思い出
文字数 1,223文字
「ゲームか本でも持って来ればよかった。」
メキシコの目的地までトータルで1日はかかる。
「暇だ。」
最初の4時間は、頭の中を整理するのに必死だったが、考えるのをやめたとたん飽きてきた。ボーとしていると、北海道に残してきた3人との昔のことがよみがえってきた。
夏美と会ったのは中学になってからだ。彼女は札幌から転校してきた。公務員だった父が、実家の農家の跡継ぎのために戻ってきたのだ。彼女は、田舎暮らしを最初は嫌がっていたが、元々運動神経がいいので都会よりも田舎のほうが向いていたようだ。ボイッシュなところがスポーツ男子に人気があったが、誰も彼女には勝てず、結局は誰とも付き合うことはなかった。そんな、彼女がなぜ富羅と仲良くなったかといえば、万年ジャージ姿の地味な彼女を勝負の審判にしたからだ。大抵の女子は、密かに好きな男子がいたりして、夏美をねたんでいる。そういうこともなく、中立でジャッジしてくれそうに見えたのだろう。父が夏美の実家の手伝いに行っていたことや、おせかっかい焼きの彼女だから頼まれれば断れないということもあったかもしれない。中学を卒業すると、スポーツをするために青森の学校に行った。
弥子と勉は小学校から一緒だった。弥子の家は原発によるいわゆる土地成金だった。そのせいなのか、お嬢様気質で自分の思い通りにならないと機嫌が悪くなる。たから、他の子達はあまり近寄らなかった。
「富羅ちゃん。弥子ちゃんを入れてあげて。」
学校の先生は富羅の面倒見の良さを利用して、なにかと弥子と組ませた。おかげで弥子も富羅といるのが当たり前のようになっていた。
勉の母親の実家は、漁師だった。父親は横浜の大学で講師をしている。母親は勉の出産と両親の介護を兼ねて父親を残し、泊に戻ってきた。勉は以来、祖父母の家で育った。富羅と勉は家が近かったので小さいときはよく一緒に遊んでいた。運動音痴の勉は、中学までは泣き虫だった。それがいじめかどうかわからないが、泣かした相手を有無も言わさず富羅がとっちめる。そんな関係を知らない夏美は、勉と富羅を何かとくっつけようとする。勉の泣き虫は夏美が来て、ピタッと止まったというのに。まったく、わかりやすい奴だ。卒業すると、勉は高校受験を機に東京へと出た。当初、彼は密かに夏美と同じ青森の学校に行くつもりだったが、運動音痴の彼にはハードルが高かった。おそらく、夏美の性格なら彼氏はできないだろうと思ったのかもしれないし、スポーツ推薦でやがて東京の大学に行くだろうと予想して、待ち伏せしているのかもしれない。とにかく、頭のいいやつの考える事は予想できない。
そんな、二人はつきあうでもなく、SNSだけは他の同級生に紛れてちゃっかりやり取りしているようだ。弥子も、そのSNSは見てるようだが、発信はしない。富羅は面倒で参加していない。農業高校は自分で選んだ道だが、まわりからは当然変人あつかいされるからだ。
メキシコの目的地までトータルで1日はかかる。
「暇だ。」
最初の4時間は、頭の中を整理するのに必死だったが、考えるのをやめたとたん飽きてきた。ボーとしていると、北海道に残してきた3人との昔のことがよみがえってきた。
夏美と会ったのは中学になってからだ。彼女は札幌から転校してきた。公務員だった父が、実家の農家の跡継ぎのために戻ってきたのだ。彼女は、田舎暮らしを最初は嫌がっていたが、元々運動神経がいいので都会よりも田舎のほうが向いていたようだ。ボイッシュなところがスポーツ男子に人気があったが、誰も彼女には勝てず、結局は誰とも付き合うことはなかった。そんな、彼女がなぜ富羅と仲良くなったかといえば、万年ジャージ姿の地味な彼女を勝負の審判にしたからだ。大抵の女子は、密かに好きな男子がいたりして、夏美をねたんでいる。そういうこともなく、中立でジャッジしてくれそうに見えたのだろう。父が夏美の実家の手伝いに行っていたことや、おせかっかい焼きの彼女だから頼まれれば断れないということもあったかもしれない。中学を卒業すると、スポーツをするために青森の学校に行った。
弥子と勉は小学校から一緒だった。弥子の家は原発によるいわゆる土地成金だった。そのせいなのか、お嬢様気質で自分の思い通りにならないと機嫌が悪くなる。たから、他の子達はあまり近寄らなかった。
「富羅ちゃん。弥子ちゃんを入れてあげて。」
学校の先生は富羅の面倒見の良さを利用して、なにかと弥子と組ませた。おかげで弥子も富羅といるのが当たり前のようになっていた。
勉の母親の実家は、漁師だった。父親は横浜の大学で講師をしている。母親は勉の出産と両親の介護を兼ねて父親を残し、泊に戻ってきた。勉は以来、祖父母の家で育った。富羅と勉は家が近かったので小さいときはよく一緒に遊んでいた。運動音痴の勉は、中学までは泣き虫だった。それがいじめかどうかわからないが、泣かした相手を有無も言わさず富羅がとっちめる。そんな関係を知らない夏美は、勉と富羅を何かとくっつけようとする。勉の泣き虫は夏美が来て、ピタッと止まったというのに。まったく、わかりやすい奴だ。卒業すると、勉は高校受験を機に東京へと出た。当初、彼は密かに夏美と同じ青森の学校に行くつもりだったが、運動音痴の彼にはハードルが高かった。おそらく、夏美の性格なら彼氏はできないだろうと思ったのかもしれないし、スポーツ推薦でやがて東京の大学に行くだろうと予想して、待ち伏せしているのかもしれない。とにかく、頭のいいやつの考える事は予想できない。
そんな、二人はつきあうでもなく、SNSだけは他の同級生に紛れてちゃっかりやり取りしているようだ。弥子も、そのSNSは見てるようだが、発信はしない。富羅は面倒で参加していない。農業高校は自分で選んだ道だが、まわりからは当然変人あつかいされるからだ。