第三十六話 三美の町
文字数 2,250文字
巧人たちは、地下鉄の黒い闇の中を抜け、ファンタジーな世界へとたどり着いた。
のどかな異国の田舎の風景が眼前に広がる。
それと同時にトンネルの入口は消えてしまった。
それは、この世界に閉じ込められたということを意味する。
もちろんそれは、覚悟の上のことだった。
道中、巧人は空を見上げ、不安そうに考え込む。
だが、ここにきて、その反応が消えた。
このフィールドが巧人の能力を遮断しているのか、それともタクトの能力なのか、別の場所へ移動したのだろうか。
だが、それがわかったところで、今の巧人にできることは、ただ、草香の無事を祈ることだけだった。
────【三美の町】────
そこは、中世ヨーロッパ風の街並みだった。
町は、殺伐としていた。
このゲームに順応した人たちは、中世風の鎧や、綺麗なロココ服を着てRPGを楽しんでいるようだ。
だが、ほとんどの人々はゲームに乗り気ではなかった。
突然、こんなところに閉じ込められてしまったのだ。ナーバスになっていてもおかしくはない。
巧人たちはトラブルを避けるため、なるべく人混みをさけて情報収集を始めることにした。
大通りの裏手の路地を歩く。
店を眺めながら移動していると、巧人たちは若い軽装の男に声をかけられた。
まあ、普通に敵倒して、クエストこなして、お金稼いで、土地買ったり、家買ったり、道具作ったり、レア武器やアイテム探したり……まあ、いろいろできる。
ストーリーなら、中央の広場に行けば、勝手に始まるから見ていくといい。
じゃあ、頑張れよ!
すると、突然、辺りが暗くなり、稲妻とともに広場の真ん中に何者かが現れた。
その何者かは、白い輝きを放つ天使のような女性だった。
こんにちは、冒険者さん。
わたしは、天使ファーストといいます。
世界は今、平和に見えます。
でも、それは、仮初の平和なのです。
この世界は、かつて、龍によって滅ぼされかけました。
ですが、一人の少女がその龍と契約を結び、世界を一時的に救いました。
龍の気まぐれで、契約が成立したのです。
その少女の契約とは、世界を滅ぼさないでくれるなら、龍の欲するダーククリスタルを龍の代わりに集めて献上するというものでした。
ただし、期限内に龍の欲する量のダーククリスタルを集めることができなければ、世界は龍に焼かれ、人類は滅ぼされてしまいます。
そうならないためには、ダーククリスタルを集めて龍との契約を更新するしかないのです。
それを人々に告げた少女は、邪龍の使い魔と罵られ、魔女として火炙りの刑に処せられました。
ですが、その契約は今も生きています。
人々は、龍に滅ぼされないためにダーククリスタルを集め、これからも献上し続けるでしょう。
人々は願います。可能ならば……龍を倒せる勇者が現れる日がくることを。
あなたは、勇者になってくれますか……それとも……。
天使が消えると、辺りは明るくなり普通の状態に戻る。
たとえゲームでも、体は生身だ。油断はできない。
ストーリーと思われるオープニングに現れた天使ファースト。
彼女が伝えた龍とは、黒龍タクトのことを指しているのだろうか。
そして、巧人たちは、そこへたどり着くことができるのだろうか。