第6章 第2話

文字数 2,542文字

 じーちゃんの手術は無事に成功した。てか、ゆーだいさん曰く、大成功だったそーだ。次の日には退院して、家に帰ってきた。アタシは支配人にお願いして、当分の間家から通わせてもらう事にした。

「そうですか、源さんの膝、良くなるんですね。嬉しいな、また源さんの魔法の様なショットを見られるんだ。みなみちゃん、なんなら午後からでいいですよ。午前中は源さんの面倒を見てあげてください」
 なんて嬉しいことを言ってくれて、思わず泣いてしまう。

 退院して家に戻った日。あの構図だけは許せんかった… フツー、じーちゃんを間にして母ちゃんとゆーだいさんが支えるもんじゃん? なのにあのババア、しれっとゆーだいさんの腕に手回して嬉しそーに帰ってくるし。
「ゆーだいさん。マジ、気をつけて」
「へ? 何が?」
「あのオンナ。マジヤバイから。」
「ど、どゆこと?」
「アタシの知ってるだけで、5人。」
 そう言ってアタシは手を広げてゆーだいさんに突き出す。
「人生をあのオンナに狂わされて、町を出て行ったり、会社クビになったり、ひどい奴は日本にいられなくなって東南アジアに逃げてったり」
 ゆーだいさんの顔が蒼白になる。
「マジ魔性だから。アタシの友達のお父さん、あのオンナに入れ上げてそれがバレて離婚して今沖縄のちっちゃい島で一人暮らし…」
 ゆーだいさんが震え出す。
「多分、被害者はその何倍もいると思う。だから、マジで気をつけて」
「わ、わかった…」
「ゆーだいさんって、あのオンナのドストライクだから。背高くてガッチリして見るからにスポーツマンで」
「や、やめてくれ…」
「ちょっと不器用で、すっごく優しくて」
「やめろ、マジやめろ…」
「このままだと、あと半月でゆーだいさんオチるわ。いい、一度でもハマったら絶対抜け出せないよ、あのオンナからは」
「ヒ、ヒィー」
「なんでもね、スッゲーテクなんだって。それで男はみんないt  っ痛えーな、何すんだクソババア!」
「あることねーこと言ってんじゃねーよ、この肩幅オンナ!」
「は… はあ? なんだよそれ!」
「親の悪口ペラペラ言ってんじゃねーよ、この足のサイズ26.5オンナ!」
「や、やめろっ それ以上、言うなっ」
「そんならもう私の事、悪く言わないって約束すっか、この脇毛ボーボーオンナ!」
「やめてーーーーーーーー」
「二度とゆーちゃんに私の悪口言わないって誓えや、このパンツ二日で裏表一枚オンナ!」
「きゃあーーーーーーー」
 … みなみちゃんはにげだした。

 それから。じーちゃんの世話はもっぱら母ちゃんがこなす。アタシと弟二人は母ちゃんの代わりに家の仕事―洗濯、掃除、食器洗い、を担当する。
「大、洗濯は終わったか?」
「っセーな、終わったよ」
 よし。
「おい、源。掃除はちゃんと済んだか?」
「ねーちゃん。俺らにばっかやらせて、自分じゃやんねーし。ズルいし」
「はあ? テメエ。なんか言ったかコラ?」
「い、いえ。特には」
 今日も筒がなく(恙なく)家事は終わる。

 家事は慣れる(やらせる!)と時間を取れる。ので、ちょっと自分の時間を作ってみる。何をするって? まずは脇毛の処理でしょ、それと下着は一日一枚。慣れると洗濯も(やらせると)楽だと分かったし。
(おい源。ねーちゃんのアレ、動画撮ってけ!)
(それなっ いつか仕返ししたる!)
 さすがに手と指を使う仕事を目指してるから、包丁仕事は勘弁してもらっている。
「みなみ。包丁だけは持つな。なんなら、ハサミもやめとけ。」
「わ、分かった。でもさ、鼻毛切るとき…」
「切るな。抜け。」
「ええーーー」

 試しにやってみたら、フツーに鼻血出て痛かった。
 後の家事は弟達に任せ(!?)、昼飯食った後はチャリで大多慶G Cへ。練習グリーンでのパッティングは相変わらず調子が悪い。ドライバー、アイアンはむしろ絶好調なんだけどなあ。
 夕飯食いながらじーちゃんに話すと、
「明日。パター持って帰ってこい」
「え、何? 教えてくれんの?」

 そして翌日。背中にパターを括り付けて帰宅する。
「じーちゃん、持って帰ったよ。ちょっと見てくんない?」
 我が家の庭にはちょっとしたグリーンがあるのだ。その一角は冬でも緑がキレイで、子供の頃からその上で弟達と相撲をとってよくじーちゃんに怒鳴られたもんだ。

 3球転がすと、じーちゃんが
「そのパター、見せてみろ」
 と言うのでホイっと差し出す。
 じーちゃんは目を細め、険しい表情で
「お前。このシャフト自分で直したのか?」
 まさか。アタシ、シャフト交換なんて出来ねーし。やり方も知んねーし。
「誰が、付け替えた?」
 延岡まゆによって事故死したパターのシャフトは、グリーンキーパーのテツさんがF Wのシャフトと一緒に交換してくれたのだ。

「雄大を、呼べ」
 ハア? 何それ?
「あいつにそれを預けろ。テルの工房に持って行かせろ」
 テルって、こないだゆーだいさんがクラブ買ってくれた、千葉市のあのショップ?
「パターのシャフトは素人では直せん。見てみろ」
 アタシはじーちゃんの背中にまわる。
「シャフトが微妙に曲がっておる。それに接着も中途半端だ。そして何より、」
 シャフトの真ん中を指で吊ってみせる。
「バランスが狂っとる。ヘッドの重さと釣りあっちょらん。もっと軽いシャフトを入れなきゃいかん。これでは微妙なタッチが出ない。違うかみなみ?」
 まあ驚いた。その通りっす…
「素人にしてはまあまあじゃが。ちゃんとした職人が直せば元通りになるだろ。だから雄大に連絡しろ。ほれ、早く!」

「何だって? シャフトに問題があったって?」
「そーなんだわ。じーちゃんの言う通り、なんか違うわ、このシャフト。」
「分かった、すぐにテルさんに連絡しよう。そうだ、一日も早い方がいいから、明日コンビニから直接テルさんに送るといい。そうすれば明後日には出来上がるだろう」
「マジ? それチョー助かる…」
「微調整があるから、どっちにしろ一緒にいかないとだけど。明後日、予定は?」
 相変わらず、やる事早いよ。さすがだなあ。
「大丈夫。午後、空いてるよ。でも、ゆーだいさん、会社…」
「いい。源さんの診察って言えば、社長業務範囲内だから。じゃあ明後日、一時に実家でいいか?」
「うん。助かる。ありがと。」

 やった! 明後日、会える!
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