人の罪を赦すなら、あなたの罪も赦されループに入ります。③
文字数 3,472文字
んで。
教室に戻ってから、俺が一人でトイレに行った帰りだ。
廊下に遊田が立ってたよ。
っと、俺を観察してるみたいな顔つきでだ。
俺は目だけ合わせて、すれ違おうとした。
けどだ。
これが昭和の漫画とかに出てくるような番長に言われたら、びびったりするんだろうが、女子から言われるなら、例え相手がろくでもない事をしでかした奴であろうと、なんとなくワクワクしてしまうのが、オスの悲しい性分という奴だ。
ましてやその相手が、他の男子いわく――
というような、いかにも元芸能人然とした雰囲気で、華のある顔立ちの女子とくれば、半分ハーメルンの笛吹き状態に陥って、付いて行ってしまうのは仕方ない。
これにクレームがあるなら、製造責任者に電凸してもらうしかない。
そして、辿り着いたのは階段の最上階、屋上へ出るための扉の前だ。
昼休みまでは施錠されてるから、朝なら、絶対に人が来ない場所だ。
まあ、その話しだろうとは思ってた。
「小学校の頃とか、朝礼で言われなかったか。
『自分がされたら嬉しいと思うことを、他人にしましょう』と。
召愛の行動原理はそれだ。
つーか、それしか考えてない単細胞生物だ。
校長先生が小学生相手に綺麗事で言うような事を、そのまま実行する。
その場でもっとも困ってる人の立場になって、自分がされたら嬉しいと思うことを、その相手に全自動的にしちまうんだよ」
俺は笑うしかなかった。
たぶん、召愛の側近であるはずの俺が、召愛を貶してると思ったんだろう
「たぶん、遊田、お前は俺を誤解してる。
俺はお前と同じ側の人間だ。
召愛の行動は理念としては理解できるし、すごいとも思うが、ガチで実践したら、気味が悪いにもほどがある。そう考えてしまうダメなタイプの人間だ」
――ガスッ!
っとね、脛を蹴っ飛ばされたぜ……
――召愛と出会った日、商店街であったことの一部始終を話したよ。
そしたら、遊田はドン引きすると同時に、感心してるようにも見えた。
召愛の行動はそういうリアクションを呼んでしまう。
素直に感心だけできりゃ良いのだが、あいつの行動は善人としてのレベルが度を越しすぎてて、気味の悪さを感じさせてしまう。
あるわけない。
狂気的とも言えるのが召愛の行動であって、合理的な理由など考えつくわけが無い。
ぷいっと顔を背けて遊田は言ったよ。
階段を下りていったよ。
そうしてたらだ。
なんか上から物凄い勢いで遊田が駆け下りてくる足音が聞こえてだな。
踊り場まで来た時に、いきなり、ギュムッと俺の襟が後ろから掴まれた。
いきなり言われてもな……。
ポスター貼りは昨日のうちに終わったし、あとはビラ配布と辻立ち演説の触れ込みくらいだが、そのビラと辻立ち演説が完スルーされちまってる現状では、行き詰まっちまってる。
すると遊田は愉快そうに笑い出したよ。
「それをむしろ、アンチ召愛の急先鋒であるお前に訊きたい。
どうやったら、召愛のイメージを変えられる?
お前が生活相談室で言ってたような『独善的で、協調性の欠片もなくて、ええ格好しいで、他人を踏みつけても何も思わないサイコパス』こういうイメージをだ」
遊田はニッコリ笑いやがったよ。ほんとに嬉しそうにだ。
良い性格してやがる。
ここんところ、俺も召愛や羽里みたいな良い子ちゃんとしか、会話してなかったせいで、素直にゲスなリアクションしてくれる奴を見ると、安心しちまうぜ。
これぞ人間だってな。
そこで俺と遊田は同時に、階段の踊り場の掲示板に目をやったよ。
あった。
ばっちり、あった。
こんなのがだ。
『前期文化祭のお知らせ。
5月17日より、準備活動が解禁されます。
ホームルームで出し物を決めるため、各生徒は予め、企画を考えておきましょう』