人の罪を赦すなら、あなたの罪も赦されループに入ります。②
文字数 2,716文字
ところがだった。
その放課後だった。
寮に帰ったあとから、召愛に奇妙な電話が掛かってくるようになった。
それは例えば。
などと、いずれ中年男性で、名乗りもせずに、いきなりそんな事を言ってきたという。
俺はわかってしまった。
たぶんだが、盗まれたポスターが最悪の使われ方をしている。
例えば、あのポスターに、援助交際相手を募集する旨と、電話番号を書き込んで町中に貼り付けておく、とかだ。
我ながら下卑た発想だが、嫌がらせをする側としては、これ以上に面白いポスターの使い方もないだろう。
生徒会長候補が援助交際相手を募集してたらどうだ?
しかも話題の羽里高生で、炊き出し騒動の時にテレビに登場した召愛その人とくれば、ろくでもないおっさんたちにとっては、これほど、そそるものも無いだろうしな。
度を超した悪行だ。
普通に召愛が売春事案の重要参考人になっちまいかねない。
こればっかりは、我慢してればそれで済むという問題じゃなくなる。
俺は召愛を説得して羽里へ相談させたよ。
そして、日没後、羽里から連絡が来た。
学校の警備職員に駅前を捜索させたところ、やはり俺が懸念した通りのポスターをいくつか発見し、剥がしてきたそうだ。
貼られてたポスターを持って、俺たちの寮へ報告に来た羽里は、玄関先でそう言ったよ。
「被害者本人への加害のみならず、地域社会へ悪影響を与える行為は、見過ごすわけにはいきません。今朝の防犯カメラデータから、ポスターを窃盗した生徒を既に、割り出しています。
明日、その生徒が犯行を認め次第、退学処分とします」
翌朝。
いつもの登校時間よりも、ずっと早い時間に、俺たちは羽里から電話で呼び出された。
生活相談室に行ったよ。
俺もポスターを盗まれた時に現場に居た人間だから、一緒にだ。
そこには、羽里ともう一人、クラスメイトの女子が待ってた。
おそらく……犯人として連れて来られたのであろう、本人だ。
そいつの顔を見た瞬間、俺は動機を理解してしまった。
炊き出し事件の時に、三角巾とマスクを外して、カウンターに居た一人で、運悪く一番目立つ所に立ってしまっていた奴だ。
そのせいで、事件直後の動画サイトのコメントなどでは、クラスの誰よりも悪役として罵詈雑言を浴びせられることになってしまった。
逆恨みと言ってしまえば、それまでだが、気持ちだけなら、わからんでもない。
名前は確か……遊田イスカ。
会議机の上に紙袋と、その中身であったらしい、召愛の選挙ポスターが置かれていた。
遊田は召愛を睨み付けてたよ。
羽里は呆気にとられて、絶句したよ。
でもそれ以上に驚いていたのは、遊田の方だ。
さっきまで召愛を険しい目で睨んでいたのに、今は何が起こったのかまったく把握できていなそうに、目を白黒させてしまってる。
まあ、召愛さん野郎なら、こんな事を言い出すだろうとは思ってた。
あまりの事に、遊田はまったく反応できない様子。
でも、すぐに気を取り直して。
「そ、そうよ。
名座玲召愛は、独善的で、協調性の欠片もなくて、ええ格好しいで、他人を踏みつけても何も思わないサイコパスで、みんなから嫌われまくってるから、お情けで、あたしが助けて上げようとしてあげたのよ!」
その調子だ。
まったく遊田よ。とんでもない事をやらかしてくれたもんだが、召愛本人がこれじゃあ、俺からの怨み節を、お前にぶつける意味もない。
恩を着せるつもりもないが、ここは上手く切り抜けてくれ。
やれやれな事に、それが被害者本人の望みらしいからな。
もちろん嘘だが、ポスターを持ってる可能性があるのが、遊田だけじゃなくなれば、誰が悪用したかは証明できなくなる。
「念のために言っておきますが。
生活指導の場において、虚偽証言があった場合、停学半年が加重される事になります。召愛、コッペ君は、当然、退学となります。
本当に、これらの証言を撤回しなくても良いのですね?」
俺も肩を竦めて、頷くしかなかった。