第三十話 無能の巧人
文字数 2,154文字
……俺は、無力。
…………俺は、非力。
………………俺は、無能。
巧人は、A市に覆いかぶさった黒く巨大なドームを見つめる。
その視界には、タクトのダーククラフトル反応、それともう一つ、草香のクラフトル反応を捉えていた。
それは、草香がまだ生きているという証だった。
おそらく、ドームの一番上の中央。あそこに、タクト……それと……草香の反応も混じっている。
クラフドラフトが使えれば、何とかなったかもしれない。
けれど今、使えるクラフトル粒子量は0……。
とにかく、データを送信しなきゃ……。
データを、データを……。
草香の……俺の戦闘データを……戦闘データ?
俺たち、戦闘したのか……あいつと……。
タクトと……?
巧人は、自信を喪失した。
記憶を取り戻した巧人と、記憶を取り戻す前の巧人。
共通することは、「今の巧人はダーククラフトルの数値を見ることしかできない、ただの人間」ということだった。
──夕方──
巧人は拠点へと帰還した。
拠点の物置小屋では、紅葉たちが集まっており、忙しそうに動いていた。
おそらく、クラフトル管理局が転送してきた大量の物資を整理しているのだろう。
紅葉たちは、巧人の帰還に気付くと、作業を一時中断した。
おかえりです。あれ、草香さんは……ホテルへと戻られましたか?
巧人は、胃を握りつぶされるような思いで、これまでの経過を話した。
それで、あの黒ドームのようなものが発生してるのですね。
今、マスコミではその話題で持ち切りですよ。
草香は生きている。
けど、それも時間の問題……。
そうだ、近藤局長に連絡を……。
巧人は通信端末を握りしめ、近藤局長へと通信を入れた。
わたしだ。定時連絡……ではないな……。
巧人、何かあったか。
巧人は、視界リンクのデータを転送する。
(※視界の録画情報)
ふむ……状況はわかった。
なら、救出作戦を練らなくてはいけないな。
それと、記憶が戻ったのか。
独り言のようにブツブツとつぶやいていたようだが……。
はい、少しですが戻りました。
それと、すいません! 俺がいながら……。
んん……だが、おまえにしてはよくやった方だ。
ちゃんと生き残ったではないか。
でも……もっと早く記憶がもどっていれば、いい対策があったはずなんです。
いい加減にしないか! 巧人!
記憶が戻っていようがいまいが、巧人、おまえがあの場でできたことは、データを持ち帰ること。それだけのはずだ!
それ以上を望んでも、無駄死にするだけだ。そのぐらい、おまえならわかっているだろう!
あんなものを前にして生きて帰ってこれただけでも奇跡だということを忘れるな!
巧人くん! 確かに今の巧人くんは弱いかもしれないよ。
でも、悩む方向が間違ってる。
悩みすぎるのは、真面目過ぎて責任感が強すぎるから!
そんなに背負い込まないで!
もっと、周りを見て! 頼ってもいいんだから!
草香さんはまだ生きている。
なら、助ければいいだけです。
巧人さん。
わたしたちじゃ頼りないですか?
信頼できないですか?
不安ですか?
巧人様!
あきらめちゃだめです!
人間は、考える生き物なのです!
絶対になにかいい方法は見つかるのです!
そんなに時間はないとしても、じっくり作戦を考えるです!
巧人は三人に励まされ、ようやく気力を取り戻した。
もう一度、通信端末を握りしめ、近藤局長に話しかける。
も、申し訳ないです! 近藤局長!
俺……ちょっと調子に乗って自分の立場を忘れてました。
わかればいい。
それでどうだ。
記憶が戻ったお前は何ができる。
ちょっと時間がかかりますが、今から用意してほしいもののリストを作って送信します。
あと、大至急、クラフトルカプセルを300000クラフトル分用意してください。
はい。本当は1000000クラフトルまで行けるはずですが、隕石落下のダメージで今は300000クラフトルで限界です。
俺の場合は、クラフドラフトを使用します。
クラフトラフトはクラフトル粒子を使ってエネルギーを生み出すもの。
クラフドラフトは貯蔵したクラフトル粒子を消費するタイプの力と言った方がいいですかね。
あと、簡単なスーツを作ってもらいたいのです。
ストラクチャーユニットは、扱えませんから……。
タイツタイプで構いません。クラフトル感応が強いものをお願いします。
詳細はリストと一緒に送信します。
草香が敵に吸収され、 暗雲が漂う中、巧人たちの結束は草香救出に向けて固まり始めていた。
タクトが共有していた分だけ記憶の戻った
巧人。そして、クラフドラフト。
その力とは、いったいどういうものなのか。
タクトを倒し、草香を救出することは、可能なのだろうか!
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