戦う総裁

文字数 3,549文字

でもその間、総裁は何してたんですか?
うぬ、ワタクシも出展に向けて、あのあえなく未成となった留置線を埋め合わせる工作をしておった。

まず、去年のJAM終了後に制作した周遊列車「あまつかぜ」の整備もあるが、あれで可哀想にニートレイン化したスーパービュー踊り子先頭車をなんとかしたくなった。


それと、出展するモジュールセクションであるが、入換信号機は無理でも、4灯信号機をどっさり使うマイクロセクションの作成のアイディアが降ってきたのである。

4灯信号機をどっさり使うアイディア?
実はミエ君と組んで、今年前半、電子雑誌を作っておった。「SFオルタニア」という雑誌である。是非参考にされたいので、このリンクから行けるぞよ。


私たちエビコー鉄研が雑誌乗っ取りクーデターをしちゃった奴ですね。ほんとヒドいッ。楽しかったけど……。
ほんと大暴れしちゃったねー。あれ、あそこまでやっておきながら、私たちエビコー鉄研の説明が全くないとか、めちゃめちゃだったよねー。
うっ、さふなり。といいつつ、あれで一つの作戦を立てておった。それは周遊列車テーマのイラストをあの雑誌に使おうと。片方は「トランスイート四季島」のワタクシのCGで表紙を、もう片方はミエ君の「トワイライトエクスプレス瑞風」のイラストでいこうと考えたのだ。
で、事実そうなりましたよね。
しかし、そこからなのだ。あの雑誌は紙の本としても購入出来る。その発送日の直後が「瑞風」の運行開始日であったのだ。つまり! 紙本のイラストと実物の一緒になった写真を撮ることが可能であったのだ!!
で、総裁は上野に行ってトランスイート四季島と合わせて撮ったわけですね。ヒドいッ。
さふなり。かつて夢見て模型で作っておった周遊列車が現実に出発していく姿は胸に迫るものがあったぞ。我が著者も、その日の夜は感慨に震えながら寝たというものである! またそのお見送りの様子はYouTube動画にもしたのであるな。
ちゃっかりその帰りにKATOホビーセンターで撮影した「あまつかぜ」と一緒にしたりして。ロマンあふれるけどヒドいッ。
しかし! これはまだ前段に過ぎぬ! 本命は瑞風との写真なのである。
え、それに兵庫在住のミエさんを動員しちゃったんですか? ほんとにヒドいッ!
事実、かなり無理矢理に瑞風のイラストをミエ君には描かせてしまったからのう……。気が引けたのであるが、しかし! この好機を逃したら結局後悔すると、耐がたきを耐え忍び難きを忍びでお願いしたのだ。ミエ君のディーゼル車のイラストは秀逸であるからのう。最高峰ディーゼル車のイラストはワタクシも楽しみであったのだ。結果、このような風味あふれるイラストをミエ君がものにしたのであるな。
ものすごく素敵なイラストになりましたわ。このイラスト、わたくしもお気に入りなのです。後尾オープンデッキにいる老夫婦など、とても現代的な旅情にあふれておりますわ。
デッキに老夫婦立たせた図を、ってのは総裁のアイディアだったんですよー。でもどうにもその時は現物の瑞風もまだよくわからなくて。結局総裁に3Dでシミュレーター画像を作って貰ったけど、それでも描きにくかったー。
実はワタクシの3Dモデルも一部間違っておったからのう。あのときはミエ君に迷惑をかけてしもうた。でも、ミエ君の苦悩もわかっただけに、ワタクシも精一杯支援したのである。
それでこの写真が撮れたわけですね。なんというステマ……というよりダイマ(ダイレクトマーケティング)……。
でも、これでミエ君も手塩にかけたイラストと実物をともに捉えた写真も撮れたのである。瑞風運行初日、城崎温泉到着後に瑞風が豊岡に引き上げ回送し、そこで長時間停車した後に再び城崎温泉に向かうことを突き止めたミエ君の勘が鋭かった。京都や大阪では大混雑であったからのう。とてもマトモな写真は撮れぬ。

豊岡停車を見切ったミエ君の作戦勝ちであるな。

で、それはそれで素敵なことなんですが、それと総裁の工作にどう関係があるんですか?
うっ、カオル君のツッコミはもっともなり。

実は、ワタクシは私事で心が折れておって、なおかつ信号機の林立する風景のイメージがつかめず、停滞しておったのだ。

ところが、このミエ君がこのとき撮影した写真を見て、またワタクシのシードがはじけたのだ。

それがこの写真である!

瑞風が豊岡を城崎温泉に出発していく後ろ姿ですかー。
さようなり。そして、見ると、ここに3灯信号機ではあるが、信号機が架線柱のビームに吊り下げでいくつも並んでおる!
ほんとだ。これ、出発信号機かな。
そこでワタクシは画像検索をして、出発信号機や場内信号機なら、こういう信号機が林立している例のあることを確認した。

そこで、信号機をいくつも作り、そのうち一つを現示変化可能なものに、他をダミーの赤灯のみの信号とするアイディアを実行しようと思い立ったのである!

思い立ってしまえば作業は早いのである。例によってベース上への信号機の配置を考え、そして地面工作開始。
わっ、もう地面が出来てる! 早いっ!
地面を一気に作るのには、地面をカバーするプラスターにあらかじめ土色を絵の具で作って混ぜてしまうのが良いのだな。これは以前作ったレイアウトでBトレの匠・しんじさんに教わった技術なのである。これなら仕上がった後にプラスターが多少欠けてもプラスターの地の色が剥げて見えるのは回避出来るし、工作も一気に終わる。良い方法なり。
そして今回コレも使った。これは虫取りラケットを改造して作った「静電気植毛機」であるのだな。これで草を表現するファイバーを立たせた状態でレイアウトに固定可能になるのだ。
いわゆる「芝生の達人」と似たようなものですね。
さふなり。しかし、これは静電気を作るためにレイアウトの地面に高電圧をかける。配線した信号機のLEDに悪影響があるのではないかと大変危惧した。もちろんそこでテストピースで確認して問題なかったのだが、取扱注意であることは代わらぬ。

あと、ファイバーの植毛のやり方はコツがいる。これを飲み込むまで時間がかかった。

でも、この小さなモジュール、マイクロセクションでは失敗してもやり直しがしやすいから、度胸を持って実験が可能ですわ。そこが大きなアドバンテージと拝察しました。
さふなり。これがデカいレイアウトであったらと思うと、失敗したら泣くに泣けないからのう。
そしてこのようになった。イメージにはかなり近くなって満足なり。
信号機の制御はPICですか?
さふなり。12F683を1コ使っておる。入力2系統、出力4灯で8ピンをフルに使った。入力は信号の変化タイミングのキューと、信号の変化パターンの変更モード切替スイッチにしておる。
信号の変化パターンモード?

2つの動作モードを用意したのだ。

片方は通過後に閉塞信号として現示がつねに進行信号で、スイッチオンで停止>警戒>注意>抑速>進行とタイマーで変化していくもの。

もう片方は出発信号機として、常に停止信号で、スイッチオンで進行に切り替わり、その数秒後に停止信号となるものなり。動画を撮るときに楽しめるようにしてある。

特に信号の切り替えが即時ではなく、寸時の消灯の間を入れて実感的になるようプログラミングしたのだ。

消灯の間はdelay文、現示の切り替えにはPICの割込機能を使ったんですね。でもこれならセンサーレールを使っちゃえば、さらに自動化出来ますね。
そのセンサーレールを買えなかったのだ……ぐぬぬ。
資金難ってしんどいですね……。でも1年でここまでPICの使いこなしに迫ったのは評価出来ますね。
技術面に明るいカオル君にそう言って貰えると嬉しいのだ。がんばった甲斐があったぞ。
植毛の結果はこうなったのだ。静電気によって立てなければこのような立体的な草むらを作るのは困難……。しかし、これもまだ工夫の余地があるぞよ。まだまだ鍛錬が必要なり。
今後がまた楽しみですね! 表現の幅が増えましたね!
正直、信号機の灯器が傾いているのとかが気になっておる。これはLEDのリード線の取り扱いにまだ工夫が必要なのだ。この信号機の灯器、実際はリード線で支えておるようなものであるからの。
でも、この技術の熟成の先には夢がありますわ。もっと様々な表現があり得ます。わたくし、妄想がはかどってしまいます!
さふであろうのう。この信号機、さらに研究していきたいのだ。


ともあれ、これでワタクシの2017年の出展セクションモジュールの最大の課題はクリア出来たのだ。まずは一息である。


だが、まだまだ課題はあったのだ!

それは……また続く、ですか?
さふなり。
でも濃密な2ヶ月だよねー。これ、濃密すぎて身体壊しちゃいそうだよねー。
それについても、続く! なのである!
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

長原キラ ながはらキラ:エビコー鉄研の部長。みんなに『総裁』と呼ばれている。「さふである!」など口調がやたら特徴ある子。このエビコー鉄研を創部した張本人。『乙女のたしなみ・テツ道』を掲げて鉄道模型などテツ活動の充実に邁進中。

葛城御波 かつらぎ みなみ:国語洞察力に優れたアイドル並み容姿の子。でも密かに変態。しかしイマジネーション能力は随一。


武者小路詩音 むしゃのこうじ しおん:鉄研内で、模型の腕は随一。高校入学が遅れたので、実は他のみんなより年上。鉄道・運輸工学教授の娘で、超癒し系の超お嬢様。模型テツとしての腕前も一級。


芦塚ツバメ あしづかツバメ:イラストと模型作りに優れた子。イラストの腕前は超高校級。「ヒドイっ」が口癖。


中川華子 なかがわ はなこ:鉄道趣味向けに特化した食堂『サハシ』の娘。写真撮影と料理が得意。バカにされるとすぐ反応してしまう。

鹿川カオル かぬか カオル:ダイヤ鉄。超頭脳明晰で、鉄道会社のダイヤをアルバイトで組んでしまうほどの『ダイヤ鉄』。プロ将棋棋士を目指し奨励会所属。王子と呼ばれるほどハンサムな女の子。電子回路やプログラミングが得意。

田島ミエ たじまみえ:総裁の古くからの友人。凄腕の模型テツ。鉄研のみんなと一緒に大洗などを旅行したものの、関西在住で滅多に会えない。なおかつその実像は不明。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色