俺は言った。「とりあえず全部、アニメのせい」
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家の二階から庭へ、ひらりと降り立ったその人影。
大きなバッグ二つを抱えて、門を出て来てた。
遊田だった。
ぴったぴったと裸足でアスファルトの上を駆けてくる。
暗がりにいる俺には気づいてないようで、こっちには目もくれず、ひたすら走ってきて。
俺の前を横切ろうとして、やっと気づいた。
声を押し殺して、遊田は驚いた。
そんな軽口を言っているが、赤く腫れた頬や、
鼻の穴に突っ込まれている血の滲んだティッシュペーパーが痛々しい。
と言って、遊田はまた走り出したわけだ。
で、高級住宅街から離れた公園まで来てから、遊田はベンチに座った。
切れた息を整えている。
「逆だ。
家の中から、オヤジさんやお袋さんの悲鳴が聞こえたら、包丁を振り回すお前を止めにいこうと思ってた。
俺は嫌だぞ。
ワイドショーとかで、殺人少女Aの友人としてインタビューされちゃったりするのは。
例えばこういう風にだ――
得意技はローキックです。威力は全盛期の魔裟斗です。
あと、ドラえもんが好きです。
『のび太と鉄人兵団』が、この世で最強の映画だと言ってました」
こいつの持って来た大きなバッグ二つは、家出の荷物ってわけか……。
水道でハンカチを濡らして、渡したよ。
そりゃ意外だ。
こいつは今や、かつての召愛並に孤立しちゃってるわけで、友人らしい友人なんか、最近はさっぱり見かけない。
というわけで、俺たちは途中のドンキホーテでサンダルを買ってから、深夜バスに乗り、遊田の貴重な友だちとやらの所へと向かった。
遊田の案内にひたすら従ってるわけだが、羽里学園へ向かってる気がするのは、気のせいだろうか。
というか、ほぼ通学路だ。
と、思ってたのだが。
あれだ。
辿り付いたところは――
羽里学園のグループホーム寮。
俺と召愛が住んでるとこだ。
で。