第7章 第2話
文字数 1,746文字
ちょっと眠たくなったのでブラックコーヒーでも、と練馬I Cを降りてすぐのコンビニに車を停める。最近のコンビニのコーヒーは相当美味い。ゴルフの帰りもよく買う。お気に入りはセブンのだが、ファミマでも遜色なく思う。
そんなファミマでコーヒー代をスマホで払い、ふとライン着信に気が付く。みなみちゃんのありがと、お休みなさいメッセージかな、と開いてみて息が止まるー
停めている車のトランクを開けると、大多慶で積み込んだままのみなみちゃんのゴルフバックが鎮座しているー
やっちまった!
なんてことを…
どうしてホテルに送って行った時にゴルフバックの事から意識が飛んだのか… ああ、そんなことはどうでもいい、すぐに引き返して渡さなければ!
慌てて車に飛び乗り、ナビをセットし直し、車を発進させる。到着予定時刻は1時37分。スマホをスマホ置きに固定し、みなみちゃんに電話をかける。
「ゆ、ゆーだいさん? ごめんね、なんか…」
「いや。俺がミスった。俺のせい。ホント申し訳ない。それで今から送り届けるから。明日早いだろ、もう寝ていてくれ。ホテルのフロントに預けておくから、明日の朝受け取ってくれ、いいかい?」
「だ、ダメだよ… もう遅いし、それに疲れているでしょ、コンビニから宅急便で送ってくれれば明後日(明日)には間に合うよ」
「明日(今日!)の練習ラウンドに必要じゃないか! 疲れ? そんなのないし。1時間半でそっちに着くから。1時半にはそっちに着くから、な、さっき言った通りにもう寝ていてくれ」
「そ、そんな… アタシのせいで…」
「いや。俺の責任だ間違いなく。すまん、許してくれ…」
「でも、ホント遅くなっty…」
「もう高速乗っちゃったよ。だから。な?」
「… あ、り、が、と… あの、お願いだからっ…」
「え? なに?」
「事故にだけは… 気をつけて…」
俺はハッとする、そう言えばみなみちゃんのお父さん、交通事故で…
「絶対、ぜったい安全運転で、お願い、遅くなっていーから…」
語尾が震えている。俺は一つ深呼吸をして、
「わかった。法定速度以下で向かう。絶対安全運転を維持する。そして安全にそこに着く。だから…」
「うん… なんか寝れそーにないけど…」
「…ま、まあベッドに横になって目を瞑るだけでも。わかったかい?」
「うん。無事に、ね、安全に、ね?」
電話を切ってから思い返し、思わず首を振ってしまう。
そう言えばみなみちゃんは俺が迎えにいく時や送迎後に一人で帰る時、やけに安全運転を口にしていたな、ちょっとでも遅れると涙目でエントランスで待っていたな、それって…
そういう事だったんだな。
俺はオートクルーズを80キロにセットする。どうせフロントに預けるのだから遅くなっても構わない。ゆっくり、行こう。
ちょっと冷めたブラックコーヒーが何故か胸に沁みる。
今夜二度目の上里サービスエリアでトイレ休憩をする。スマホに陽菜からの着信があり、
『明日朝から料理教室あるから帰宅するね』
… すまん。
これから先、どれほど陽菜をヤキモキさせることになるだろう。俺がみなみちゃんを応援し続ける限り、ずっとだろうな…
でも。ゴルフ、そしてみなみちゃんに関しては、譲れない。俺の聖域と言えよう。もしここが崩されるならば、婚約解消になっても吝かではない。その結果会社にいられなくなろうと…
そう思っていると、こんな時間に、
『運転、気をつけて。お休みなさい』
とメッセージが来る。おやすみ、のスタンプを返す。そしてまだ息が白い深夜のサービスエリアを見渡し、両手をポケットに突っ込みながら車に戻る。
時計を見ると一時過ぎ。ナビの到着予定時刻は1時43分。
みなみちゃんはもう寝たであろうか。否、きっと起きていることだろう。
到着したらみなみちゃんには知らせずに、フロントにそっと預けて引き返そう。それが俺に出来る陽菜へのたった一つのこと。
エンジンを切り、すっかり冷めたコーヒーの紙カップをサービスエリアのゴミ箱に捨てに行き、代わりにホット缶コーヒーを自販機で買い、車に戻る。そしてエンジンをかけ、車を走らせる。
あと僅かな距離なのに何故か永遠の道のりを感じる。
どうか、ホテルのエントランスでみなみちゃんが不安げな表情で待っていませんように…
そんなファミマでコーヒー代をスマホで払い、ふとライン着信に気が付く。みなみちゃんのありがと、お休みなさいメッセージかな、と開いてみて息が止まるー
停めている車のトランクを開けると、大多慶で積み込んだままのみなみちゃんのゴルフバックが鎮座しているー
やっちまった!
なんてことを…
どうしてホテルに送って行った時にゴルフバックの事から意識が飛んだのか… ああ、そんなことはどうでもいい、すぐに引き返して渡さなければ!
慌てて車に飛び乗り、ナビをセットし直し、車を発進させる。到着予定時刻は1時37分。スマホをスマホ置きに固定し、みなみちゃんに電話をかける。
「ゆ、ゆーだいさん? ごめんね、なんか…」
「いや。俺がミスった。俺のせい。ホント申し訳ない。それで今から送り届けるから。明日早いだろ、もう寝ていてくれ。ホテルのフロントに預けておくから、明日の朝受け取ってくれ、いいかい?」
「だ、ダメだよ… もう遅いし、それに疲れているでしょ、コンビニから宅急便で送ってくれれば明後日(明日)には間に合うよ」
「明日(今日!)の練習ラウンドに必要じゃないか! 疲れ? そんなのないし。1時間半でそっちに着くから。1時半にはそっちに着くから、な、さっき言った通りにもう寝ていてくれ」
「そ、そんな… アタシのせいで…」
「いや。俺の責任だ間違いなく。すまん、許してくれ…」
「でも、ホント遅くなっty…」
「もう高速乗っちゃったよ。だから。な?」
「… あ、り、が、と… あの、お願いだからっ…」
「え? なに?」
「事故にだけは… 気をつけて…」
俺はハッとする、そう言えばみなみちゃんのお父さん、交通事故で…
「絶対、ぜったい安全運転で、お願い、遅くなっていーから…」
語尾が震えている。俺は一つ深呼吸をして、
「わかった。法定速度以下で向かう。絶対安全運転を維持する。そして安全にそこに着く。だから…」
「うん… なんか寝れそーにないけど…」
「…ま、まあベッドに横になって目を瞑るだけでも。わかったかい?」
「うん。無事に、ね、安全に、ね?」
電話を切ってから思い返し、思わず首を振ってしまう。
そう言えばみなみちゃんは俺が迎えにいく時や送迎後に一人で帰る時、やけに安全運転を口にしていたな、ちょっとでも遅れると涙目でエントランスで待っていたな、それって…
そういう事だったんだな。
俺はオートクルーズを80キロにセットする。どうせフロントに預けるのだから遅くなっても構わない。ゆっくり、行こう。
ちょっと冷めたブラックコーヒーが何故か胸に沁みる。
今夜二度目の上里サービスエリアでトイレ休憩をする。スマホに陽菜からの着信があり、
『明日朝から料理教室あるから帰宅するね』
… すまん。
これから先、どれほど陽菜をヤキモキさせることになるだろう。俺がみなみちゃんを応援し続ける限り、ずっとだろうな…
でも。ゴルフ、そしてみなみちゃんに関しては、譲れない。俺の聖域と言えよう。もしここが崩されるならば、婚約解消になっても吝かではない。その結果会社にいられなくなろうと…
そう思っていると、こんな時間に、
『運転、気をつけて。お休みなさい』
とメッセージが来る。おやすみ、のスタンプを返す。そしてまだ息が白い深夜のサービスエリアを見渡し、両手をポケットに突っ込みながら車に戻る。
時計を見ると一時過ぎ。ナビの到着予定時刻は1時43分。
みなみちゃんはもう寝たであろうか。否、きっと起きていることだろう。
到着したらみなみちゃんには知らせずに、フロントにそっと預けて引き返そう。それが俺に出来る陽菜へのたった一つのこと。
エンジンを切り、すっかり冷めたコーヒーの紙カップをサービスエリアのゴミ箱に捨てに行き、代わりにホット缶コーヒーを自販機で買い、車に戻る。そしてエンジンをかけ、車を走らせる。
あと僅かな距離なのに何故か永遠の道のりを感じる。
どうか、ホテルのエントランスでみなみちゃんが不安げな表情で待っていませんように…