悩み
文字数 1,304文字
こうして世紀の会談の準備は始まった。中継もない、極秘の会談。しかし、人類にとってはその生存をかけたものだ。これを、自分達ではなく、他の種族にまかせるというのはどんなに歯がゆいことだろう。
「まるで大国をバックにした2国間協議のようだ。」
しかし、実際の大国は、今でも自分達が有利に、いや政治家本人が有利になるように行動していた。大統領、首相、委員長、国によってその呼び名は変わっても、思うことは同じ。皆、自分がいかに長く、その権力座にいるか。地位は力であり、それを失ったものが、自業自得であってもいかに悲惨な末路をたどっているかは歴史が教えてくれる。
他人を信用しないものほど、他人からも信用されない。
種としての問題に、いまだに個に執着する人々を、大阪や名古屋周辺では、目の当たりにした。富羅は、人間がわからなくなっていた。
村の歴史の授業で、年寄りの話を何度か聞いた。
原発が来るまで、村人は皆、親切で、困ったときは自分達の食べ物を分け合った。宿に泊れない旅人がいれば、快く家に招きいれた。まるで、家族のように暮らしている。だから、子供が泣いていれば誰の子でも抱き上げてあやす。いたずらをすれば、知らないおじさんにだって容赦なく叩かれる。動けない老人は、近所で面倒見る。孤独死なんてさせない。皆が皆の両親であり、祖父母であり、子供であり、孫でもあるのだ。
しかし、原発によって村は豊かになった。人の出入りも増えた。やがて、人々の交流も減り、共同体の意識が希薄になってしまった。個人が裕福なるにつれ意識がかわり、村の子供、村の老人ではなく、うちの子供、うちの年寄りと使う言葉も変わってしまった。
どっちがいいのかと問われてもわからない。でも、確かな事は、貧しくても豊かでも人は必ず悩む。同じ深さでもがく。どこまで行っても、決して水面から顔を出すことはない。騙し絵の階段の住人のように永遠に頂上へ到達する事はない。これが、煩悩であり業であり、人の性というものなんだろう。
小学校の作文で、父の仕事について書いたことがあった。当時は原発に反対する人も多くて、まるで犯罪者のような嫌な想いをした。あの時、自衛官だと知っていたとしたら、それはそれで戦争屋のような言われかたをしたんだろうな。農家の子が羨ましかった。ちょっと手伝っただけで褒められる。ほとんど家にいない父の仕事なんて手伝いようがない。母の家事を手伝っても、女の子だからと当たり前のよういに言われる。父が退職後に農家をするといったときは嬉しかった。でも、今は微妙だ。自衛官だと知ってなおさら微妙になった。原発の仕事はじり貧でも、滅多に死ぬ事は無い。でも自衛官となれば、はるかに危険だ。大作先生のように生きていても五体満足でなくなることだってある。でも、そんな重たい仕事だから、ちょっぴり誇らしくもなる。
ふと、横の瑠真の顔を見る。
「こいつはどういう想いで生きているんだろう?」
聞いていいものか迷った。
「いいたいことがるなら、はっきりいったほうがいい。」
ちらちらと顔をみる富羅に、瑠真は前を向いたまま言った。
「まるで大国をバックにした2国間協議のようだ。」
しかし、実際の大国は、今でも自分達が有利に、いや政治家本人が有利になるように行動していた。大統領、首相、委員長、国によってその呼び名は変わっても、思うことは同じ。皆、自分がいかに長く、その権力座にいるか。地位は力であり、それを失ったものが、自業自得であってもいかに悲惨な末路をたどっているかは歴史が教えてくれる。
他人を信用しないものほど、他人からも信用されない。
種としての問題に、いまだに個に執着する人々を、大阪や名古屋周辺では、目の当たりにした。富羅は、人間がわからなくなっていた。
村の歴史の授業で、年寄りの話を何度か聞いた。
原発が来るまで、村人は皆、親切で、困ったときは自分達の食べ物を分け合った。宿に泊れない旅人がいれば、快く家に招きいれた。まるで、家族のように暮らしている。だから、子供が泣いていれば誰の子でも抱き上げてあやす。いたずらをすれば、知らないおじさんにだって容赦なく叩かれる。動けない老人は、近所で面倒見る。孤独死なんてさせない。皆が皆の両親であり、祖父母であり、子供であり、孫でもあるのだ。
しかし、原発によって村は豊かになった。人の出入りも増えた。やがて、人々の交流も減り、共同体の意識が希薄になってしまった。個人が裕福なるにつれ意識がかわり、村の子供、村の老人ではなく、うちの子供、うちの年寄りと使う言葉も変わってしまった。
どっちがいいのかと問われてもわからない。でも、確かな事は、貧しくても豊かでも人は必ず悩む。同じ深さでもがく。どこまで行っても、決して水面から顔を出すことはない。騙し絵の階段の住人のように永遠に頂上へ到達する事はない。これが、煩悩であり業であり、人の性というものなんだろう。
小学校の作文で、父の仕事について書いたことがあった。当時は原発に反対する人も多くて、まるで犯罪者のような嫌な想いをした。あの時、自衛官だと知っていたとしたら、それはそれで戦争屋のような言われかたをしたんだろうな。農家の子が羨ましかった。ちょっと手伝っただけで褒められる。ほとんど家にいない父の仕事なんて手伝いようがない。母の家事を手伝っても、女の子だからと当たり前のよういに言われる。父が退職後に農家をするといったときは嬉しかった。でも、今は微妙だ。自衛官だと知ってなおさら微妙になった。原発の仕事はじり貧でも、滅多に死ぬ事は無い。でも自衛官となれば、はるかに危険だ。大作先生のように生きていても五体満足でなくなることだってある。でも、そんな重たい仕事だから、ちょっぴり誇らしくもなる。
ふと、横の瑠真の顔を見る。
「こいつはどういう想いで生きているんだろう?」
聞いていいものか迷った。
「いいたいことがるなら、はっきりいったほうがいい。」
ちらちらと顔をみる富羅に、瑠真は前を向いたまま言った。