第1章 第7話
文字数 1,718文字
衝撃、だった。
これまで、小林社長やリューさん、あとは練習場の上手い人のスイングやショットを結構見てきたけどー
次元が違う。違い過ぎる。
野球で言えば、俺と大谷翔平位、違う。
こんなに美しいスイングは見たことがない。
そして何より、こんなに美しいボールの軌道も見たことがない。
全ての動作に無駄がない。野球でもそうなのだが、いいピッチャーのフォームは無駄がなく美しい。フォームの美しさは球のキレ、即ち球にかかる回転数に大きな影響を与える。
彼女のスイングのフォームはまさにそれである。余計な力みは微塵もない。それでいてテークバックからの切り返しに適切な力が加わり、長い手の遠心力を十二分に活かし、クラブの風切り音は聞いた事もない大きなものだ。
ミートした球はまるで生を与えられたが如く美しい軌道を描きつつ、伸びる! 伸びる! グングンと伸びていき、やがて最高点に達するとカクンと左にカーブし、落下したボールはいつまでも何処までも先へと転がって行ったのだ。
それはドライバーショットのみならず、全てのアイアンショット、ウッドでのショットに共通しており、如何なる傾斜も彼女にかかれば真っ平らな平地から打っているが如し、球は彼女の思いのままに弧を描き、落ちて行くのだった。
そして何よりも目を疑ったのはーパッティングであった。
3メートルの距離は俺の50センチと同じ精度で彼女によって沈められていく。彼女のパターにボールが触れた瞬間、ボールは命を与えられその先の穴に自由落下するまでその転がりは止まることは無かった。
12メートルの下りをピン側10センチに留めた時は、思わず彼女に平伏してしまった。
隔絶の差だ。ドライバーショットは上手くいけば俺の方が飛距離は出るのだが、グリーン周りでは大人とミジンコの差を感じた。
それにー
今日、一緒にラウンドしている彼女からは、特有の匂いとオーラ、即ち勝負師としての匂いとオーラがビンビンに出ており、内気だと思った性格はその真逆であり、後向きと思った性質はとんでもねえ超前向きであった! でなければ、1メートルのバーディーパットを旗がなければ2メートルはオーバーしそうな勢いで打ったりは出来まい。俺には死んでも不可能だ。
最早、プライドなぞ無い。虚無だ。
俺は縋るような心地で彼女に教えを乞う。俺の何がダメなのか。どうしてキミみたいな球を打てないのか、と。
彼女は変わらず仏頂面ながらも、ぶっきら棒ながらもボソボソと答えてくれるー
曰く。
力み過ぎ、也と。
特にグリップを強く握り過ぎているせいで、スイングが不安定になっているという。野球では逆だ。しっかり握っていないと150キロの速球に負けてしまう。
俺は疑う訳ではないが、ちょっとカルチャーショックを受けつつ、152ヤード16番ホールのティーグランドに立つ。ああ、ここは前にグリーン手前の池に入れたホールだ。
「今、何番?」
「8番アイアン、だけど…」
「7番で。さっき言ったように、力抜いて。」
言われるがままに、構える。
「もっと、右向いて。それじゃ左に溢れる」
言われるがままに、右に向き構える。
「池を意識しない! 顎が上がってる。もっと自然に。池を意識から消せ!」
意識から消す。ああ、これって唯一打席に立った甲子園準々決勝の九回裏ツーアウトランナー無し。あの時と同じだ!
2−8。どう考えても逆転は有り得ない。俺はあの時、最後の打者にだけはなりたくない、そんな気持ちで力んでいた。
簡単にツーストライクを取られた後。ベンチの監督から、
「点差を忘れろ! 最後だと思うな! 意識から消せ!」
と叫ばれ、一度打席を外し、言われた通りに点差、状況、なんなら悲痛な応援の声や音までも消してみせた。
正しく無のまま打席に入る。サウスポーの投じた3球目がやけにゆったりと見える。ゆっくり外角低めコース一杯に来るのを眺めながら、力まずスッとバットを下ろすー
真芯に当たる音がした。かつてないボールがひしゃげる感触だった。
今まで打ったことのない勢いでボールはピッチャーの脇を掠め、センター前に転がったー
―気付くと、俺のボールはピン側50センチに佇んでいたー
これまで、小林社長やリューさん、あとは練習場の上手い人のスイングやショットを結構見てきたけどー
次元が違う。違い過ぎる。
野球で言えば、俺と大谷翔平位、違う。
こんなに美しいスイングは見たことがない。
そして何より、こんなに美しいボールの軌道も見たことがない。
全ての動作に無駄がない。野球でもそうなのだが、いいピッチャーのフォームは無駄がなく美しい。フォームの美しさは球のキレ、即ち球にかかる回転数に大きな影響を与える。
彼女のスイングのフォームはまさにそれである。余計な力みは微塵もない。それでいてテークバックからの切り返しに適切な力が加わり、長い手の遠心力を十二分に活かし、クラブの風切り音は聞いた事もない大きなものだ。
ミートした球はまるで生を与えられたが如く美しい軌道を描きつつ、伸びる! 伸びる! グングンと伸びていき、やがて最高点に達するとカクンと左にカーブし、落下したボールはいつまでも何処までも先へと転がって行ったのだ。
それはドライバーショットのみならず、全てのアイアンショット、ウッドでのショットに共通しており、如何なる傾斜も彼女にかかれば真っ平らな平地から打っているが如し、球は彼女の思いのままに弧を描き、落ちて行くのだった。
そして何よりも目を疑ったのはーパッティングであった。
3メートルの距離は俺の50センチと同じ精度で彼女によって沈められていく。彼女のパターにボールが触れた瞬間、ボールは命を与えられその先の穴に自由落下するまでその転がりは止まることは無かった。
12メートルの下りをピン側10センチに留めた時は、思わず彼女に平伏してしまった。
隔絶の差だ。ドライバーショットは上手くいけば俺の方が飛距離は出るのだが、グリーン周りでは大人とミジンコの差を感じた。
それにー
今日、一緒にラウンドしている彼女からは、特有の匂いとオーラ、即ち勝負師としての匂いとオーラがビンビンに出ており、内気だと思った性格はその真逆であり、後向きと思った性質はとんでもねえ超前向きであった! でなければ、1メートルのバーディーパットを旗がなければ2メートルはオーバーしそうな勢いで打ったりは出来まい。俺には死んでも不可能だ。
最早、プライドなぞ無い。虚無だ。
俺は縋るような心地で彼女に教えを乞う。俺の何がダメなのか。どうしてキミみたいな球を打てないのか、と。
彼女は変わらず仏頂面ながらも、ぶっきら棒ながらもボソボソと答えてくれるー
曰く。
力み過ぎ、也と。
特にグリップを強く握り過ぎているせいで、スイングが不安定になっているという。野球では逆だ。しっかり握っていないと150キロの速球に負けてしまう。
俺は疑う訳ではないが、ちょっとカルチャーショックを受けつつ、152ヤード16番ホールのティーグランドに立つ。ああ、ここは前にグリーン手前の池に入れたホールだ。
「今、何番?」
「8番アイアン、だけど…」
「7番で。さっき言ったように、力抜いて。」
言われるがままに、構える。
「もっと、右向いて。それじゃ左に溢れる」
言われるがままに、右に向き構える。
「池を意識しない! 顎が上がってる。もっと自然に。池を意識から消せ!」
意識から消す。ああ、これって唯一打席に立った甲子園準々決勝の九回裏ツーアウトランナー無し。あの時と同じだ!
2−8。どう考えても逆転は有り得ない。俺はあの時、最後の打者にだけはなりたくない、そんな気持ちで力んでいた。
簡単にツーストライクを取られた後。ベンチの監督から、
「点差を忘れろ! 最後だと思うな! 意識から消せ!」
と叫ばれ、一度打席を外し、言われた通りに点差、状況、なんなら悲痛な応援の声や音までも消してみせた。
正しく無のまま打席に入る。サウスポーの投じた3球目がやけにゆったりと見える。ゆっくり外角低めコース一杯に来るのを眺めながら、力まずスッとバットを下ろすー
真芯に当たる音がした。かつてないボールがひしゃげる感触だった。
今まで打ったことのない勢いでボールはピッチャーの脇を掠め、センター前に転がったー
―気付くと、俺のボールはピン側50センチに佇んでいたー