光あれ 模型展示2日目篇
文字数 4,503文字
うむ、展示は2日目となった。ミエ君とワタクシは再び前進基地の宿からビッグサイトを目指したのである。
例年であれば展示2日目(土曜日)は、この国際鉄道模型コンベンションの会期の中で一番安定して良い展示になるのだ。
我が出展グループもどんどんメンバーが揃い、出力が最大になっていったのである。
しんじさんがここから参加しましたよね。追兎電鉄さんのなかの人。
さふなり。DCC(デジタルコマンドコントロール)を使った自動運転はすでになされてきたが、あれはコントローラーもそれ専用のが必要であり、また何よりも各車両にデコーダーという小さな機器を取り付けなければならないのが大きなネックであった。
そもそもデコーダーの取り付けの難しい車両もありますものね。でもそのデコーダーのお陰で車両にIDを振って個別に制御して、同じレールの上で複数の動力車を別々に制御でき、自動運転も可能になりますわ。
失敗すると本当に車両が追突とか衝突しちゃうけど。でも、細やかな制御はDCCならではのものですよ。ヒドいッ。
ところがTNOSは動力車への加工無しに自動運転ができるという画期的なシステムとして発表され、現在注目されておりますわ。自動運転に詳しい追兎電鉄さんのその分析が興味深いですわ。
うむ。TNOSには現時点でもさまざまな弱点が考えられておるでのう。
まず車両の存在を検知するセンサーレールと電力供給のフィーダーを両方使うので、その配線の数が膨大になるのだ。
追兎電鉄で使っていたDCCとBDLボードを使った自動運転ではフィーダーだけで、車両の存在は電力消費を計算して検知する方式なので、配線が半分で済むのだからの。
それに、閉塞区間に無通電区間が必要な制御をするため、閉塞数も多く必要で、それゆえフィーダーとセンサーレールもさらに増え、なおかつそのハブとなるユニットの数の上限が厳しいと聞きましたわ。
追兎電鉄さんはそこもふくめて、偵察と研究を繰り返してますよね。ヒドいッ!
うむ。TNOSの偵察だけでなく、追兎電鉄さんとの偵察はいろいろと勉強になるのだ。急いでいて写真撮影がほとんどできなかったのだが、大いに刺激になったのだぞ。
また、TNOSの特許公開情報を使ってTNOSの弱点をカバーする動きもあるという。
そうやって鉄道模型が進化していくのは素敵なことですわ。
そんなこんなで、さまざまに遠方に散っていた模型友とも再会できて、まさにJAMは鉄道模型の年に一度ともいうべきお祭りなのであるな。美軌模型店さんなどお世話になっているガレージメーカーさんともお会い出来て嬉しかったのである。
【美軌模型店】
美軌さんとこのLED製品は豆球感覚で簡単に使えるようにしたものが多く、実に便利であるぞ。またLED関係を自作するとしてもその素材を安心して買えるのでワタクシも愛用しておるのだ。
この「あまつかぜ」のヘッドランプも美軌模型店さんで購入した白チップLEDですよね。ちゃんと白くて綺麗でいいですよね。
安いLEDは白なのに青みが強いものがありますもんね。ガッカリブルー、って。ヒドいッ!
青いLEDも使いどころによるのだが、白のはずが青いのは確かにガッカリであるからのう。
私も電子パーツ不得意なんで、美軌模型店さんの製品を活用してます!
慣れないことするよりこういう製品使うのも賢明かもね、というか、総裁、そういうとすぐジト目で見るんだから。もー。総裁のチャレンジはそれはそれでいいんですよ。
また、同じく模型を展示しているサークル・渋谷急行さんの鉄研でいずファンの中学生たちもまたがんばっておった。実に欣快であった。鉄道模型を青少年教育に使うという趣旨はわが「鉄研でいず」と通じるものもあるからの。
でもすっかりこっちは不健全っぽくなっちゃったよねー。
手鏡用ー意! また総裁をその自白視線で自白させちゃいましょう!
御波が自衛隊艦艇の号令のようにフシを付けて号令する。
もー。手間かけさせないでよー(手鏡を用意しながら)。ヒドいッ!
わ、わかった。ワタクシが何故口ごもったか、それを話そう。いささか、ためらわれたのだが。
それは、ワタクシが展示の合間に昼餉をいただきに、会場外のコンビニでお弁当を買い、ベンチに腰掛けたときだった。
そこで聞いてしまったのだ。……鉄道模型に関する陰口を。
ワタクシは斯様なモノは聞きとうなかった!
たしかにテツの間でのトラブルはときどき聞きますわ。しかし、鉄道模型でも……。
そもそも同じ模型テツではないのか?
同じく模型を愛しているところではなにも変わらないはず。
陰口を言う必要がどこにあるのだ?
しかし、無垢な中学生をその闇が包んでしまうのかと思うと、心が痛かったのだ。
そんなものはテツ道とは関係ないのでは?
ワタクシはそもそも、陰口がとても嫌いなのだ。
しかし、そのあしらいも含めてテツ道であるのだ。
相手を尊重し、互いを認め合う。
早計な「断定」を避け、問題は「選択」ではなく「掘り下げて解決」する。
至極当然のそこにすぐたどり着けぬワタクシは、まだまだ練度が足りんのだ。
そう思いつつも、心が痛んだ。
だが、その傷んだ気持ちを救ってくれたのも、また鉄道模型であった。
そのあと、宴席で夕餉をともにした多くの模型友の秀逸な作品の数々に、ワタクシは「はっ」とさせられたのだ。
さふなり。見ていて心がすがすがしくなるほどの精度の自作模型なり。プラシートから作り出すこの腕はまさにあっぱれ。
ほかにも素晴らしい模型の数々。そのなか、ワタクシは闘志を取り戻していったのであるな。
私は思った。やはり模型への愛は模型で返すべきなのだ、と。
この素敵な模型の数々に、ワタクシは背を正せ! と言われた気持ちになったのであるな。
つまらぬものに一瞬でも心乱されたワタクシを、ワタクシは深く恥じたのである!
わが友人はどうあっても友人なり! そのことにいささかの変化もないのだ!
うむ、ミエ君にもいろいろなことがあったのだな。それを理解してくれるワタクシの他の友人がミエ君のために宴席を設けてくれておったのだ。
やだなー。総裁が言わないことなんだから、それを深掘りしちゃダメだよー。
そうですよ。ミエさんにもぼくらにも、言わないだけで、それぞれに辛いことも言えないこともあるんだから。
わたくしにもそういうことはいろいろありますわ……。十分察しました。
だが、その時だった。
突然、総裁がケタケタケタと狂ったように笑い出した!
そもそも人の世に闇があるのはあたりまえなのだ。
それでもなお、闇に惑わされ光を見失ってはならぬ!
見失ったら本当に暗黒に沈んでしまうぞよ!
まさか、こんな時に総裁の必殺技「アイタクチガフサガラナイー」が発動するなんて。
たしかにワタクシは、このようなことで凹んでおって、ミエ君をさらに巻き込んでしまって、とてもすまなかった!しかし! 意を決して、それでもなお、我々は前に進まなくてはならないのだ!
それでこそ、「乙女のたしなみ・テツ道」なのである!
そうですわね。そんなものに負けてはなりませんものね。
む、言葉が強くなってしもうた。でも、ミエ君は、闇があっても、すこしもかわらず大事な友人なのだ。
そして、他のみなもまた、闇を抱えておっても、友人なのだ。
むしろ、それを打ち明けてくれたミエ君には、深く感謝しておる。
ワタクシもまた、実は深い心の闇を抱えておるのだ。
そしてそこから、また学ぶことが出来たのだから、みなには感謝しかないのだぞ。
私と詩音ちゃんの間で、相互確証破壊の関係になってる、『アレ』みたいなもの?
その話は、ここらへんに、しておきましょうよ。
(華子もビビって口調が変わってしまった!)
私たちは、多分きっと同志だから! もっと仲良くしましょう!
きっとそうです! だから! 私たち三人で一緒に、コミケで一旗揚げましょう!
うむ、ここに五族協和、王道楽土の新天地が開かれたのであるな。まっこと弥栄なり!
しかし、ワタクシは「のけもの」なのであろうか……ちと寂しいぞよ。
勝手にそんなことしないでくださいよー。ひどいなあ。
そのあと、ミエ君とワタクシは、夜の宿のフリースペースで語り合った。
この旅でじつはミエ君とワタクシが深く語り合う機会はこのときまでなかったのだ。
こんなことがあった結果、ミエ君との友情は、この日またさらに深まったのである!
えええっ、それは身体に悪すぎますわ! すでにここまで、何日も全力運転が続いてきたのに!
あぶないよー。話聞いてると、ちゃんとご飯も食べてないっぽいー。おなかすくと大変だよー。
うう、華子のその言葉は、なんと的中してしまうのである!
まさにJAM出展最終日、フィナーレに向けて、この物語はさらに驀進するのである!
ええっ、的中しちゃうの! 総裁、ミエさん、大丈夫なの!?
いよいよ次回、展示最終日。
あ、あと、この話、実録の部分とフィクションのハイブリッドなので、そこらへん、要注意だぞ☆(今回話盛りすぎたかも……ひいいい)
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