遊田イスカは言った。「あんた男でしょ……遊田イスカと、やりたくないの!?」①
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――上映が終わった時。俺の緊張感はマックスに達していた。
観客からどんな感想を言われるのだろう、とだ。
もしかして、スタンディングオベーションが、巻き起こったりするんじゃないか、なんて期待もした。
けど、視聴覚室に明かりが点くと、観客は普通に立ち上がっただけだった。
そりゃあ、まあ、そうだったよな。
日本の映画館で、スタンディングオベーションなんかする奴は見たことがない。
けど、みんな、一緒に来た友人なんかと、視聴覚室を出て行きながら、感想を言い合ってる。それが聞こえてきた。
あの艦長役の男の子、なぜか船に乗ってるシーンで、ずっと、すごい興奮してたよね。なんかハァハァ、ハァハァしててキモかった……」
――とまあ、一部、主に大和の艦長役に対して不評はありながらも、概ねで、好評な言葉が聞こえて来て、安心したよ。
これまでの苦労が報われた気がした。
嫌がらせ的な無茶ぶり企画から始まって、キャッチ&リリース&エンドなシナリオを克服し、アイドル映画キャスティングの罠を乗り越え、二ヶ月間の努力が実った。
そりゃあ、すんげえ興奮しつつ、楽しんでやったのは事実なのだが、気持ち悪いとは酷い。人生は楽しまなきゃ嘘だぞ?
さらに客入りが多かった。
初日の公開に、映画評論がこぞって見に来てたらしく、そのレビューが好評だったのだそうだ。
俺もそのレビューとやらを見てみたが、なんつーかあれだ。
手加減されてる感が、ひしひし伝わってくるようなレビューだった。
学生映画に、厳しい意見をぶつけるのは、大人げないとでも思ってるんだろう。
唯一違っていたのは、遊田ロレンツァへの評価だけだ。
ここだけはガチで評論されてた。もちろん、極めて肯定的にだ。
こぞって芸能界引退を惜しむ声が書かれていた。
日本という国の損失とすら言ってる奴も居たほどだ。
三日目、文化祭最終日。
平日だったにも関わらず、二日目と変わらない客入りを記録した。
映画の出来うんぬんではなく、話題性だけで、こんなにも人が来るってのが、複雑な気分ではあったが、大勢の人に見て貰えるのなら、素直に嬉しかったよ。
そして。
祭りの時間は過ぎ去り、校内から、全てのお客が帰った後――。
真ん中におかれた机の上に、食べ物や飲みのもなんかが、所狭しと並べられている。
だが――。
ただ一人だけ、その輪に加わらずに、帰り支度をしてる奴がいた。
みんなが遊田を見たよ。冷ややかな眼差しでだ。
そして、遊田は荷物を持って廊下へと出て、乱暴に扉を閉め、行ってしまった。
立ち上がって。
教室の外へ歩き出したよ。