第五十二話 天高く
文字数 4,008文字
ファーストの隙をついて第二形態「暁のヴァルキリー」へと変身した紅葉は、瞬時に攻撃のイメージを作り出す。
そのイメージは、そのまま攻撃の名前へとリンクした。
紅葉の持つ槍は、形状を変えて黄金の輝きを放ち始める。
その武器は、北欧神話が生んだ最強の武器に匹敵するものだった。
再びファーストの放つ無数の黒いオーラが、紅葉の目の前を覆った。
しかし、紅葉の目には、ファーストの姿しか見えていない。
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必殺技イメージ確認。
イメージ固定。
キーワード設定。
必殺技名【グングニルスティンガー】登録完了。
紅葉の手から離れた槍は輝きを増し、ドリルのように回転を始める。
正面から迫っていた無数の黒いオーラの塊は、ドリルの回転に弾き飛ばされ、威力を失う。
一方、槍は威力を失わず、ぶれながらさらに加速する。
そして、まるで獲物を捕捉したミサイルのようにぶれた軌道を修正してファーストへと飛んで行く。
ファーストは異変に気づき、攻撃をやめて腕をクロスし、防御姿勢を取った。
黒いオーラを前面に集中し、ダーククラフトルのシールドを生成する。
槍は黄金にスパークしながらドリル状態でファーストのシールドに激突。
シールドは、まるで飴細工のように木っ端みじんに砕け散った。
槍は、シールドを突き抜け、ファーストを直撃する。
槍の直撃を受けたファーストは、そのドリルのような回転にえぐり削られ、ダーククラフトル粒子と化す。
そして、そのダーククラフトル粒子は、やがてキラキラとしたクラフトル粒子に輝きを変え、浄化されていくのであった。
だが、それはつかの間の勝利であった。
まだ、ダーククラフトルの供給は止まっていない。
飛び散ったクラフトル粒子に周囲を漂うダーククラフトルが混ざり合い、ゆっくりと収束を始める。
わたしたちは、この空間の中でなら永遠に存在できる。
絶望しろ、自分の未熟さに……!
光と闇が混ざり合う渦の状態だ。
だが、その不完全な状態から声を発していた。
まだ、ファーストの存在は消えてはいない。
紅葉は、もう一度構える。
飛ばした槍は一度消え、自分の手元へと生成される。
槍を手にした紅葉は、実体化前に何度も貫こうと渦に近づこうとした。
だが……体が言うことを聞かなかった。
この時、ストラクチャーユニットが警告を発する。
超必殺技のため、クールダウンを必要とします。
あと30秒待ってください。
ここで動けなくなるとは……力はあっても、運命には導かれてはいないようだ。
ストラクチャーユニットは、通信の声を伝える。
聞こえるか、巧人だ!
今から、全ての供給をカットする!
照明弾を合図に、奴らを倒せ!
まさか!
けれども、ここまでの決意と行動がなければ、この結果を導き出すことはできなかった。
運は後からついてくると言っても間違いではないだろう。
巧人の放った照明弾。それは、ダーククラフトルの供給を断つことに成功したことを告げる光だった。
元通りになりかけた体は、再び塵と化し、浄化されていく。
浄化されたクラフトル粒子は、天高く昇っていった。
ファースト……撃破!
巧人の通信を聞いた菖蒲は、照明弾を確認する。
たまりにたまった
セカンドの動きは、同じパターンの繰り返しだったので、距離を取るのは容易だった。
相手が戻る前に、菖蒲は変身形態を第一形態「空色のウィッチ」へと移行する。
菖蒲はステッキを振りかざす。
そして、巨大な冷気の塊をセカンドへ向けて放った。
冷気の塊がセカンドの炎の竜巻に触れると、爆発するような音を立てて炎が消し飛ぶ。
後に残ったのは、両手に剣を持ったまま絶対零度で凍り付いたセカンドだけだった。
菖蒲は、もう一度ステッキを振りかざし、氷の塊を放った。
氷の塊は勢いよく凍ったセカンドにぶつかる。
その瞬間、セカンドの体はガラスのように砕け散るのだった。
砕け散ったダーククラフトル粒子は、浄化されてクラフトル粒子となり、天高く昇っていく。
譲葉は、サードとの激しい戦闘の最中、巧人の通信をもらう。
しかも、徐々に弾丸を大きくし、威力を上げ始めた。
一発でも銃弾の破壊に失敗すれば、致命傷を負うところだ。
その後、巧人の
そして、チャージライフルを地面に向けて即座に発砲。その反動を利用して上空へとジャンプした。
チャージライフルだけあって、チャージがなければ、飛べる程度の力しか出ない。
だが、今はこれだけで十分だった。
どうやら、飛べるというだけで、そんなに飛行速度は速くないようだ。
その後サードは、飛びながら譲葉に銃を向けた。
その瞬間、譲葉は第一形態へと変身する。
譲葉の背中で照明弾が発光する。
その発光と重なるように譲葉は弓を引く。
そして、タメのいらない必殺技を発動した。
矢は、サードの姿をロックする。
その後、まばゆい光を発した矢が一直線に放たれた。
放たれた矢は、そのままサードの胸を貫通して風穴を開けるのだった。
そして、もう一度【閃光の破魔】を放った。
三本の矢は、らせん軌道を描きながらサードを直撃、残りの体を消失させる。
浄化されたクラフトル粒子が、天高く舞い上がる。
だが、あの方という存在がまだ残っていた。
そして、その脅威はすでに迫っていた。
強烈な気配を振りまき、ゆっくりと上空から飛来する大きな影。
────黒龍──タクト────