入り口の在処は

文字数 3,586文字

ここまでやってきてもなお、ミエ君のナゾ工場、Bトレベースを中心とした新社屋工場の実態がつかめず、ワタクシは焦っておった……。唯一見えるのは、ときおりミエ君がウェブに投稿する画像のみ。ワタクシの工作もなかなか進まず、焦燥が募っておった。
いやー、夢中になってやってたけど、いろんな工作とかナントカでテンパってて。てへ。
そこでミエ君から、ミュージアム部分の床につづき、『建物の内装の配色はどうしよう?』との相談が来て、実はワタクシは目が点になったぞよ。

内装よりも外装が固まらないとヤバいのではないかと!

といっても、状況がわからないのではどうにも始まらぬ。ワタクシはミエくんに聞き出し、3Dモックアップを作り込んで状況把握を開始したのだな。

できあがった後、その内装が見えるかどうか、それすら500キロ離れてるからわかりませんねえ。それなのに時間浪費したらサイアクです。ヒドいッ!
しかもワタクシはこの高架駅の現物を持っていない! よって内装がどうなっているかもまったく想像が付かぬのだ。あちこち間違っているのではという不安のなかの作業であった・・…。
そしてこれが作っていった建物の内部の3Dパースであるな。
細かい……でもこれ、作るの時間かかりませんか?
Shadeというソフトでなかったら心が折れていたであろう。しかしShadeはそこそこ高いので、お財布にもダメージがっ。
ひいいい。ヒドいッ!
そしてこれが建物1階の見取り図である。下がミュージアム方向、上が建物の外側である。
あれっ、これ、真ん中の空間はあの1号機関車を置くとしても、下の食堂やサロン風味の所と上の外部を連絡する動線が途切れてしまうような……。
そうね。上の真ん中は見ただけで商店とわかるけれど、その真ん中を通り抜けてこれだけの規模の建物の収容人員が出入りするのは無理っぽい。
そう思いますかー? でもその商店の所をエントランスにしようと思ったんですが……。
うむ、ワタクシもその商店エントランス案には大きな不安を持った。なにしろエントランスは建物の「顔」であるからのう。これで印象が決まってしまう。
この時点でミエ君の工作状況はこのような状態であった。
うーん、真ん中をエントランスにするには、モールドされた商店らしき部分の造作をすべて削らないといけないですね。でもそれはしんどそう……。
また一体成形のトミックスストラクチャーの恐怖が牙を剥きそうですわ!
かといってワタクシもどうしたらいいかわからぬ……。「モールド全部削ったら?」とも言いにくいし、それでも建物奥との連絡はクリアにならぬ。そこで気付いたのが!
この駐車場としてすでに造成してしまった部分なのである!
でもいい感じにすでに駐車場に造成されちゃってますね。白線も引いて植え込みまで作ってあるし。
ワタクシもそれ故に悩んだのだ……。言うべきか言うまいか。

でも、あの商店が顔になってしまってはいかにも窮屈……。

むずかしいねー。ほんとー。
そこをグッと堪え、このようなエントランスをその駐車場の所に作ることを提案したのだ。ミエ君にはせっかくの工作を一旦撤去させてしまうことになるので、心苦しかった……。
私、言われてびっくりしました! だって、ここにエントランス作ってもやっぱり出入りが窮屈なのは変わらないと思ったから。
ぐぬぬ、とはいえ、あの商店の真ん中を通すのもむずかしい。そこでいろいろと相談したのである……。
いつも仲のいい総裁とミエさんの間でもそんなことがあったんですね。なんだかちょっとホッとしました。
うぬ? それはどういう意味であるのか?
えっ! まあ、気にしないで続きを!
まあよかろう。というわけで、いろいろと考えた。屋根をどう支えるか、工作的にどう輸送時の破損を防ぎながら瀟洒なデザインとするか。
総裁は支えは最小限でいいって言うんですけど、私はもうちょっと支えが欲しくて。だって、雪が降ったらあぶないじゃないですかー。
あら、ミエさんは兵庫の雪の降る地方の出身でしたか。なるほど。育った地域性が模型にも現れるわけですわね。
そしてこんな感じになりましたー。
うわっ、細かい屋根裏の鉄骨のディテール! これ作るの、時間と手間かかったんじゃないんですか? ヒドいッ!
いえー、屋根そのものはトミックスのワイドレール用防音壁を曲げて、鉄骨はパーツのランナーを曲げて作りましたー。廃材利用みたいなもんですー。
ほんとだ! 言われてみると本当にランナーですね! でもものすごい活用。ヒドいッ。
普段からこのランナー見てると、なにか鉄骨みたいに見えるなー、って思ってました。
こういう活用ができると、その成功体験でものが捨てられなくなり、ジャンク箱が膨らんでいくのだ……。
わかりますわ。わたくしの工作室もそのようなものであふれておりますわ。
詩音ちゃんでもそうなんだねー。「モデラーあるある」かも知れないよねー。
でもこのやたらかっちりしたドアは何でしょう? 自作ですか?
実はジャパリバス1/150を作るときにその動力が必要で買ったポートラムの車体が余っていたので、ドアだけを切り出して使ったんですー!
また廃材利用……でも動力無しの車体があるのも可哀想ですよね。あとなにげにジャパリバスの大きさ測ってる定規がテツな定規だったり。ヒドいッ。
でも、それならディテールもしっかりしてるよね。クレバーな活用だと思うなあ。
ゆえ、その活用を活かすために、ワタクシもデザインを考えたのである!
ドアに合わせて赤色に、ミエ君の架鉄企業・奇車會社にあわせた「奇車レイルテラス」のネーミング。マークは大宮鉄道博物館のものをパロディにして作った。なおかつショッピングモールなどによくある意匠でフロア案内まで作ったぞよ!
凝ってるなー。よく見ると入居しているテナント名まで考えてあるんですね。
そういう作業は大変妄想がはかどって楽しいですわねえ。わたくしの好物でもありますわ!
そしてこのように仕上げましたー。実は総裁から送られてきた印刷のサイズが合わなかったり画質が荒かったりでちょっと困るときがありました……。
うぬ、pdfファイルで送ってもサイズが伸縮するのだ。よく見ると、使っているデザインソフトInkscapeのバグであるらしい。まあ無料であるから仕方がないのかも知れぬ。ミエ君にも同じInkscapeを使って貰うことで乗りきったのであるが。ぐぬぬ。
でも、ものすごく素敵なエントランスになりましたわ!
貰ったデザインを出力してドアマットも作ってみました!
というか、この透明部分にトミックスの文字が……本当に車両ケース使っちゃったんですね。ヒドいッ。でもそれがいいっ!

床のパターンもワタクシが制作したのだな。

ちなみにデザインはデータ送信前にこうしてモックアップを作り、フィギュアを置いて見え方を確認したのである。せっかく作っても大きさが違ってはつまらぬからのう。
それなのにソフトのバグで大きさ変わったら悲しいですよね……ヒドいッ。
ついでに入り口に自動改札機型のゲートも作ってみました。これもガンダムパーツを流用して作ったんです。
おおー、よくできてますねー。アイディアもさることながら、いい仕事だ。中島誠之助さんも喜びそう。
うぬ、なんでも鑑定団でも評価されそうなこの丁寧な作風がミエ君の真骨頂なり。
でも総裁、こんなにデザイン仕事いっぱいしてたんですか。
うむ。ワタクシもデザインというものについて、いろいろと学んだのであるな。

その真髄は、「意匠を用いることで問題を解決する」こと。

凝ったデザインの結果不便になっては元も子もない。それゆえ、この作業を通じ、幾多の鉄道や公共施設デザイナーの苦労の一端をワタクシも学んだのだな。

それは大きな収穫ですわ。鉄道模型を含め、模型というものはその対象のさまざまなことを学ぶ、いい手段でありますわ。構造だけでなく歴史や思想・哲学すら学び取れるものですから。
さふなり。模型とは、斯様にすばらしいものであるのだ。
でもこれ、最後に人形は置きますよね? せっかく作ったんだから、スケール感がわかるものが欲しいですよね。
そ、それが、最後までそこまで気が回らなくて……。このあと、いろんな工作をしたのに、人形はセットしないまま梱包してJAM会場に発送しちゃったんです。
ええーっ、それはもったいない!
そこで、ワタクシがJAM会場で開梱するときに、ワタクシが人形も別に仕入れてセットすることにしたのだ。
ってことは、開梱作業する総裁の責任、重大になりますねー。やばいよねー。
しかし、逃げるわけにはゆかぬ。こうなったら覚悟してやるしかないのだ。
それに、作業はまだまだ続くんです!
ええー!
それもしんどかったのだ。長くなるので切り上げようか?
つづけてええよー。
またみんなズルッとこけたのだった。
というわけで続くみたいです。
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登場人物紹介

長原キラ ながはらキラ:エビコー鉄研の部長。みんなに『総裁』と呼ばれている。「さふである!」など口調がやたら特徴ある子。このエビコー鉄研を創部した張本人。『乙女のたしなみ・テツ道』を掲げて鉄道模型などテツ活動の充実に邁進中。

葛城御波 かつらぎ みなみ:国語洞察力に優れたアイドル並み容姿の子。でも密かに変態。しかしイマジネーション能力は随一。


武者小路詩音 むしゃのこうじ しおん:鉄研内で、模型の腕は随一。高校入学が遅れたので、実は他のみんなより年上。鉄道・運輸工学教授の娘で、超癒し系の超お嬢様。模型テツとしての腕前も一級。


芦塚ツバメ あしづかツバメ:イラストと模型作りに優れた子。イラストの腕前は超高校級。「ヒドイっ」が口癖。


中川華子 なかがわ はなこ:鉄道趣味向けに特化した食堂『サハシ』の娘。写真撮影と料理が得意。バカにされるとすぐ反応してしまう。

鹿川カオル かぬか カオル:ダイヤ鉄。超頭脳明晰で、鉄道会社のダイヤをアルバイトで組んでしまうほどの『ダイヤ鉄』。プロ将棋棋士を目指し奨励会所属。王子と呼ばれるほどハンサムな女の子。電子回路やプログラミングが得意。

田島ミエ たじまみえ:総裁の古くからの友人。凄腕の模型テツ。鉄研のみんなと一緒に大洗などを旅行したものの、関西在住で滅多に会えない。なおかつその実像は不明。

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