プランの困難

文字数 4,101文字

というわけで、失意のワタクシがミエくんにその実情を聞いたとき、流石に血の気が引いたのである。とはいえ、一緒に展示するサークル「自由環状線」さんに迷惑をかけるわけにも行かぬ。さりとて、ミエくんの作業の様子もわからぬ。そしてワタクシも自身の展示するマイクロセクションの製作もある。
ヤバイじゃないですか―。ヒドイっ!
でも、総裁の展示するセクション、3Dプリンタ製の信号機を使った信号施設と、あとは……。
うむ、それがなかなか決めがたかったのだ。なにしろ、実家の車での輸送が今回できないことが早めに判明していたからのう。
えーっ、あの総裁のおうちのでっかい車、今回出動しなかったんですかー?
さふである。なにしろ今回の最大の失敗は、資金調達にあった。実家の車をビッグサイトに出動させることすら叶わなかったからのう……。ここでも目算を誤ったのだ。
なんか、今回の総裁、随分ポンコツです……ヒドイっ。
さすがのワタクシも、だんだん、地獄の沙汰も金次第、金の切れ目が縁の切れ目、お金あっての良かったね、とお金のことで頭が一杯になった。
じゃあ、まさかのハンドキャリー輸送ですか。いくら6センチマイクロセクションが小さいとは言え、それを安全に海老名からビッグサイトまでハンドキャリーで輸送するのは難しそうですよ。
そこでもワタクシは困難に直面しておったのだ。
総裁、今回こそほんとに詰みかけてたんですね―。
しかも宿泊費も実は足りなかったのだ。
ひいいいい、完全に詰んじゃってるじゃないですか。国際鉄道模型コンベンション出展どころじゃない状態ですよ。ヒドいっ!
ああ。摩文仁の丘に追いつめられた心境とはまさにこのこと。さらに、ワタクシと行動をともにする著者は激しく健康不安を抱えておった。心臓をやられておってのう。
全然だめじゃないですか! ほんと、出展どころじゃない!
でも、そうはいかぬのだ。
総裁、そんな無理して出展したんですか……。
1年間の最大の楽しみであるからの。そしてそれだけではない理由もある。
理由……。まさか、さっきの約束ってやつですか。
御波くんには悟られてしまうのう。さすが国語洞察力無敵であるのう。さふなり。約束があった。
でも、そんな、命をすり減らしてまで果たさなくてはならない約束なんて……。過酷すぎます!
でも、なさねばならなかったのだ。それがワタクシの「テツ道」に基づく、使命であるからだ。
使命……そんなことまで。
人間には、無理を承知でも、やらねばならぬ時があるのだ。たとえそれが命と引き換えとなろうとも。
そんな……ムチャにもほどがありますわ! たかが鉄道趣味じゃないですか! されど鉄道趣味と言っても、それはやり過ぎですよ!
冷静に思えばそうであろうのう。だが、約束というのは、斯様に重いモノなのだ。仕方がないのだ。
みんなは言葉を失って考え込んでいた。

そんなに思い詰めてやることと、鉄道趣味を思ったことがないからである。

それも当然のことだった。


総裁、今回、どうかしている。本当にみんなは、そう思って、互いに目をチラチラと見合わせた。

ドン引きかも知れぬ。だが、ワタクシのテツ道とは、そういうものなのだ。重たいと言えば重たいであろう。だが、ワタクシはもうそうなってしもうたのだ。
それが、「テツ道王に、ワタクシはなる!」の真意……それにしてはヒドスギル!
でも、ワタクシは結果、それを乗り越えてここにおる。反省点はいろいろあるが、冒険としてはスリリングで良かったのだぞ。工作も作業も展示も本当に楽しかったのであるから。
そうなんですか……。まあ、確かにこうしてるから、まだイイですけど、総裁、あんまり無理しちゃダメですよ。
さふであるな。来年に向けて、いろいろと準備や鍛練をさらに積まねばならぬ。今回の挑戦により、そのための貴重な戦訓が得られたと言えよう。


ともあれ、斯様な逆境に、ワタクシとミエ君は挑んだのである!

で、ここでこのエピソードのタイトル、「プランの困難」に話を戻しましょうよ。
うっ、さふであった。実は今回の主目標は、「けものフレンズ」にハマったミエ君が「ジャパリバス」1/150などを作ったので、それを展示しながら全体をNゲージレイアウトとして調和させる舞台を作るというのがコンセプトであったのだ。
ミエさん、実はけっこうミーハーだもんなー。去年は「ガルパン」にメチャメチャはまってたと思ってたら今回は「けものフレンズ」だもんなー。
てへ。だって、そういうの大好きなんですよー。それにガルパンは今年は荷物多くなりすぎて涙をのんでもってこなかったんですー。もってきたかったんだけどー。
そういう所がいかにもミエ君らしい純粋さと言えようか。しかし去年のガルパンの1/150のレール上を自走するⅣ号戦車や、ガルパンスイングをガルパンBトレに乗車させたガルパントレインなどは、ただのBトレ走行ベースを置いた上をぐるぐる周回させただけで、他の展示との調和までは至らなかったのだ。
あれは楽しいものでしたわねえ。ガルパンスイングをただ乗車させただけでなく、後ろにバッテリーのダミーを作ったり、その前に運転台をそれぞれ作ったり、乗車させた上で自走させたり。見ていて心が和みましたわ。
でもあれ、車両限界超えてて、レンタルレイアウトは走行出来ないんですよー。

それにⅣ号戦車に載せた西住隊長1/150フィギュアもメーカーに作られちゃって……。がんばって作ったのに。

うぬ、それはパイオニアとして、作って楽しむ模型のテツ道としては、避けられぬ宿命なり。ゆえワタクシはオリジナルしか作らぬ……。
そういっても総裁、E655系を2回もペーパーで作ったじゃないですか。プリンタとカッティングプロッタで挑戦して、ど根性で2回目はKATOの製品が発売される前日に滑り込みでレンタルレイアウト走行させたりして。
あれもまた戦訓であった……。1度目は「ないものは作る!」でがんばったのだが、2度目はKATOの製品発売が決定してからの挑戦であった。製品を買おうとして予約完売にカッとしてしまって、シリコンゴムによるレジン複製で挑んだのだが、結果は玉砕であった……メーカーに自作が勝てるわけがなかったのだ……。
でも、あれはナイスファイトでしたわ!
さふであろうか。ペーパー製シャーシの走行不良の解明に追われ、なおかつそのクリアの後で室内灯対応までしたのだが、思えばお召し列車に夜行運転などないのであった……。まさにどうかしていた。
でも、その戦訓はきっと活かされるときが来ますよ! ヒドいッ!
ツバメちゃん、それ、どうヒドいかわかんないから……。でも、そのBトレベースをレイアウトに組み込むって、どうするつもりだったんですか?
それが、である。ミエ君から送られてきたプラン図に、ワタクシは「アッ」と思ってしもうたのだ。
えーっ、そうだったんですかー!?
=その時のプラン図=
なにしろ片方はリアルな工場、片方はBトレベースを高く差し上げ、その下の壁の表現はトミックスの車両単品アクリルケースで行い、それに建物としてトミックス高架駅舎をつけるものであったのだ!
ひいいい! 普通に考えたらまとまりがない! 木に竹を接いじゃう! ヒドいッ!
ふつうはやらないよね。だって、どうやってもBトレベースはBトレベースだもん。だから、そこはBトレベースのカドとかスカイラインをどうやってごまかすかに注意して、それをもっと低い位置にして隠すのがセオリーかな。
でも、そのセオリーを無視したところに妙味があるとわたくしは思いましたわ。ミスマッチに思えるけど、これ、上手くものに出来たらポテンシャルはとても大きいですわ。

オリジナリティでは全く他を寄せ付けません。まさに非凡なモノになることは確実ですわ。

わたくしはこのプラン、絶対に面白いと思いますわ。

さすが詩音君、そこに気付いたか。さふなり。普通の建物にはならぬが、展示において平凡で普通の建物を普通に展示してどうなる。やはり普通の建物であってもそこに何らかの非凡さが欲しい。その点、このプランは非凡さは十分確保出来ておるのだ!
総裁、それ、褒めてるようで、褒めてないんじゃないんですか?
うっ、そんなことはないぞ。これぞまさに自由な発想! これを建物として成立させることにこそ、挑戦の妙味、そして技量の発揮となるのだ! まさにワタクシの求めていたものはコレなのだ!
ほんとですかー?
正直、車両ケースを壁にするという時は一瞬途方に暮れそうになった。だが! ミエ君がそのアクリル車両ケースのアールのついたカドに壁を作ってコンクリート表現をしたとき、ワタクシの頭の中でシードがはじけたのだ! これはいけるぞ、と。このセンスなら、500キロ離れていても、うまくやれば共同作業でものに出来るぞ、と。
ミエさん、そういう基礎工作力、すごいもんねえ。ちゃんと水平垂直正確に出すし、だいたいいろんな車両工作してきても、あれ全部缶スプレーでやってるんだもんねえ。私たちには出来ないわ。
てへ。だって、コンプレッサー使うと手入れするのめんどくさいじゃないですかー。
そうかな……缶スプレーをあんだけ工夫して使い込むのがもっと難しそうだけど。つや消しクリアを何度もかけてウェザリングレイヤーを作るとか、総裁から訊いたけど、すごく難しそう。
まあよいではないか。ともあれ、ワタクシは去年のようなビッグサイトにそびえる1/150新宿パークタワーでハッタリをかます作戦が取れない以上、ミエ君のイマジネーションあふれるナゾ工場に賭けることとしたのだ! 所詮正当派のレイアウトを作ったところで比較されて苦しいだけなのだ。やはりこういうイマジネーションで無人の野をゆくがごとき進撃こそ真骨頂! わが戦術の本領なり!
参考・2016年第17回国際鉄道模型コンベンションJAM参加時の様子
そっかー。それでこの逆境に挑む気になったんだねー。それはそうと。
????
もうそろそろこのエピソード、4000字になっちゃうよー!
だーっ、またしても字数制限が! ヒドいッ!
ともかく、この挑戦の話、続くのである!!
はい、続きますー。
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登場人物紹介

長原キラ ながはらキラ:エビコー鉄研の部長。みんなに『総裁』と呼ばれている。「さふである!」など口調がやたら特徴ある子。このエビコー鉄研を創部した張本人。『乙女のたしなみ・テツ道』を掲げて鉄道模型などテツ活動の充実に邁進中。

葛城御波 かつらぎ みなみ:国語洞察力に優れたアイドル並み容姿の子。でも密かに変態。しかしイマジネーション能力は随一。


武者小路詩音 むしゃのこうじ しおん:鉄研内で、模型の腕は随一。高校入学が遅れたので、実は他のみんなより年上。鉄道・運輸工学教授の娘で、超癒し系の超お嬢様。模型テツとしての腕前も一級。


芦塚ツバメ あしづかツバメ:イラストと模型作りに優れた子。イラストの腕前は超高校級。「ヒドイっ」が口癖。


中川華子 なかがわ はなこ:鉄道趣味向けに特化した食堂『サハシ』の娘。写真撮影と料理が得意。バカにされるとすぐ反応してしまう。

鹿川カオル かぬか カオル:ダイヤ鉄。超頭脳明晰で、鉄道会社のダイヤをアルバイトで組んでしまうほどの『ダイヤ鉄』。プロ将棋棋士を目指し奨励会所属。王子と呼ばれるほどハンサムな女の子。電子回路やプログラミングが得意。

田島ミエ たじまみえ:総裁の古くからの友人。凄腕の模型テツ。鉄研のみんなと一緒に大洗などを旅行したものの、関西在住で滅多に会えない。なおかつその実像は不明。

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