ヒーロー

文字数 1,142文字

 弥子のばあちゃんの話によると、最近見かけない外国人観光客が増えたという。彼らは、漁港と診療所の付近に頻繁に出没しているらしい。もはや、夏美達3人の協力は不可欠だ。父のことは話せないが、シナプスのこと、アルマと春馬教授のことを話した。

「時々、おかしなことを言う不思議ちゃんと思ったら、植物と話してたんだ。」
 夏美は驚いていた。幼馴染の勉と弥子はどこまで信じていたかはわからないが、おおよそは知っている。
「大人は信用しちゃだめだ。」
 勉の言葉は強い口調だった。東京で何かあったのかもしれない。

 頭脳担当の勉。戦闘担当の夏美。諜報担当の弥子。特殊能力の富羅と瑠真。チームとしては完璧だ。何だか、自分たちがヒーロー戦隊になった気分だ。
 車の運転ができる大人が一人もいないのも心もとない。瑠真の家は弥子が猛反対したので、本部は診療所。瑠真の母に協力してもらおう。
「遊びじゃないのよ。」
 彼女は、軽く注意したが、それ以上何のことは言わなかった。ヒーローごっこもしたことのない瑠真にはちょうどいい遊びと思ったのかもしれない。

 勉の見立てによると、春馬教授が生きていることを聞きつけて、近辺の監視が強まったのだろうということだ。瑠真の移植のことはおそらく知られていない。チームの当面の目標は瑠真を彼らから守ること。
「いっそ、家に来たらいいんじゃない。うち、空き部屋あるし。なんなら、離れを建ててあげるよ。」
 弥子のやつ、発言がだんだんと大胆になる。もしかして、既成事実ってやつを狙ってる?

「いや、あの子たちが移動したがってないからやめておくよ。」
 そりゃ動物たちも食べられるかもしれないと思えば怖いでしょうよ。しかし、何でこんなにイライラするんだ。富羅は理解しがたい感情を忘れるために、別のことを考え始めた。
「夏美の勘違いをどうやって気づかせようか?」
 お化け屋敷に閉じ込めようか。いや、気の弱い勉が泣き出すかもしれない。そもそも夏美はお化けを蹴り飛ばしそうだし。つり橋の上に置き去りってのはどうだ。だめだ、絶叫もの大好き少女だった。

 あれ?あいつらが二人っきりでいた時があったな。あ、思い出した。受験勉強の時だ。でも、次の受験は2年後だ。
「ところで、チーム名はあるの?」
 まったく考えてなかった。
「富羅がリーダーだから。フラレンジャー・・・。」
 なにそれ。最悪なネーミング。
「リーダーって決まって無いし。」
 富羅は拒否した。
「富羅がしないなら、私がする。ヤッコ隊。」
 それ、白虎隊だし。わがままな弥子にだけはさせられない。
「リーダーなし。チーム名なし。」
 だいたい夏美と勉をくっつける計画が狂ってしまう。富羅は断固として譲らなかった。
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登場人物紹介

羽合 富羅(はあい ふら)

農業高校1年で寮暮らし。ジャージ姿。伸長約140cmのチビで地味。植物の声が聞こえる。夢は樹木医。

夏休みを北海道泊村の実家で過ごす。

春馬 瑠真(はるま るま)

富羅の実家の村に移住してきた。身長約180cm。知識はあるが性格は子供。カメレオンを腕に乗せ散歩させている。

夏美(なつみ)

富羅の中学の同級生。スポーツ万能。勘違いから富羅と勉をくっつけようとしている。

弥子(やこ)

富羅の幼馴染で中学まで同級生。土地成金のお嬢様。両性類や爬虫類が嫌い。瑠真を好きになる。

勉(つとむ)

富羅の幼馴染で中学まで同級生。勉強はできるが運動はダメ。夏美のことが好き。

ドクター・春馬

泊村の診療所の女医。元遺伝子治療の研究者。

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