はじまりの刻

文字数 2,642文字

うむ、まず今年の前半の話である。ワタクシは、ミエくんとともに、とある大きなプロジェクトに携わっておった。
ミエくんとの出会いはワタクシが幼い時の大阪での運転会であった。すでにネットで知っていたワタクシに、ミエくんが罐の模型をプレゼントしてくれたのだ。
ときどき見せてくれる総裁の作っていた周遊列車「ブラウンコーストエクスプレス」仕様のEF510ですね。すごい力作でした!
さふであるな。以来、ミエくんとワタクシは親交を保ってきたのだ。
でもそこでプロジェクト、って、なんですか? 模型仲間との競作とか?
そのような次元のものではない、もっと大きなものであった。まさに模型の世界に革命を起こし得るものと思うておった。
総裁、模型に役立つ実用新案を特許庁から取得してましたよねえ。その関係ですか?ヒドいっ。
ツバメちゃん、それはヒドくないから……。でも、総裁ならありそうだなあ。総裁、そういうヘンなアイディアにはすごく恵まれてるから。
ヘンなアイディアなんて。総裁は聡明でらっしゃるから、アイディアにも悪知恵にもすばらしいものがありますわ。
誌音ちゃんも悪知恵とかなにげに総裁disってるんだからー。総裁は悪くないよー。ただ食い意地と人を振り回す強情さがあるだけだよー。
ほんと、みんな、こんなときに。でもボクは総裁には感謝してるんですよ。総裁がいなければここまでの楽しい鉄研生活もなかったし、ボクが将棋奨励会で降級してビビることもなかったんですから。
うう、みんな、ワタクシのことをそこまで思ってくれていたとは。皆の総裁でいられて、ワタクシは嬉しいぞよ。
ええっ、総裁、気付かなかったの?
何のことであるのか?
……気付いてないみたいだから、黙っときましょうよ。ヒドいっ。
まあ、ともあれ、そのプロジェクトはいまなお進行中であるらしいのだが、ワタクシはそこで一つヘマをしてしまい、それゆえにそれをミエくんとともに離脱したのだ。
そんなことないですよー!!
わっ、ミエさん出てきた!!
総裁は悪くなかったじゃないですかー!
うぬ、しかしあのような事態になったことは、ワタクシのヨミがあまかったことは事実なのだ。何があろうとも、ワタクシのヨミが足りなかったのだ。
総裁……だって……。
ミエくん、ワタクシはどんな仕打ちを受けようとも、それを受ける隙があったワタクシを反省するのだ。そもそもそういう事態にならないことのほうが、どちらが正しいかよりもずっと大事であるからの。
総裁……。あんなにがんばってたのに。
まあよい。あのプロジェクトは、ワタクシがいなくても進んでいって、いつの日か模型の世界を革命してくれると信じている。それがワタクシのものでなくても、ヨイのだ。
総裁、そんなことがあったんですね……詳しくはよくわからないけれど。
さふなり。このことは聞かれても言うことが出来ぬ。秘密事項であるという以上に、ワタクシのポリシーに関わるものであるからの。
総裁、そういうとこ強情だもんなあ。ヒドいっ。
でもそういう総裁の模型への愛、とてもステキですわ。わたくしも総裁のそういう所にすごく心惹かれてこの鉄研に入ったのですから。
なんだかんだ言って、総裁、模型、とくに鉄道模型については熱心だもんね。いつのまにかボクたちの鉄研のTwitter公式アカウント使っていろんなモデラーさんと交流してるし。
世の中には凄腕のモデラーさんが何人もいらっしゃるのだ。ワタクシもまだまだであるなと思い知らされる日々なり。


参考:エビコー鉄道研究公団(@ebi_tekke_n)さん | Twitter

でもいつのまにかPICをC言語でプログラミングしたり出来るようになってるし。去年はただ出力しか出来なかったのに、今年は入力に割り込み処理までしてるもんなあ。すごい進歩。
周遊列車「あまつかぜ」もそのアイディアと、なによりもそれを実現するエネルギーはステキでした。改善点はありますが、十分ナイスファイトでしたわ。
総裁、そういうとこ、貪欲だよねー。
もともと鉄研作るときもすごいエネルギーと悪知恵発揮してたけど、模型もすごくがんばってるよね。ヒドいっ。
うむ、恐縮なり。
で、そのプロジェクトについては、私たちも聞かないでおきます。聞いても何もできないし。でも、そのあと、どうなったんですか?
それがです。私、JAM国際鉄道模型コンベンションの出展のセクション任されてたのに、その失意もあって、全然はかどってなかったんですよー!
え、でもそれ、春の話でしょ?
気がつけばもう、6月になってたんです!
えええええええええ!!!! もう展示まで2ヶ月きっちゃってたんですか!
ミエと総裁が何か、二人で顔を赤らめてモジモジしている。
そこ! 照れるトコじゃないですー! ヒドいっ!
まあ、それはさておき。ワタクシとミエくんは、JAM出展に向けて、そこから猛烈な追い上げ作業をすることになったのだ。
まさに渦中へ!でしたよね!
む、ワタクシの脳裏では「えばんげりおん」のBGM、「In my Spirit」がエンドレスでなり続けておったのだが。まさに最強の使徒との決戦の様相であったのだ。
だって私の住む兵庫と、総裁の住む神奈川、500キロメートル離れてて、打ち合わせとかオンラインでしか出来なかったですもんね!
やるとすれば新幹線でも泊まりがけになってしまう。さような資力はミエくんにもワタクシにも無いぞよ。難易度最大であった。
なんか、こっちのほうが「プロジェクトX」みたい……。
「その時、総裁は、思った。『ここは、紙で試作するしかない』」みたいな。ヒドいっ。
ああっ、わたくし、脳裏に中島みゆきさんの歌がきこえて参りましたわ!
また詩音ちゃん、妄想はかどらせてるー! でもボクにもきこえてるよー?
残り2ヶ月、しかも、500キロの遠隔地、そしてミエさんは。
今回モジュールレイアウト作ったんですけど、レイアウト作るのはほんと、はじめてなんですー!
すごくヤバいじゃないですか!ヒドいっ!
でも、もう引き返すことは出来ぬ。引き返せぬと言うことは、前に進むしかないのだ。


ワタクシは、決意を持って、前へ進むこととした。それが7月初旬であった。

まさに、「総裁、渦中へ」ですね……。
私は「ブンチャカヤマト」がきこえてましたよ!
ミエさん、ミエさんがそれ言っちゃダメでしょ……。
まあよい。それで、ワタクシとミエくんの、一夏の大冒険が始まったのだ!
え、ここでこれってことは?
さふなり。次へ続く!なのである!
というわけで、つづきます。
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登場人物紹介

長原キラ ながはらキラ:エビコー鉄研の部長。みんなに『総裁』と呼ばれている。「さふである!」など口調がやたら特徴ある子。このエビコー鉄研を創部した張本人。『乙女のたしなみ・テツ道』を掲げて鉄道模型などテツ活動の充実に邁進中。

葛城御波 かつらぎ みなみ:国語洞察力に優れたアイドル並み容姿の子。でも密かに変態。しかしイマジネーション能力は随一。


武者小路詩音 むしゃのこうじ しおん:鉄研内で、模型の腕は随一。高校入学が遅れたので、実は他のみんなより年上。鉄道・運輸工学教授の娘で、超癒し系の超お嬢様。模型テツとしての腕前も一級。


芦塚ツバメ あしづかツバメ:イラストと模型作りに優れた子。イラストの腕前は超高校級。「ヒドイっ」が口癖。


中川華子 なかがわ はなこ:鉄道趣味向けに特化した食堂『サハシ』の娘。写真撮影と料理が得意。バカにされるとすぐ反応してしまう。

鹿川カオル かぬか カオル:ダイヤ鉄。超頭脳明晰で、鉄道会社のダイヤをアルバイトで組んでしまうほどの『ダイヤ鉄』。プロ将棋棋士を目指し奨励会所属。王子と呼ばれるほどハンサムな女の子。電子回路やプログラミングが得意。

田島ミエ たじまみえ:総裁の古くからの友人。凄腕の模型テツ。鉄研のみんなと一緒に大洗などを旅行したものの、関西在住で滅多に会えない。なおかつその実像は不明。

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