大いなる仕掛品

文字数 2,806文字

そういや総裁、今年2017年、いろいろ作ってましたよね。あれは今回展示できたんですか?
うぬ、まず搬入の費用が工面できなかった以上に、我が目論見の甘さもあっていくつも未成となり披露できなかったものもあるぞ。
3Dプリンタ製の信号機は展示できましたわね。あれは繊細な出来でステキでした。
しかし! あれと同時に作っておった入換信号機とそれを使った留置線モジュールは未成となってしもうた。
あれは何が問題だったんですか?
まず、3Dプリンタ製の普通の鉄道信号機を大量に投入するために留置線を作ろうとしたのだが、そもそも留置線に普通の閉塞信号や出発信号がどっさりある必然性はなかった。入換信号機のほうが必要であったのだ。
出発信号とか場内信号なら、ああいう4灯信号機が林立しててもおかしくないけど、閉塞信号の林立するケースは思いつきにくいなあ。まして留置線じゃ、どうにもねえ。ヒドいっ。
しかし! そんなこともあろうかと! 入換信号機もNゲージサイズのものを3Dプリンタで作っておった。それが生きるところであった!
さすが総裁ー。ちゃんと考えてたんだねー。
そもそも信号機でプロポーション良くて後からチップLEDを組み込めるものは少ないからのう。センサーレールとセットの完成品か、自分でLEDを組み込むために穴開けやくりぬきの必要なダミーの信号機しかメーカー製はない。まして入換信号機はダミーしかない上にそのダミーも長期品薄なのだ!
そういうニッチなものこそ、3Dプリンタで作るとよいですわねえ。精度も出るし、量産も程々に出来ますわ。
さふなり。しかもDMMに頼んだところ、原価は材料の容積比例分より、1回の出力の基本料が大きい! つまり、1回の出力で一気に同じものをランナーで繋げて大量に出せば、コストの問題はかなりクリアできることも発見した!
だから4灯信号は16個、信号柱は8本、入換信号機は32個セットなんて数で売ってるわけですね。
えっ、売ってるの-?
さふなり。DMMのマーケット機能で販売しておるぞよ。とはいえだれも未だに買ってくれないのだが。


(参考/ここで売ってます 米田淳一未来科学研究所(YONEDEN)・3D出力店 - DMM.make クリエイターズマーケット http://make.dmm.com/shop/18930/

え、華子ちゃん、知らなかったの?
またボクをバカにするー!
そうやって律儀に反応する華子ちゃん、毎回愛くるしいですわ。
詩音ちゃんもそうフォローするのがほんと癒し系だよー!充電させて!
うむ、かくして入換信号機のガワは用意できた。しかし!問題はその制御である!いちいちスイッチでやっておったら面倒で仕方がない!かといって単純な回路では点灯が不自然になる!
そうですね。レールからの電流で点灯させたら、通電してない線路の信号機は消灯してしまいますね。信号機は停止でも進行でも、常にどちらかの現示で点灯してないといけませんからね。
かくして線路の電流を検知するとともに、点灯用の別の電源も必要になった。しかし!そのまま使ったら、電流がカチあって大変危険だ!
そこでフォトカプラを使ったわけですね。
いかにも。かつて一緒に著者と鉄道模型を展示した電子回路の達人・山岸技研さんに教わったのだ。これを使うと、線路からの電流と点灯用の電流を分けたまま連動させられる!
でも、電流の流れないときは停止の横2灯、流れてるときには斜め2灯を点灯させるんですよね。そんな判定どうやってやるんですか?
そうか、NOTゲートか。ロジックICの。
さすがはカオル君であるのう。さふなり。電流が流れたら出力を止め、流れなければ出力をする回路のICがある。ロジックICなのだが、こんなもの、山岸技研さんに聞かなければワタクシは存在すら知らなかった! ワタクシは文系であるからのう……。
それでやっぱりYouTubeでは結構苦労してる感じでしたね。ヒドいっ。
うっ、そうなのだ。そもそもICに入力すると言うことがどういうことか、ワタクシはそれすら理解しておらなかったのだ。プルダウン抵抗などといって、抵抗を介して常に電源につないでおいて安定させ、それに入力を与えたときの電子的な変化だけを検出させるなんてのは、電子回路の初歩とは言え、ワタクシにはなかった知識なり。
去年はそれ理解できずに困ってましたよね。それでLEDを点滅させることしか出来なかった。でもPWM制御で光り方加減したり、工夫はありましたけどね。
カオル君にそうやって上から目線で言われても仕方の無い現状なり。はなはだ恥ずかしいのだ。
でも総裁のそれでもがんばるところはすごいですよ。それが総裁の「乙女のたしなみ『テツ道』」なんですよね。
さふなり。現状維持だけを考えていては、現状維持も結局は出来ないからのう。
でも、それなのに入換信号機、断念しちゃったんですよね。
さふである。5番線まである留置線であるから5個は最低でも入換信号機がいると思ったのだが、海老名の検車区を見ていて「あ、逆方向にも必要かも」とその入換信号機の灯火の海を見て思うてしもうたのだ。

実に10個も必要!


まあ、現実には5個の出区用と、1個の入区用にダミーで入区番線を表示するLEDマトリクスをつけてしまえば良かったのかもしれぬのだが、ワタクシはあの海老名の検車区でロケハンしてテンパってしもうたのだ。

今回総裁、それ多すぎますよ。ヒドいっ。
と言うか総裁、なんでここで照れるんですかー。へんなのー。
やだなー、総裁がヘンなのは前からですよねー。
あ、そうか。そうだった。
そうだった、じゃないですわよ。もう。
というわけで入換信号機のある留置線モジュールは未成のままなのである! パーツはすでに購入してあるので、いつの日か完成させたいとぞおもいけるのであるな。
でも、分岐器をバラストで固定してからでは分岐不良が起きたら「詰み」ますわよ。それはいかがいたしますの?
うっ、そこは著者の知り合いの開発したポイントブースターなるもので解決したいと思うのだが、現実的にポイントをバラストで埋めて無事作動させられるかは不安がある……。
総裁頼りないなー。
わたくしに任せていただければ、分岐器をセットしてバラストを撒いてウェザリング仕上げして差し上げますが? いかがいたしましょう?
それはワタクシの技量にならぬし、詩音くんは模型のプロであるから、相応の謝礼を払わずに頼むのは良くないのだ。
そんなこと気になさらずともよいですのに。
しかし、ワタクシは自分の技量も上げたいのだ。詩音くんの申し出は、気持ちだけありがたく受け取ることとしたいのである。
でも総裁、それ以外にもいろいろ手つけてましたよね。それはどうなったんですか?
うむ、そこはだな!
何です?
ここで字数オーバーだーっ!
ひいいい、またそんなこと! ヒドいっ!
ともあれ、この仕掛品シリーズ、つづくのである!!
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登場人物紹介

長原キラ ながはらキラ:エビコー鉄研の部長。みんなに『総裁』と呼ばれている。「さふである!」など口調がやたら特徴ある子。このエビコー鉄研を創部した張本人。『乙女のたしなみ・テツ道』を掲げて鉄道模型などテツ活動の充実に邁進中。

葛城御波 かつらぎ みなみ:国語洞察力に優れたアイドル並み容姿の子。でも密かに変態。しかしイマジネーション能力は随一。


武者小路詩音 むしゃのこうじ しおん:鉄研内で、模型の腕は随一。高校入学が遅れたので、実は他のみんなより年上。鉄道・運輸工学教授の娘で、超癒し系の超お嬢様。模型テツとしての腕前も一級。


芦塚ツバメ あしづかツバメ:イラストと模型作りに優れた子。イラストの腕前は超高校級。「ヒドイっ」が口癖。


中川華子 なかがわ はなこ:鉄道趣味向けに特化した食堂『サハシ』の娘。写真撮影と料理が得意。バカにされるとすぐ反応してしまう。

鹿川カオル かぬか カオル:ダイヤ鉄。超頭脳明晰で、鉄道会社のダイヤをアルバイトで組んでしまうほどの『ダイヤ鉄』。プロ将棋棋士を目指し奨励会所属。王子と呼ばれるほどハンサムな女の子。電子回路やプログラミングが得意。

田島ミエ たじまみえ:総裁の古くからの友人。凄腕の模型テツ。鉄研のみんなと一緒に大洗などを旅行したものの、関西在住で滅多に会えない。なおかつその実像は不明。

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