【一日目】それぞれの結末へ『コッペの場合』
文字数 1,844文字
――ピピピピッ!
――ピピピピッ!
眠りから引きずり出された意識が、ぼんやりしながらも条件反射で考えだしてしまう。
『もう朝か。さっさと登校する準備をしなきゃな』と。
その思考はこう続く。
『起きたら、まずはシャワーだ。召愛や遊田に占拠される前に行かないと、散々待たされることになる。まったく女どもというのは、風呂が長いから困るんだ。
それと今日の授業はなんだったか。宿題は忘れてないよな?
ワンミスで退学になっちまうんだ。
今さら退学なんて、絶対に嫌だぞ。
せっかく、召愛が生徒会長になって、羽里学園が本物の楽園になるんだ。
これからが、俺の高校生活の本番じゃないか。
しかも、あと少しで夏休み。
何日か日雇いのバイトでもして金を作って、召愛をどっかに連れってやるのも良いかも知れん。俺たちの関係がハッキリした今、それくらいはしてやってもいいだろう。
そんでだ。夏休みの間に、キスの一回くらいはしてしまうかも知れん。
いや、むしろ、〝初体験〟なんていうことも、十分に――』
思考がそこまで至った時、非常に興奮してしまった俺の意識は完全に目覚めた。
そして、目を開けた――
実家の、自分の部屋、だった。
家具のほとんどが、まだ寮に残されたままで、物がほとんど無い、俺の部屋だ。
改めて理解する。
自分は昨日、退学になり、全てを失ったのだと。
ついに24時間前までは、俺の周りにあった全てが、二度と手の届かないところに行ってしまったのだと。
さっきまでの思考の全てが、妄想でしか、あり得なくなってしまったのだと。
だが、そんな事をしても、昨日までの日々が戻って来るわけでもない。
泣こうが喚こうがだ。
俺は、壁に拳をあてた姿勢のまま、その場でへたり込んでしまった。
勝手に溢れそうになる涙が嫌で、強引に瞼を閉じて、押しとどめた。
失ったものは――あまりに大きすぎた。
退学から1日目。
最悪の精神状態から、その日は始まった。
俺は野毛山動物園に来ていた。
そして、『森の賢人』オラウータンに話しかけていた。真剣にだ。
俺の脳内音声――要するに自問自答だ。
人は人生に行き詰まったとき、動物園にきて、オラウータンと喋る生物なのだ。
召愛だ。あいつとだけは離れたくなかった!
わかるか、人生初の彼女だぞ!
お互いしっかり告白しあった。純度100%の恋人だ。
たった1秒くらいの間だけだったけどな!」
「お前が真犯人ではないと、バレしてしまう。
また羽里家の当主が難癖を付けてくるやも知れぬ。
いや……既に、当主には察せられてはいるだろう。だが、お前が召愛と接触しない限り、難癖をつける根拠がなく、彩との約束を守らざるを得まい」
心の中で言ってやった。
『おいボウズ、お前もあと10年もすれば、同じ事をするようになる』とだ。
そして、俺はボウズの母親の不審人物を見るような目から、逃れるように、その場を後にした。
明日からどうすりゃいいのかの検討も、まったくつかぬまま、これからどこに行くかも、まったく考えつかないままだ。