羽里彩は言った。「この学校は、校則という弾幕を回避する、弾幕ゲーですが何か?」
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――校則全書をざっと読んでみただけでも、
さらに絶望せざるをえなかった。
スカスカどころか、生活の事細かい部分まで、ルールが決められているのだ。
例えば、挨拶をする時の角度や声量、手の洗い方まで決められてる。
うっかりしておらずとも、余裕で違反しかねない。
しかも他の生徒なら、反省文とかで済むような軽い違反でも、俺たちは被弾=即死なのだ。
この無数の校則が、俺には弾幕シューティングゲームの弾幕にしか見えなかった。これからは、その隙間をかいくぐるようにして、暮らしていかなければならない。
「だ、弾幕濃すぎだろう……なにやってのってレベルじゃねえぞこれ。
はは、はははははは………」
いやあ、乾いた笑いが出ちゃったね。すげえ出た。
んで、手から力が抜けて、校則全書をポトリと落としちゃった――。
召愛が怒鳴り、プロ野球選手なみのナイスセーブで、校則全書が床に落ちる前に拾い上げた。
そして、焦りきって、ぜぇぜぇと荒い息をあげちゃってる召愛。
「退学になりたいのか、君は。
校則全書を粗末に扱うのも、御法度だ!」
「や、やっぱ、そんな決まりまであるのか……?
こんなんが、いくらでもあんのかよ」
「大まかに見た限りでは、基本条項と呼ばれるものが613個ある。
さらに基本条項から派生した、派生条項を合わせると1000以上になるようだ。朝起きたときから、寝るまでの全てに決まりがある」
「おはようから、おやすみまで、地雷源を歩くようなもんだな
夢が広がらないどころか、絶望が広がっちゃってんぞ……」
「今日は大人しく、本当に大人しく、何もせずに帰って、校則全書を読み込むべきだ」
「だな。
地雷がどこに埋まってるか、見えるようにしておくのは必須だぜ」
「明日からは二人で協力しよう。
お互いが校則違反をしないように、監視し、注意しあうんだ」
「召愛のくせに、まともなアイディア言うじゃないか」
「分担作業で行こう。
お前は前半500個くらいの条文を暗記してくれ。
俺は後半を担当しておく。これなら、労力が半分で済む」
「わかった。これからは、学校では片時も離れないようにしよう。
毎朝、駅前で合流してから登校するんだ。帰る時も同じくだ」
俺たちはまるで第二次世界大戦のオーバーロード作戦で、オマハビーチに上陸した米軍兵士たちみたいにガシッと握手したのだった。
女子と片時も離れないという普通に考えればロマンスたっぷりな約束をしたというのに、そこにはラブコメの欠片すらなく、地雷源を共に突き進む覚悟を決めた、戦友の絆だけがあった気がする。
「あ、そうだ。アメリカ大使館などの電話番号を調べておいたから、アポを取っておいてくれ」
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