第34話 サヨナラの宿

文字数 2,233文字

ワタクシは迷っておった。


なんのために鉄道趣味をしておるのか、見失っておった。

え、なんのため、って?
結局ワタクシの鉄道趣味、鉄道模型趣味は人に届いてはおらぬ。


模型雑誌にも載ることはない。既に何度か投稿したが黙殺されておる。

そうなのですか……。
模型のコレクションもしておらぬ。


しかし周りは集めておるものがある。なんとか線をコンプリートしたとか言って戯れておる。


そしてあなたはなぜ集めないのか、と聞かれることまである。

総裁はそういうのやらないのー?
ワタクシは基本的にだらしない人間なので、集め出したら際限なく集めて金銭的にも人間的にも破滅するであろうからやらないのだ。
わかる気がする。総裁の部屋、散らかってるものね。ヒドイっ。
そうなのだ。それは否定できぬ。


集まる人を見ておると、いまいち理解できぬこともある。


なぜ彼らは集めた模型のハコを見せるだけで模型を出さぬのだ?

そういやそうですよね。毎回撮影するたびにハコから出すのがめんどくさいのかな。
もともと模型そのものに触ったり撮影したりするのが楽しいから買ったのであろう。


それがハコから出すのさえ面倒がるとは、正直本末転倒ではないのか。

そういやそうですよね……あとはハコから出すと傷んだりすると思ってるのかな。
むしろハコに入れておいたらハコのウレタンと塗装が反応してて気づいたら傷んでいた、と言うことも昔はあったらしい。


どちらにしろ本末転倒であるのだ。

そうですよね……それなのに模型化が発表されると毎回「被弾」とか言ってその模型買う予定立ててるのをSNSでアピールしてますもんね。
模型で遊ぶのが楽しいのか、模型の金策を立てるのが楽しいのかが、だんだん見ててわからなくなるのだ。
でもそう言う人結構いますよね。そしてメーカーの模型にものすごく細かい粗探ししてる人も。なにかあるとエラー品だ、って。その検品するのが楽しいって人もいるっぽい。ひどいっ。
楽しみ方は人それぞれであるから、それでもよかろうと思う。


だが、そういう人々にワタクシがいかに模型の楽しみ方を創作し提案したところで届くわけがないのだ。

そうですわねえ。
あと、高い模型を買う人を怖い怖いと言ってるのもよくわからぬ。


ただの金持ちにすぎぬのに。

そうだけど……総裁、そう思ってると、すごく孤独じゃないですか?
そうなのだ。ワタクシは故、孤独であり、天下吾一人とはそう言うことなのだ。


チヤホヤされることもない。模型でバズることもまずない。

でも総裁バズってるじゃないですか。4500いいねとかもらってる。
たまたま偶然メーカーの話と導線ができたからにすぎぬ。ワタクシの実力ではなかろう。虚しいものなり。
そうなのかなあ。私は総裁の模型好きだけどなあ。
しょせん、奇策ばかりであるのだ。

世の中の鉄道模型の本流からすれば異端もいいとこなのだ。

でもJAMコンベンションでは展示は大勢の方がご覧になり、通りかかったベビーカーが身動き取れなくなったりしてましたわ。大人気かと思ってましたのに。
それもワタクシの力ではない。ミエくんの模型の力であるのだ。ワタクシの模型ではない。そしてそれはもう一緒に並ぶことはない。


ミエくんはそういうワタクシを見限ったのだ。下手で異端なワタクシなどいらぬ、と。

ええっ。そうなんですか?
あんなに一緒にがんばってたのにー?
ミエくんが我慢してただけであったのだ。


ワタクシはワタクシに深く失望しておる。

そんな……あんなに見て楽しい展示だったのに。
ミエくんはそうではなかったらしい。
ちょっとどころでなくショックですよ。ぼくにとって。
でなければ、電話もメールも、また著者もそのままにしておるのに、ちょっと冷静になるため距離を置きたいとブロックしたのを永久の別れにはせぬであろう。
総裁ブロックしちゃったんですか!?ミエさんを!!
ヒートアップしすぎたので止むを得ずそうしたのだ。


しかしミエくんには想いは伝わらなかった。

なんてこと……。
それもワタクシが良くないのだ。
そうだとしても……なんでこんな。
単にワタクシが下手でビンボーであるからいけないのだ。


かといって、著者のバイトでビンボーは少し改善したが、下手なのはワタクシとしては相変わらずである。


行先に望みがないとはこのことであるのだ。

そんな……。
こうして何もかも失っていく。
これもそうだ。
ええっ、トレインホステル北斗星さん、やめちゃうんですか!
コロナでほとんどまともに営業できておらなかったようであるからの。


ワタクシの常宿にしていくつもの思い出の舞台が、またなくなるのだ。

往年の寝台特急・北斗星を再現したようなホステルで、すごく楽しそうだったのに。
清潔で安くて楽しい、素晴らしい宿であった。
本当に北斗星のランプや椅子を使ってましたわね。
この食堂車の扉も本物だったのにー。
これからどうなるかわからぬ。


著者が初めて小説で受賞したNoveljamのときの前進キャンプも。


JAM出展の前進キャンプもここだった。


JAMの慰労会の宿泊もここだった。


幾多の運転会に出席するときの宿も。


そして著者バイトの研修の時の宿泊も。


ここ数年の数々の遠征は、ここなしにはなし得なかった。

フリースペースにはこんなノートが置かれておった。
素敵でしたわねえ。
嬉しくて著者もこんなものを描いた。拙いが楽しくて仕方がなかったのだ。
それが、なくなる、なんて……ヒドスギル!
サヨナラだけが人生なのかも知れぬ。


ワタクシも、もうサヨナラの時が迫っておるのかも知れぬ。

そんな……!!
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登場人物紹介

長原キラ ながはらキラ:エビコー鉄研の部長。みんなに『総裁』と呼ばれている。「さふである!」など口調がやたら特徴ある子。このエビコー鉄研を創部した張本人。『乙女のたしなみ・テツ道』を掲げて鉄道模型などテツ活動の充実に邁進中。

葛城御波 かつらぎ みなみ:国語洞察力に優れたアイドル並み容姿の子。でも密かに変態。しかしイマジネーション能力は随一。


武者小路詩音 むしゃのこうじ しおん:鉄研内で、模型の腕は随一。高校入学が遅れたので、実は他のみんなより年上。鉄道・運輸工学教授の娘で、超癒し系の超お嬢様。模型テツとしての腕前も一級。


芦塚ツバメ あしづかツバメ:イラストと模型作りに優れた子。イラストの腕前は超高校級。「ヒドイっ」が口癖。


中川華子 なかがわ はなこ:鉄道趣味向けに特化した食堂『サハシ』の娘。写真撮影と料理が得意。バカにされるとすぐ反応してしまう。

鹿川カオル かぬか カオル:ダイヤ鉄。超頭脳明晰で、鉄道会社のダイヤをアルバイトで組んでしまうほどの『ダイヤ鉄』。プロ将棋棋士を目指し奨励会所属。王子と呼ばれるほどハンサムな女の子。電子回路やプログラミングが得意。

田島ミエ たじまみえ:総裁の古くからの友人。凄腕の模型テツ。鉄研のみんなと一緒に大洗などを旅行したものの、関西在住で滅多に会えない。なおかつその実像は不明。

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