第35話 遺伝子と高いフェンス

文字数 2,407文字

もともと模型の多さを誇って見せることと、それで怖い怖いと反応するのには、おそらく太古から続く遺伝子の作用なのではないかと思ふ。
マウンティングは動物としてよくある行動ですよね。
遺伝子の強さを誇り、それに基づいてメスを奪い合う営みであるのだ。


それが一見男女の関係とかけ離れた鉄道模型でもやっておるところに、どこかフシギな気がするのだ。


そしてワタクシがそういうのが辛いのも、ワタクシの遺伝子の弱さがあるのかも知れぬ。

総裁、そんな遺伝子弱いかなあ。
著者からして遺伝子弱々であるのだ。中年高脂肪高血圧で離婚一人暮らし。子供も嫁ももうあり得ぬ。


我が国政府も行政も見放しておる層の人間なり。もう行先に希望などない。

我が国はたしかにそういう層に非常に冷淡ですわねえ……。
そして金の匂いのしない言葉は驚くほど非力なのだ。


逆にいえば、金さえあればなんとかなることの方がはるかに多い。

地獄の沙汰も金次第、ってほんとそうだよねー。
ワタクシはミエくんのことでも、私の言葉の非力を思い知らされた。


ワタクシが経験してきたことに、なんの説得力もない。


何もしてこなかったのと同じなのだ。

ここまであんなに頑張ってきたのに……。

それを評価する人は稀なのだ。


そして弱い遺伝子を淘汰するのが自然界の習い、とするものも多い。

弱者への配慮をいうものはいるが少数派。


ほとんどは弱いものなど自己責任、淘汰されて当然、配慮など施しレベルなのだ。

多様性、ダイバーシティなんてあってもそれができるのは強い大企業だけみたいですものね。ひどいっ。
ゆえそう言ったことへの対策は「そのうち」「いつか」やるというものになる。ずっと後回しなのだ。


いうことは良くても、やってることはそういう野蛮なことなのだ。

そういえば去年のJAMコンベンションの出展の帰りにも、見知らぬ女性にすごく辛くあたられましたね。


コーヒー一杯飲むだけなのに弱ってる著者さんをものすごく邪魔扱いして。

所詮はコンクリートジャングルであるのだ。遺伝子強くてよかったですね、としかいえぬ。


その程度の世の中で、まともな道理が通るなどとは到底思えぬ。あるのは自然界の掟のみ。弱いものは邪魔だから同じ種でもいびって殺せ、という世界なり。

ひどい言い方だけど、そう思ってる人はいるんですよね。相模原の施設で起きた殺人事件がそうでした。
弱いものは負担にしかならない!という浅はかな話だったのだが、それに附和雷同するバカはいるのだ。


そしてそれはもう一つ、ワタクシがショックを受けた事件がある。

京アニスタジオへの放火殺人事件であるのだ。

痛ましい事件でした……すごく心が痛かった。
あれから年月が少し経った。


そこでジャンプに追悼なのか、ある漫画が載った。

あ、あれですね。すごく絶賛されてましたね。
ワタクシはあれに共感できなかった。

なぜなら、あれ、長いマンガだったが、やったことは単に殺人犯を蹴飛ばして溜飲を下げるものなのだ。


あとは襲われた側の描写ばかり。殺人犯は後腐れなく蹴飛ばせる「敵」でしかない。

そりゃ「敵」でしょうよ。同情する理由がないです、ひどいっ。
だが、ワタクシは自分も一歩間違えればああいう、いわゆる「無敵の人」になってしまうこの社会文化の貧相さを思わずにはいられないのだ。
そうですね……著者さんも辛いニート時代を過ごしましたもんね。
決して犯人のことを肯定できるわけがない。だが、この社会はちょっと間違えるととことんまで落ち込ませて無敵の人を作ってしまう脆弱性を持っている。


そしてあの漫画はその脆弱性よりも、被害者の視点から一方的に描き、犯人を蹴飛ばすことで溜飲を下げているのだ。


あんなやつは蹴飛ばされて当然、と。

そうなのかなあ。
すなわちこちら側とあちら側に社会を分断し、間に高いフェンスを作って追い出して安心安全というやり方なり。そしてフェンスの外など知ったことではない、自業自得だから仕方ない、と。


となればフェンスの外に追い出された側も憎悪を募らせてますます無敵な人になるのだ。


そういう分断では解決どころかさらに残忍な事件を生んでしまうのだ。

でも、ああいう人をフェンスの中に入れるのは無理ですよ。
ツバメくん、肝心なことを忘れておるぞ。


そもそもマンガや表現の本義と能力はそんな単純にフェンスで追い出せばいい、なんて貧相な結論しか出せないものではないはず。

あ……。
あの犯人のそもそもの動機であった勝手なパクリという言いがかりの部分からすでにフィクションは射程に入れられるはず。


そもそも、彼は創作の本義とはかけ離れたことをしておった。ワタクシは創作をするものとして、その段階から彼を考えてしまうのだ。


そもそも、パクられたらなんだというのだ。

ひゃああ、何いうんですか!?
世の中で全くの無から何かを創造することなどできぬのだ。かといってパクリは許されることではない。ゆえ引用のルールと正当な利用の範囲があるのだ。そこは間違いはなかろう。


しかし、なんでもすぐパクリだ、と安易に問題だと指摘するのもどうかと思う。

そりゃ引用の範囲を越えれば困りますよ。
だが、パクられたからなんだというのだ? それでコピー商品を作られれば確かに困るが、それだけであろう。


そしてパクる人間のさもしい心根を心底軽蔑するのは当然であるが、それ以上に何かあるだろうか。

軽蔑……ほかになにかあるかなあ。いやなことではあるけど。
そもそも、彼は自分の作品を愛していたのだろうか、と思う。


ああいうことをすることは、作品への愛であろうか。


んなわけがないのだ。彼は自分の生活の逆転生活の道具として作品を書き、それができぬからと憤って反抗に及んだのであろう。


作品そのものなど愛してはおらぬのだ。

ひいい。そこまで言っちゃうんですか!
作品そのものを愛しておったら、それをそういう争いの具にすること自身がすでに避けたいことと思うぞ。


創作作品の価値はそういう性質のものなり。

つづきます。
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登場人物紹介

長原キラ ながはらキラ:エビコー鉄研の部長。みんなに『総裁』と呼ばれている。「さふである!」など口調がやたら特徴ある子。このエビコー鉄研を創部した張本人。『乙女のたしなみ・テツ道』を掲げて鉄道模型などテツ活動の充実に邁進中。

葛城御波 かつらぎ みなみ:国語洞察力に優れたアイドル並み容姿の子。でも密かに変態。しかしイマジネーション能力は随一。


武者小路詩音 むしゃのこうじ しおん:鉄研内で、模型の腕は随一。高校入学が遅れたので、実は他のみんなより年上。鉄道・運輸工学教授の娘で、超癒し系の超お嬢様。模型テツとしての腕前も一級。


芦塚ツバメ あしづかツバメ:イラストと模型作りに優れた子。イラストの腕前は超高校級。「ヒドイっ」が口癖。


中川華子 なかがわ はなこ:鉄道趣味向けに特化した食堂『サハシ』の娘。写真撮影と料理が得意。バカにされるとすぐ反応してしまう。

鹿川カオル かぬか カオル:ダイヤ鉄。超頭脳明晰で、鉄道会社のダイヤをアルバイトで組んでしまうほどの『ダイヤ鉄』。プロ将棋棋士を目指し奨励会所属。王子と呼ばれるほどハンサムな女の子。電子回路やプログラミングが得意。

田島ミエ たじまみえ:総裁の古くからの友人。凄腕の模型テツ。鉄研のみんなと一緒に大洗などを旅行したものの、関西在住で滅多に会えない。なおかつその実像は不明。

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