第7章 最終話
文字数 2,335文字
『今日はイーブンパーでした。トータル5アンダーで一次突破でーす(絵文字)』
アテストを終え、真っ先にゆーだいさんに連絡をする。
それから同じ文面をコピペしてじーちゃん、母ちゃん、支配人、良太さん達に一斉送信し、ロッカールームに向かう。
シャワーを浴び、着替え終わる頃に
『やったね(スタンプ)おめでとう!(絵文字)何時に迎えに行こうか?』
と興奮気味のゆーだいさんからのメッセージに、
『あざーす、じゃあ30分後に』
即、既読が付き、
『了解です』
それから色々な人々のオメに一々返事を書いてたら、あっという間に
『玄関に着いたよ』
とゆーだいさんからメッセージが来たんで慌てて荷物をまとめてロッカールームを飛び出し、クラブをピックアップして玄関に出る。
「おめでとう。よく、頑張った!」
何故かメチャスッキリした顔でゆーだいさんが微笑んでくれる。
不意に視界がぼやける。
あれ、花粉症かな、鼻水が垂れちゃう。
ゆーだいさんが車から降りてきて、大事そうにゴルフバッグをトランクに入れてくれる。アタシは荷物を後部座席に放り込み、助手席に飛び乗る。
「ホテルはチェックアウトしたんだっけ?」
「そーでーす。荷物はこんだけっす」
「よし。どうだ、お腹空いてないか?」
「うーん、まだ胸一杯で、空いてないかも」
「あは、堂々の3位で一次予選通過だしね、わかるわかる」
いーや。分かっちゃいまい。だって胸一杯なのは、あなたが来てくれたからだし。
「じゃあ、大多慶に戻ろうか」
ゆーだいさんがカーナビをセットする。到着予定時刻が8時17分と言っている。
「それで警察は何だって?」
「犯人が見つかり次第連絡くれるって。ただ、クラブセットが戻ってくるかは分からないって」
「そうだな、とっとと処分されてたら、取り戻すのに時間かかるだろうね」
「まあ、最悪今のセットで二次予選以降やれるかも」
「ほう、違和感はなかった?」
「全然。ま、F Wはちょっとは…」
「早く見つかると、いいな。いやあ、それにしても今回は最初から最後まで、ホント災難だったなあ、よく頑張ったね」
て、照れるじゃねえか…
「で、次の二次予選はいつだっけ?」
「確か、5月だったかも」
「そか。時間はたっぷりあるな。良い準備が出来るといいな」
「そだね。ゆーだいさんは、これから忙しく、なるんだよね?」
「いや、別に…」
「だって、秋に結婚式でしょ? 準備が忙しくなるじゃん?」
「まあ、でも土日のどっちかは必ずゴルフ行けるから」
「は? どゆこと?」
「陽菜…フィアンセと、そーゆー契約書をかわしたの。」
「契約って…何それ?」
「月に六回はゴルフに行く権利がある、っていう契約。」
「…結婚って、そんなもんなん?」
「…わからん。」
「ほ、ほーん…」
「……」
それっきりしばらく会話が途切れる。外はすっかり真っ暗になり、Bluetooth接続のカーオーディオから流れるジャズを聞いてるうちにまぶたがたまらんく重たくなってくる。
パッと目を開けると、トンネルの中を走っている。やがてトンネルは大きな口を開け、光る宝石のような海ほたるに近づく。
「あ。ゆーだいさん、トイレ行きたいかも」
「丁度よかった、俺も!」
ごめんねえー、ずっと我慢してくれてたんだあ。車はスッと海ほたるパーキングに入り、いつもよりずっと車の数が少ない駐車場に停車する。
トイレを済ませると自販機の前でゆーだいさんが待っていてくれる。
「何飲みたい?」
アタシは咄嗟に、
「あのさ。ちょっと散歩したいかも」
「いいね。ちょっと歩こうか」
去年のクリスマスの帰り道が思い出される。あの日はずっと幸せだったな、結婚の事を聞かされるまでは。あの日と違い今日は何の期待もトキメキもなく、ただ好きな人との夜の散歩を楽しむんだ。ゆーだいさんの腕にアタシの腕を絡める、そっと身体を寄せる。
「ところでさ、みなみちゃんは結局温泉には行かなかったの?」
「昨日、ちょろっと入ってきたよお、ゆーだいさんはガッツリ入ったんだよねえ」
「ガッツリって… でも、そう、うん。凄く良い湯だったよ」
「そだね。あんなに長く入ったの初めてだったかも」
「な、結構良いもんだったろ?」
まあ、良かったっちゃ良かったけど。
「ゆーだいさんと一緒に入ったらメチャ良さそうかも〜」
「俺さ、昼にそんな夢見たんだわ」
「えなにそれ夢にアタシ出てきたん?マジそれチョー嬉しいかも」
何気に、今日イチ嬉しかったかも。アタシはゆーだいさんの腕を離し、海ほたるの最先端めがけて走り出す。目の前は真っ暗な海だけど、海の向こうには光り輝く東京の湾岸のキラキラした夜景が薄く横に広がっている。
柵に両手を突き、その遠くの街燈を望む。ゆーだいさんが息を切らせて隣にやってくる。
「何故、走り出す… 元気あるなあ、試合終えたというのに…」
それはね。あなたがいるからだよ。
秋には結婚しちゃって、人のモンになっちゃうけど
でも、いいんだよね、
ずっと好きでいて、いいんだよね
アタシは今年、プロになる
絶対試験に受かってみせる
そんで、走り始めるよ、女子プロゴルファーの道を
ねえ、その先には、
あの街の明かりがあるんだよね
目の前は真っ暗な海だけど
その向こうには眩いばかりの光が
あるんだよね
アタシはそこに向かって走るんだ
だからお願い
しっかりとアタシを
見守っていてください。
「一次試験突破のご褒美、まだなんすけど」
「え、ええ? あ、ああ、ごめん。何がいい?」
アタシは遠慮なく、豪快にゆーだいさんの首にしがみ付き、ゆーだいさんの唇に自分の唇をしっかりと重ねる。
ゆーだいさんの腕が力強くアタシの背中に巻き付く。
今日イチの、いや今年イチ、いやいや人生イチのナイスショットな気分じゃん!
アテストを終え、真っ先にゆーだいさんに連絡をする。
それから同じ文面をコピペしてじーちゃん、母ちゃん、支配人、良太さん達に一斉送信し、ロッカールームに向かう。
シャワーを浴び、着替え終わる頃に
『やったね(スタンプ)おめでとう!(絵文字)何時に迎えに行こうか?』
と興奮気味のゆーだいさんからのメッセージに、
『あざーす、じゃあ30分後に』
即、既読が付き、
『了解です』
それから色々な人々のオメに一々返事を書いてたら、あっという間に
『玄関に着いたよ』
とゆーだいさんからメッセージが来たんで慌てて荷物をまとめてロッカールームを飛び出し、クラブをピックアップして玄関に出る。
「おめでとう。よく、頑張った!」
何故かメチャスッキリした顔でゆーだいさんが微笑んでくれる。
不意に視界がぼやける。
あれ、花粉症かな、鼻水が垂れちゃう。
ゆーだいさんが車から降りてきて、大事そうにゴルフバッグをトランクに入れてくれる。アタシは荷物を後部座席に放り込み、助手席に飛び乗る。
「ホテルはチェックアウトしたんだっけ?」
「そーでーす。荷物はこんだけっす」
「よし。どうだ、お腹空いてないか?」
「うーん、まだ胸一杯で、空いてないかも」
「あは、堂々の3位で一次予選通過だしね、わかるわかる」
いーや。分かっちゃいまい。だって胸一杯なのは、あなたが来てくれたからだし。
「じゃあ、大多慶に戻ろうか」
ゆーだいさんがカーナビをセットする。到着予定時刻が8時17分と言っている。
「それで警察は何だって?」
「犯人が見つかり次第連絡くれるって。ただ、クラブセットが戻ってくるかは分からないって」
「そうだな、とっとと処分されてたら、取り戻すのに時間かかるだろうね」
「まあ、最悪今のセットで二次予選以降やれるかも」
「ほう、違和感はなかった?」
「全然。ま、F Wはちょっとは…」
「早く見つかると、いいな。いやあ、それにしても今回は最初から最後まで、ホント災難だったなあ、よく頑張ったね」
て、照れるじゃねえか…
「で、次の二次予選はいつだっけ?」
「確か、5月だったかも」
「そか。時間はたっぷりあるな。良い準備が出来るといいな」
「そだね。ゆーだいさんは、これから忙しく、なるんだよね?」
「いや、別に…」
「だって、秋に結婚式でしょ? 準備が忙しくなるじゃん?」
「まあ、でも土日のどっちかは必ずゴルフ行けるから」
「は? どゆこと?」
「陽菜…フィアンセと、そーゆー契約書をかわしたの。」
「契約って…何それ?」
「月に六回はゴルフに行く権利がある、っていう契約。」
「…結婚って、そんなもんなん?」
「…わからん。」
「ほ、ほーん…」
「……」
それっきりしばらく会話が途切れる。外はすっかり真っ暗になり、Bluetooth接続のカーオーディオから流れるジャズを聞いてるうちにまぶたがたまらんく重たくなってくる。
パッと目を開けると、トンネルの中を走っている。やがてトンネルは大きな口を開け、光る宝石のような海ほたるに近づく。
「あ。ゆーだいさん、トイレ行きたいかも」
「丁度よかった、俺も!」
ごめんねえー、ずっと我慢してくれてたんだあ。車はスッと海ほたるパーキングに入り、いつもよりずっと車の数が少ない駐車場に停車する。
トイレを済ませると自販機の前でゆーだいさんが待っていてくれる。
「何飲みたい?」
アタシは咄嗟に、
「あのさ。ちょっと散歩したいかも」
「いいね。ちょっと歩こうか」
去年のクリスマスの帰り道が思い出される。あの日はずっと幸せだったな、結婚の事を聞かされるまでは。あの日と違い今日は何の期待もトキメキもなく、ただ好きな人との夜の散歩を楽しむんだ。ゆーだいさんの腕にアタシの腕を絡める、そっと身体を寄せる。
「ところでさ、みなみちゃんは結局温泉には行かなかったの?」
「昨日、ちょろっと入ってきたよお、ゆーだいさんはガッツリ入ったんだよねえ」
「ガッツリって… でも、そう、うん。凄く良い湯だったよ」
「そだね。あんなに長く入ったの初めてだったかも」
「な、結構良いもんだったろ?」
まあ、良かったっちゃ良かったけど。
「ゆーだいさんと一緒に入ったらメチャ良さそうかも〜」
「俺さ、昼にそんな夢見たんだわ」
「えなにそれ夢にアタシ出てきたん?マジそれチョー嬉しいかも」
何気に、今日イチ嬉しかったかも。アタシはゆーだいさんの腕を離し、海ほたるの最先端めがけて走り出す。目の前は真っ暗な海だけど、海の向こうには光り輝く東京の湾岸のキラキラした夜景が薄く横に広がっている。
柵に両手を突き、その遠くの街燈を望む。ゆーだいさんが息を切らせて隣にやってくる。
「何故、走り出す… 元気あるなあ、試合終えたというのに…」
それはね。あなたがいるからだよ。
秋には結婚しちゃって、人のモンになっちゃうけど
でも、いいんだよね、
ずっと好きでいて、いいんだよね
アタシは今年、プロになる
絶対試験に受かってみせる
そんで、走り始めるよ、女子プロゴルファーの道を
ねえ、その先には、
あの街の明かりがあるんだよね
目の前は真っ暗な海だけど
その向こうには眩いばかりの光が
あるんだよね
アタシはそこに向かって走るんだ
だからお願い
しっかりとアタシを
見守っていてください。
「一次試験突破のご褒美、まだなんすけど」
「え、ええ? あ、ああ、ごめん。何がいい?」
アタシは遠慮なく、豪快にゆーだいさんの首にしがみ付き、ゆーだいさんの唇に自分の唇をしっかりと重ねる。
ゆーだいさんの腕が力強くアタシの背中に巻き付く。
今日イチの、いや今年イチ、いやいや人生イチのナイスショットな気分じゃん!