俺は言った。「とりあえず全部、アニメのせい」

文字数 1,819文字

 家の二階から庭へ、ひらりと降り立ったその人影。

 大きなバッグ二つを抱えて、門を出て来てた。














「――」

 遊田だった。


 ぴったぴったと裸足でアスファルトの上を駆けてくる。

 暗がりにいる俺には気づいてないようで、こっちには目もくれず、ひたすら走ってきて。


 俺の前を横切ろうとして、やっと気づいた。

「わっ……!」

 声を押し殺して、遊田は驚いた。

「な、なにやってんのよ、あんた。

 痴漢かなにか?」

 そんな軽口を言っているが、赤く腫れた頬や、

 鼻の穴に突っ込まれている血の滲んだティッシュペーパーが痛々しい。

「そりゃ、いいな。丁度、獲物も来たようだし」

「あんたには、そーゆーの一生無理よ。

 ラブホに誘ってる女子すら、引っ張っていけないんだから。

 そんなことより、ちょっと一緒に来て」

 と言って、遊田はまた走り出したわけだ。





 で、高級住宅街から離れた公園まで来てから、遊田はベンチに座った。

 切れた息を整えている。

「あんなとこで、何してたのよ」

「あの状況で、帰れって言われても、素直に帰れるわけないだろうが」

「なによ。あたしを助けてくれようとでも、考えてたわけ?」

「逆だ。

 家の中から、オヤジさんやお袋さんの悲鳴が聞こえたら、包丁を振り回すお前を止めにいこうと思ってた。


 俺は嫌だぞ。

 ワイドショーとかで、殺人少女Aの友人としてインタビューされちゃったりするのは。

 例えばこういう風にだ――

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「どうも、毎度おなじみのワイドショーのリポーターです。

 クリスチャン夫婦惨殺事件の容疑者である、少女Aの友人に、お話を伺おうと思います。それでは、お友達の方、よろしいでしょうか?」

「はい」
「少女Aはどのような方だったのでしょうか?」
「すごく凶暴な奴で、以前にも母親を刺した話しを、笑って話してました。俺もフォークで刺されたりして、酷い目にあわされてましたね。

 得意技はローキックです。威力は全盛期の魔裟斗です。


 あと、ドラえもんが好きです。

のび太と鉄人兵団』が、この世で最強の映画だと言ってました」

「なるほど、アニメがこの殺人事件の原因と言うわけですね?」
「え……。いや、なんでそうなるんだよ……。

 今の話しだと、どう考えても、本人の人格が、やばげじゃねえか?」

「容疑者は犯行前に6時間もアニメを見続けていたらしいですが、やはり、現実と空想の区別が付かなくなってしまったのでしょうか?」
「アニメ見ただけで、人殺すんなら、

 今頃、日本の人口ゼロになってんじゃねえのか……?」

「つまり、アニメは人類を滅ぼす害悪であるというわけですね。

 おそろしいですねえ。

 これはやはり、規制が必要なのではないでしょうか?」

(ダメだ……。

 話しが通じねえ……)

_______________________________________
「――みたいな結論ありきのダメ報道で、ドラえもんが放送禁止になっちまうかも知れなかったんだぞ。お前のせいで」
「そ、そうね。

 危うく、ドラえもんに迷惑を掛けるところだったわ……。

 おお、神(ドラえもん)よ。赦したまえ」

(冗談で言ったつもりだったんだがな……)
「でも、殺そうかと迷ったけど、今回は、家出してきたわ。

 あんなゴミを処理したせいで、一生、刑務所の中なんて、アホくさいもの」

 なるほど。

 こいつの持って来た大きなバッグ二つは、家出の荷物ってわけか……。

「殴られたとこ、痛いだろ。冷やしとけ」

 水道でハンカチを濡らして、渡したよ。

「う、うん」

「で、友だちかどっかのとこに、行く当てあんのか?」

「とーぜん、あるわ」

 そりゃ意外だ。


 こいつは今や、かつての召愛並に孤立しちゃってるわけで、友人らしい友人なんか、最近はさっぱり見かけない。

「そうか。んじゃ、そこまでは送ってく」

「案内するから、付いて来て」

 というわけで、俺たちは途中のドンキホーテでサンダルを買ってから、深夜バスに乗り、遊田の貴重な友だちとやらの所へと向かった。


 遊田の案内にひたすら従ってるわけだが、羽里学園へ向かってる気がするのは、気のせいだろうか。

 というか、ほぼ通学路だ。

(学校の近くの友だちなんだろうな)

 と、思ってたのだが。


 あれだ。

 辿り付いたところは――









          羽里学園のグループホーム寮


 俺と召愛が住んでるとこだ。

 で。

「着いたわ」
 と、玄関前で、のたまったのだった。
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登場人物紹介

通称:コッペ


パンを食いながら走ると、美少女と出会えるという、王道ラブコメ展開の罠にかかった不運の主人公。

ぴちぴち元気な高校一年生の16歳。


コッペパンを食いながら激突してしまった相手が、美少女ではなく、ガチムチ紳士だったという、残念な奴。

そのせいで、あだ名がコッペになってしまう。


超ブラック校則学校、羽里学園に、そうと知らずに入学してしちゃったウッカリさん。

健気に、理不尽な校則と戦うぜ。

がんばれ。

名座玲 召愛 (なざれ めしあ)


コッペと共に、超ブラック校則学園、羽里学園に入学する女子高生。

高校一年生。


ドン引きするほど、良い奴だが、ドン引きするほど、すごく変人。

という、類い希なるドン引き力を兼ね備えた、なんだかんだ超良い奴。

なので、事ある毎に、羽里学園のブラック校則と対決することに。


こんなキラキラネームだが、どうやら、クリスチャンじゃないらしい。

聖書も1ページすら読んだ事もないらしい。

そのくせ、自分をとんでもない人物の生まれ代わりであると自称しだす。

究極の罰当たりちゃん。


座右の銘は。

「自分にして貰いたいことは、他人にもしてあげよう」

いつの頃からか、このシンプルな法則にだけ従って行動してるようだ。

羽里 彩 (はり さい)


超ブラック校則学校、羽里学園を作った張本人。

つまり、理事長、そして、暫定生徒会長。

そう、自分で作った理想の学校に、自分で入学したのです。

他人から小中学生に見られるが、ちゃんと16歳の高校生。


世界有数の超大企業の跡取りであり、ハイパーお嬢様、ポケットマネーは兆円単位。


人格は非の打ち所のない優等生で、真面目で、頭が硬く、そして、真面目で、真面目で、真面目で、頭が硬い。


真面目すぎて千以上もあるブラック校則を、全て違反せずに余裕でこなす。

つまり、ただのスーパーウルトラ優等生。

遊田 イスカ (ゆだ いすか)


コッペたちのクラスメイト。みんなと同じ16歳。

小学生まで子役スターだった経歴を持つ、元芸能人。

物語の中盤から登場して、召愛に並々ならぬ恨みを抱き、暴れ回るトラブルメイカー。

通称:【議員】のリーダー 

本名: 波虚 栄 (はうろ はえる)


【議員】と俗称されるエリート生徒たちのリーダー。

厳格な校則を維持することに執着し、それを改正しようとする召愛と、激しく対立する。

校則の保守に拘ることには何かしら過去に理由があるようだ。

高校一年生だが17歳。

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