【三日目】そのおっさんが続けて言った。「だからこそ、ペロペロせよ」
文字数 3,069文字
俺たちを乗せたヘリはグラウンド脇のヘリパッドに着陸した。
俺と召愛は校舎へと向かって、芝生のグラウンドを歩き出した。
そして、中庭でだ。
大勢の生徒や職員たちが、待ち構えていた。
その先頭に居たのは、ちびっこいツインテールの奴――
羽里だ。
クリップボードを持ってて、そこには一枚の書類が挟んである。
俺の前まで来て、羽里はそれを見せてきた。
「コッペくん、あなたが通う学校を探していると聞きました。
であれば、この新生・羽里学園を強くお勧めします」
「だ、だいたい、校則でも、違反による退学者の復学は認められてなかったはずだろう」
「ですから、ここは新生・羽里学園です。
全ての校則は、一点一画もあまさず成就されつつある。今日から、違反による退学者でも、強い反省を示せば、復学が可能となりました」
「でも〝真犯人〟の俺が、復学なんかしたら、お前の母親が――羽里家当主が黙っちゃいないだろう? 俺だってお前の友人なんだ。悪影響がどうとか言って、イチャモン付けてくるに決まってる」
「それについてですが、昨日の夜、このような事がありました――
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「夜分遅くに申し訳ない。先日の『生徒会長に対する工作事案』に関して、どうしても御当主に取り次いでもらいたい要件がある」
暗くなった頃に、傷だらけの顔の波虚(はうろ)が羽里の家を訪れたそうだ。
「申し訳ありませんが、前日までにアポイントメントを頂いてない場合は、面会をお断りさせて頂いております」
「人間一人の人生が掛かっている緊急の要件だ。
『工作事案の真犯人に関する核心的な情報がある』と伝えて欲しい」
「初めまして。
わたくしが、羽里家当主。羽里 姫麗留(はり ひれる)です」
「このような出で立ちで申し訳ありません。
私は羽里学園の生徒。波虚 栄(はうろ はえる)です。
単刀直入に申し上げます。先日の工作事案、真犯人は――。
「私が仲間を率いて行いました。
仲間と協議の上、ここに、客観的な証拠になる物品を全て持参しました。ご自由にお調べになって構いません」
葉虚が提出した証拠の数々は、説明不要なほど決定的なもので、波虚自身が犯人であることを示していたそうだ。
さらに葉虚が提出したのは、膨大な量の書類――
それは署名、だった。
「これは、昨日から羽里学園の生徒、職員たち皆が集めた署名です。
今事案で、自ら真犯人を名乗り出た生徒、『コッペ』と呼ばれる彼の復学を、嘆願する旨です。どうか、寛大な処置を頂けないでしょうか」
「犯人でなかったコッペ少年に、寛大な処置など必要ありますか?
彼は即刻、復学されるてしかるべきです」
「しかし……あなた方の退学は免れないでしょう。なのに、なぜ、今頃になって、自首などを? このまま黙っていれば、良かったであろうものを」
「いいえ。言わずとも結構です。どんな言葉よりも、ここにあなたがこうしてやって来た事が、全ての証明になっている――
彩へ、伝言を頼めませんか?」
「こう伝えてください。『良い学校を作りましたね。あなたこそ、羽里家の跡継ぎに相応しい』と」
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「あたしも、署名いっぱい集めてあげたんだからね。
そりゃもう、過労死する寸前くらいまでね」
「遊田さんは、映画の打ち合わせを蹴って、一昨日から昨日にかけて、署名集めに走り回ってくれました。個人で集めた署名の数に関しては、ナンバーワンです」
じゃあ、一昨日に、遊びに行こうぜと誘った時に、断られたのも……。
映画の仕事とかじゃなくて、俺の署名を集めてたからか……。
「けどだな……。そうなると、葉虚の奴らは……やっぱ退学に」
「彼らは昨日付で、退学になっています。
しかし、今日付で復学しました。強い反省を示した根拠については、先ほど自首してきた話しで十分ですから」
俺は葉虚に駆け寄ってだな。強引に肩を組んでやったぜ。
んで、ギチギチに抱き寄せてだな。頭をぐりぐり乱暴に撫でてやった。
「あ、ちょっと待ってください。重大な見落としをしていました。
やはり、復学は認められません」
羽里は、校則全書をペラペラとめくりだした。
それは良く見ると、『新約校則全書』という新しい物だった。
「校則ではこうなっています。
『虚偽によって、交際相手を傷付ける。または精神的な負担を強いた場合、退学とする』
コッペ君は、大講堂で虚偽の自首をしたことによって、召愛に多大な精神的負担をかけました。あの後、召愛が何時間泣いていたか、知っていますか?
おかげで、わたしが慰めるために、何時間、頬ずりをグリグリされたか、わかりますか? 頭をグリグリされすぎて禿げそうになりました」
「反省が見られないようですね。よって復学手続きは中止とします」
「あ、あの理事長……ここは、そんな硬いことを言う場面では……」
「
だまらっしゃい! 校則は校則です。例外は認められません」
うわぁ……。
新生しても、羽里はやっぱ安定して羽里だった……。
媚びぬ、退かぬ、妥協せぬ。
「この場合、強い反省を示す行為として、認められるのは――校則によるとこうあります。
『新校則、第11条。強い反省とは、行いを悔い、自らの在り方を、改めることである。これは本来、内的な行為であるが、他者へもその意思を伝える必要がある場合、以下が該当する。
その①頬をペロペロ
その②鼻をペロペロ
その③おでこをペロペロ
以上」
うわぁ……。
なんか、新生校則、すんごい頭悪そうな感じになってやがる!!
「他に、十分な反省を示す行動を思いつかなかったんだ……。
土下座などよりも、心から反省している事を示す場合、やはりペロペロしかないと」
ほんとに良いのか……こんな奴に校則作らせて……。
ブラック校則じゃなくて、なんか得体の知れないカラーの校則になっちまってんぞ。
「では、コッペ君。強い反省を示すというのならば、やってください。
この場で、ペロペロを、召愛へ!」
「え……。ペロペロ……? 召愛を?
この場、って、学校のみんなが見てる前、で?」
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