羽里彩は言った。「羽里学園は完璧な学校であり、幸せは生徒として当然の義務です」②
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三十分後。その寮とやらの前に行ってみた。
そこはやたらと広い学園敷地の端っこ。
校舎からは雑木林で見えない位置にあるでっかい一軒家のようなもの、だった。
で。
近くに大型のヘリコプターが駐機してあり、それが運んで来たのであろう家具や、荷物を、運送業者のお兄さんたちが、運び込んでいる。
召愛が指をさしたそのウサギ型のフワフワなクッションは、あっという間に寮に運び込まれてしまった。
よく見れば、俺のステレオらしき物も、運ばれていくのが見える。
もちろん、自宅に置いてあるはずの物だ。
作業の邪魔にならないように注意しながら、寮の中へと入ったよ。
玄関や廊下が広々していて、エレベーターがあること以外は、一般的な二階建ての住居とそう変わらないように見える。
そしてフローリングの居間に、行ってみたら――居たのだ。
羽里がいた。
搬入作業の指示をテキパキと、業者さんたちへ、しているとこだった。
羽里さん、怖い顔で申請書を広げて見せました。そして、指さしたんです。
それは。
『要被重監督者は専用の寮へ入寮する』
バッチリ書いてあったぁあ!
すると羽里さん、別の条項を指さしました。
『入寮費用は学園側が負担する。だが一方的な理由で、キャンセルした場合は、それら費用を返済すること』
ペラリと、伝票を渡されたが、日常生活じゃお目にかかれない桁の数字が並んでらっしゃる!
契約書よく読まずに、ヘリ使った引っ越しちゃった費用の返済とか、親に頼めるわけねぇ!
諦めろ。受け入れるしかない。
俺たちは真新しい白い壁紙の天井を見上げたよ。
照明の他に、お椀を逆さまにしたような機械装置が見える。
「防犯カメラのない場所、私室、トイレ、風呂には、二名以上が同時に入ると、警報が鳴り、警備員が駆けつけます。
僚友と共に勉強するなどの場合は、私室ではなく書斎などを利用するように。ここまでで、質問は?」
すげえ、羽里。
召愛の斜め上質問に、ごく普通に答えやがった。
召愛と年単位で付き合うと、このくらいのスルースキルが身につくのか……。
羽里は、驚きながらも、逃げるそぶりも、抵抗するそぶりもなく、されるがままに、抱きしめられたよ。
その表情はとても複雑そうで、素直に喜びたいけど、それもできない、みたいな感じに見えた。
とだけ言ったけど、その後の言葉は、聞こえなかった。
そこまでしか言葉を紡げなかったのかも知れない。
羽里が心を完全に開くには、まだ時間が必要そうだった。
こいつら二人きりでしか素直に話せない事もいっぱいあるだろうし、邪魔するもんじゃない。
さっさと居間から退散したよ。
パンフレットによると私室は二階だ。
俺が廊下を歩いて、階段上がっていく後ろから、召愛の感極まっちゃった泣き声が聞こえてきてたね。
このまま二人が仲直りして、羽里が召愛の言うことを聞き、校則をまともにしてくれるまらハッピーエンドで申し分ないんだが――本当にそう上手く事が運んでくれるだろうか?
むしろ、二人が日常的に接するようになる分、衝突する機会が増えてしまうだけではないか?
もしかしたら、決定的に二人の仲が裂かれてしまう事になるきっかけが、今日のこれで。全ての悲劇の始まりではないか。
そんなネガティブな事を考えてしまうのは、きっと寝不足のせいだ。
夕飯あたりまで、ぐっすり眠れば、きっとスッキリするさ。
そう祈りながら、俺は自分のネームプレートの掛かった個室に入り、ベッドに身を投げ出した。