真実

文字数 1,077文字

 SNSは嫌いだ。実のない話のために時間がとられるし、いつもチェックしなくてならない。だから、富羅の携帯は電話とメールだけ。スマホじゃないから、流行のアプリも入らないので同級生の話題にはついていけない。それでも、学校からの連絡はそれで事足りた。

 本来なら学校は8月末から新学期が始まるはずだった。しかし、東京を中心に混乱が続いているため、冬休みを無くして延長することになった。富羅は寮だから冬の道内でも通学に困ることはない。しかし、一般の学生は大変だろう。

 富羅は、シナプスやアルマなどわけのわからないことに悩んでいた。以前なら、大抵のことはネットや教師が教えてくれた。でも、情報が消されている。うかつに質問して、ブラックリストにでも乗ったら大変だ。さんざん考えたが、質問できる相手は一人しか思いつかない。
 瑠真に聞いても詳しくは教えてくれない。結局、瑠真の母親に尋ねる以外にない。急患が出れば、診療所を開けなくてはならないが、とりあえず休診日に診療所を訪ずれた。
 裏口から入る。
「麦茶とジュースどちらがいいかしら。」
 そういいながら女医は、冷蔵庫から麦茶の入ったボットとオレンジジュースの瓶を取り出してきた。
「おかまいなく。」

 富羅は、まずはシナプスのことから聞いた。
「一億年ほど前に生きていたらしいわね。夫も詳しくは話してくれなかったけど、地下で活動をする二足歩行の植物だったらしいわ。先月、突然地上に現れて世界中の原発が占拠された。彼らのボスがアルマという同じ古代の翼竜。氷漬けから蘇生したけど、逃げ出した。アルマは古代の生物の頂点にいた。彼は究極の進化生物。他の生物のDNAを取り込んで進化し続ける。」
 話が急すぎてついていけない。富羅は話をさえぎった。自分なりの解釈が済んでから、一番の疑問点をきいた。
「ドクター・春馬。遺伝子治療の研究者だったそうですね。それがどうして、泊村に。」
「最近は。ネットで何でも解るのね。息子は生まれながらに遺伝子の病気だった。神様は皮肉よね。遺伝子治療の研究をしていた私に、遺伝子疾患の息子をさずけるなんて。夫が研究していたアルマの細胞は進化するといったでしょ。その細胞を移植して、あの子は一命を取り留めたの。その後、アルマが逃げ出し、研究所は破壊された。夫たちは、残っていたアルマの組織を持ち出して身を隠したの。私たちは人目につかないこの村に越してきた。今でも、夫が連絡してくると思って、色々な国のスパイが私達を監視している。」
 あのときの視線は、それだったんだ。富羅は納得した。
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登場人物紹介

羽合 富羅(はあい ふら)

農業高校1年で寮暮らし。ジャージ姿。伸長約140cmのチビで地味。植物の声が聞こえる。夢は樹木医。

夏休みを北海道泊村の実家で過ごす。

春馬 瑠真(はるま るま)

富羅の実家の村に移住してきた。身長約180cm。知識はあるが性格は子供。カメレオンを腕に乗せ散歩させている。

夏美(なつみ)

富羅の中学の同級生。スポーツ万能。勘違いから富羅と勉をくっつけようとしている。

弥子(やこ)

富羅の幼馴染で中学まで同級生。土地成金のお嬢様。両性類や爬虫類が嫌い。瑠真を好きになる。

勉(つとむ)

富羅の幼馴染で中学まで同級生。勉強はできるが運動はダメ。夏美のことが好き。

ドクター・春馬

泊村の診療所の女医。元遺伝子治療の研究者。

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