青春

文字数 1,118文字

 特別機はカンクン国際空港に降りた。ここなら、外国人も多いし、治安もまずまずだ。とりあえず観光客を装いホテルにチェックインする。そこから、セノーテのある地域へと車で移動する。
 崖のしたに青や緑の丸い穴が見える。観光客の来ない崖の上に迷彩柄の軍人が数名いた。
「まだ、動きはありません。」

 日本の自衛隊員が安蔵に報告する。
「この周囲に、シナプスという木人が住んでいる。彼らは、独特の言葉を使っているらしい。今まで解読できた者はいない。」
 父親の説明は聞くまでもなかった。富羅は一日様子を見た。彼らが行動するまで、とりあえず昼寝をする。夕方、日が陰ると彼らは水中から出てきた。食料と思われる木の実を集めて戻ってくる。

 果たして彼らが友好的かはわからない。富羅も監視されているので、うかつには動けない。
「こんなことなら、あいつも連れてくれば良かった。」
 富羅は今更ながらに、瑠真を残してきたことを後悔した。
「雑音が多いから、少し離れてて。」
 父が近く居ては安心できない。

 シナプスの一部は移動準備をしているようだった。話は断片的にしかわからなかったが、どうやら捕虜を別の洞窟へつれていくらしい。ここから、移動されたらやっかいだ。また、探索に何年かかるかわからない。

 一方、日本ではアルマとシナプスの弱点研究をしていた。植物由来のシナプスなので乾燥と火には弱いだろことは予想された。しかし、原発敷地内ではどちらも決め手にはならない。現在どこまで進化したかわからないアルマに弱点があるのかはさらに不明だった。そのため、何としても春馬教授たちの持つ標本を手にいれたがっていた。
「人間のおごりが招いた災いだ。」
 勉の父親は、知識人として政府の無計画な経済優先主義を批判していた。考古人類学を得意とする彼は、勉には常日頃から
「親の言うことでも、常に疑え。人は一人では、狭い価値観でしか物事を見る事ができない。だから、寄り集まって、先入観の持たずに、価値観の共有をすることが大切なのだ。」
 と、説いていた。だからなのか、毎日、瑠真を連れ出して、村の中を案内しているそうだ。
「男同士っていいなあ。」
 そう思いながら、富羅は夏美からのメールの続きを、父親の端末経由で呼んだ。
「お陰で、あたしも毎日つき合わされてるよ。」
 あ!あいつ、夏美に会いたいから、瑠真をダシにしてやがる。

 弥子は、蛇やトカゲのおもちゃを集めて爬虫類に慣れようとしているらしい。いきなり生きているものはハードルが高いので死体で練習するそうだ。
「蛙、鶏肉みたいで意外。今度は、トカゲの黒焼きに挑戦するぞ。」
 それって、方向性間違ってる。
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登場人物紹介

羽合 富羅(はあい ふら)

農業高校1年で寮暮らし。ジャージ姿。伸長約140cmのチビで地味。植物の声が聞こえる。夢は樹木医。

夏休みを北海道泊村の実家で過ごす。

春馬 瑠真(はるま るま)

富羅の実家の村に移住してきた。身長約180cm。知識はあるが性格は子供。カメレオンを腕に乗せ散歩させている。

夏美(なつみ)

富羅の中学の同級生。スポーツ万能。勘違いから富羅と勉をくっつけようとしている。

弥子(やこ)

富羅の幼馴染で中学まで同級生。土地成金のお嬢様。両性類や爬虫類が嫌い。瑠真を好きになる。

勉(つとむ)

富羅の幼馴染で中学まで同級生。勉強はできるが運動はダメ。夏美のことが好き。

ドクター・春馬

泊村の診療所の女医。元遺伝子治療の研究者。

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