セカンドキス(仮)
文字数 2,796文字
そこを歩いていた俺は、不意に、後ろから忍び寄って来た誰かに、背後から両目を塞がれた――。
おいおいおい……。
背後から目隠して、『だーれだ♪』なんて、今時はだな。
小学生向けの少女漫画でも許されないようなベタなイチャコラ展開じゃねえか。
結局、俺が鍵を探しに行くことを、召愛に言ったってことか、こりゃ。
いくら、なんでも、ちょっと浮かれ過ぎじゃないのか?
でも、そうした所で、何か得られるものが?
あるわけがない。
だって、『お前は誰が好きなんだ?』と問われれば、こう答えるしかない。
それは、この学校に入ってから、もっとも多く、一緒に笑い。もっとも多く、一緒に悲しんで。もっとも多く、一緒に憤り。もっとも多く、一緒に喜んだ奴であると。
そして、そいつが、『はっきりさせたい』と望むなら、そうしてやりたい、とも思ってしまってる。
ぶっちゃけ、俺はガチガチに体が固まってしまった。
スーパー緊張した。
そして。
俺の唇に、何かが触れた。
ドキリとしたよ。心臓が信じられないくらいバクバク言ってる。
でも、でもだった。
なんかこう……。俺に唇に触れた召愛の唇は妙に硬くて。
俺の唇の内側に侵入してきた〝それ〟は、甘酸っぱいレモンの味がした。
なんだこれ、もしかしてファーストキスは甘酸っぱいって、本当だったのか?
いや、厳密に言えば、遊田との事故チューの後だから、セカンドキスか?
――いや、おかしいだろ!
と俺は閉じてた目を開けたよ。
そしたらもう、目隠しはされてなくてだな。
俺の目の前にはだな――。
と、遊田野郎が一人で、なぜか居たわけでな……。
なぜか、アンニュイな顔しててだな。
召愛はどこにも居なくてだな。
その遊田野郎がだ。
俺の口に棒付きの何か甘い物を突っ込んでいたわけでな……。
そんで、のたまった。
召愛の口調で、声まで真似てだ。
それが、すげえ似てたもんだから、腹が立つより先に感心しちまったぜ。
そういやこいつ、女優だけじゃなくて声優もやってたんだな、と思い出したぜ。
まったく才能を無駄に使いやがって……。
キャンディーを口に突っ込まれたまま、ろれつが回らない口で言ってみた。
ケロッとして言いやがった。
そんで、俺の口から、スポッと抜いた棒付きキャンディを、遊田は自分の口に入れてだな。
とか、ふつーに楽しげに、のたまってきたわけだが。
なんだよ……。この行動は。
ボケてるわけでも、からかってる感じでもなさそうだし、どうリアクションすりゃいい。
面食らった。
こんな良い奴、遊田じゃねえ!
遊田は楽しげに顔を笑わせて、俺の腕を抱き寄せて、引っ張ったよ。
俺は腕を放させようとしたが、遊田は断固として、離しやがらねえ……。
なんだそりゃ、どういう意味だ。
なんて言い合ってる間にも、ぐいぐい引っ張られて行ってしまう。
せっかく平和になった今、変な波風は立てたくない。
俺は遊田の両手を、強引に振り払ったよ。
そしたらだ。
遊田の奴め、すんごいショックそうな顔しちゃてな。
俺を見詰めてきて、こう、ウルウルと泣き出しそうな目をしちゃってだな。
俺はもっと文句を言ってやろうと思ったのだけど、あれだ……ウルウルお目々で、じっと見詰めれると、もう、俺の喉から出かかったあらゆる言葉が、封印されてしまったようで、けして口から先に出ることはなくてだな……。
なあ、これって反則じゃないか?
なんも言えないじゃねえか……。
負けた。
仕方なく、俺は右腕を差し出して、掴ませておいたよ。
んで、言っておいた。
なんて、嬉しそうに頷いて、俺の右手に指を絡ませたわけだ……。
こいつはほんとに……どうなっちまったんだろうな?