走クラフトルを貫通し、その先の木に突き刺さった。
その後、矢に貫かれた暴走クラフトルは、小さな光を放ちながら消失していった。
すると、雑木林の小道を走って逃げていく人影を見つけた。