私はあなたを、これからも友と呼ぶ。真心の全てをあなたに知らせたいからである。
文字数 2,882文字
その親友が居る寮へ、どんな顔して帰ればいいか、わからなかったんだ。
明日から、どう遊田へ接すればいいのか、考えながらだ。
それは出口のない思考の迷路を、さまよい歩いてるようなもので――
答えなんざ……出るわけがなかった。
オーケー。
ならば、こうしよう。ない頭を絞るのは止めだ。真っ向勝負でいくしかない。
明日からも、親友として居続けたいと、その気持ちだけを、ちゃんと届けられれば、それでいい。
一応、お礼にスイーツくらいは奢ってやると約束したわけだしな。
小遣い一ヶ月分くらいで、買えるだけ買ってきた。
バカみたいだ。わかってる。こんな事で、慰められるかなんて、自信はないし、的外れな行動をしてるようにも思える。
たぶん、大人になったら、あんときゃ随分ガキっぽい事したと笑い話になってしまうんだろう。けど、いいんだ。今の精一杯が、これなんだからな。
居間に居たのは、召愛と羽里だけだった。
二人はテーブルにノートPCを持ち込んで、ネトゲをやってたぜ。
平和な平和な光景が、まだここにはあった。
鍵の事は、一応は言っておいた方が良いだろう。
キッチンの冷蔵庫に、買ってきたケーキやらを詰め込んだ。
冷蔵庫に物を入れる時は、持ち主の名前を書くルールになっている。
パッケージには『イスカ』と名前を書いた。
こうしとけば、あいつが腹を空かして冷蔵庫を開けた時にでも、発見するだろう。
それから、俺は二階に上がって、遊田の私室の前に来た。
何か声を掛けなきゃいけない気がしたが――。
結局なにも思いつかなかったんだ。
翌朝。
登校する準備を終えてから、居間へ下りて行ったら――
召愛と羽里が、クッションの上で、折り重なるようにして寝てた。
だらしない格好でだ。
二人とも口を大きく開けて、涎たらしてな。
ヘソ出して、両手、両足をおっぴろげてるぜ。
テーブルのノートPCに、ゲーム画面が開いたままになってるのを見るに、
〝寝落ち〟だ。夜遅くまで二人でプレイしてる途中で居眠りしちまったんだろう。
いつもなら、みんなで朝飯を食ってる頃なわけで、起きなきゃいかん時間だ。
反応なし。
ダメだった。二人ともぴくりともしない。
だが、俺はネトゲ中毒者を一発で目覚めさせる魔法の呪文を知っている。
『サイサイ』とは羽里のネトゲRPGのキャラ名である。
すると、羽里はガバっと起きた。
そして、血走った目をギンギラギンにして、ノートPCに向き合い、画面を食い入るように見たのだが、パーティーが全滅してるどころか、安全な街にキャラが居るのを確認して、ほっと胸を撫で下ろしたのだった。
と、抗議しつつも羽里はPC画面にメール着信がある事に気づいて、それをチェックしてだな。いきなり大きな溜息をついて、悩ましそうに、こめかみを押さえた。
羽里は必死に召愛を揺さぶり起こし始めたよ。
だが、召愛は――
などと寝言をほざいてる次第である。
俺は飯を食おうと一人でキッチンに行って、冷蔵庫を開けて気づいた。
昨日、詰め込んでおいたスイーツの大半が無くなってる。
どうやら、遊田は俺が寝てる間に、大食いしたようだ。
そういや、あいつの姿は見えないが……一足先に登校したってことだろうか。
顔合わせるのも、気まずいんだろうな……。
そんで、俺たち三人が登校して来た時だ。
こんな張り紙がしてあった。
『防犯カメラなど一部のセキュリティシステムが使用不能になっています。
なお、セキュリティ会社からの詳細は次の通りです。
[データの記録ルーチンに、致命的な不具合が発生し、これまでの全記録データが初期化され、バックアップにも自動で初期化されたデータが上書きされてしまいました。
心よりお詫びを申し上げ、一刻も早い復旧を行う事を約束いたします]
以上』
さらに、今は、どんな事をやっても、記録には残らない。
そいつは、昇降口の隅っこでスマホで誰かに電話を掛けながら、俺たちを見てたようだった。が、すぐに目を逸らされた。
正直、良くない予感がした。