【三日目】そして、おっさんは言い出した。「愛こそ全て」
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こう、あれだ。
ほんの数十センチの距離まで、近づいて――向かい合ってしまったわけだが。
召愛は、俺と目を合わせるんだが、すぐに恥ずかしそうに逸らしてしまってだな。それでも、がんばって俺と目を合わせて来ようとしてるわけでな。
その表情や仕草が――ああ、なんてこった。
俺はこいつを、可愛いと感じてしまってる。とてつもなく、愛しいと思ってしまってる。そして、そんな可愛くて愛しい相手をだな。これから、ペロペロするわけでだな。
おい、心臓。俺の心臓。
ちょっと速く脈打ちすぎてませんかね?
やった。
――ペロペロ
はい、自分の顔面がすんげえ熱くなっていってですね。
たぶん、茹で蛸みたいになっちまってるんだろうな、と自覚しちゃったよ。
と、する度にだな――
だからこそ、無心にペロペロするしかなかったのだ。
ペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロ!
『ずるいも何もないだろうが』
なんて言い返そうとしたが、口を開く前に、唇が〝何かに〟よって塞がれた――物理的にだ。
その〝何か〟は、とてもとても柔らかな物で、しっとり湿っていて、温かく感じた。
それが、〝召愛の唇〟で、これがキスである、と理解した時にはもう、召愛の両手が俺の肩に添えられていて。
俺は立ち尽くし、ただ、彼女の手を握りかえして、されるがままになるしかなかった。
信じられない音量で、心臓が高鳴っていた。
周りからも、声援が聞こえた。なんで声援なんか上がってんだと思った。口笛を吹いてる奴もいる。拍手まで聞こえる。馬鹿野郎、拍手までしなくたっていいだろ。
ああ、でも、それより馬鹿なのは、たぶん俺たちだ。
入学初日からアホばかりやってたが、今日のは特大だ。
だが、気にするな。どうせ変人コンビ扱いだ。
ならば、これからだって、盛大にこの道を突き進んでいけばいい。
三日ぶりの我が教室だった。
たかが三日ぶり。
それでも、まるで何年も帰って来られなかった場所に、帰ってこれたような、深い感慨があったね。
そして、自分の席に座った。窓際だ。一つ後ろには、召愛の席。
俺の居場所だ。
ホームルームが始まり担任が喋り出してすぐ、召愛が俺の肩を後ろから叩いてきた。
真顔でこれだ。
入学したての頃だったら、俺は半笑いで、肩でも竦めてたろうが、どうしてか――
もし将来、俺が子供電話相談室の相談員になったりした時に、こんな質問を受けたとしよう。
『僕は16歳の男子高校生です。実は今日、人生で初の彼女ができてしまいそうな運命を不本意にも感じてしまったのです。しかし、その相手が、イエス・キリストの生まれ代わりを自称しだしたのですが、どうすればいいでしょうか?』
そん時、俺はこう答える。
『運命に向かって直進しろ。全力疾走で』とだ。